ハクトの こころのやみ
第9話 オレとハクはこうして繋がって
「ところでハクト。さっきから気になっていたんだけど、それ何?」
ハクを風呂に入れ、部屋にもどってきたオレ達にグリーンが問いかける。
グリーンが指さした先には、ハクの背中の下あたり。ちょうど尾てい骨のあたりから伸びる白い線のようなものがあった。
その線が伸びる先は、オレには当然見えないが、オレの首筋、うなじのあたりに繋がっている、はずだ。
「お、いいところに気がついたの勇者」タオルでじぶんの髪を拭きながら、ハクが答える。
「なにその紐? ロープ?」
「アンビリカボォケーブル!」元気よくハク。
「しっぽだろ」とオレ。
「ちがう! アンビリカボォ↑ケーブル!」カボォの部分の発音にはこだわりがあるらしい。
「アンビリカブケーブルね。はいはい、わかったよハク」しっぽのほうが簡単でいいじゃん。と思いながらオレは答える。ハクが観ていたアニメから得たであろうネーミングだったが、本人は相当気に入っているようだ。
「わかればいいのじゃシロ」
「そのハクちゃんのしっぽが、なんでハクトと繋がっているの?」ハクのアンビリカブケーブルをオールスルーするグリーン。
「むー」不満そうなハク。
ほら……不機嫌になった。仕方が無い――
――ふにふにふに。
オレは、柔らかくて、なまあなまたたかいハクのしっぽを、手でふにふにする。これ結構すきだ。
「あ、くすぐったいのじゃ……」身をよじらせるハク。
「そんで? どうしてオレと繋がっているのか? だって。ハク、続き」
「んっ……そうじゃった……。シロの中からでてしまうと、苦しくてすぐに活動限界が訪れてしまうわしは考えた。そしてある事に気がついたのじゃ。カラダの一部分でも繋がっていれば、随分と楽だということに。まぁ、手でも足でも別にいいんじゃが、しっぽがいちばんしっくりきたというわけじゃ」
「へぇ……、そうなんだ……」リアクションに困っている様子のグリーン。
「最初の頃は、オレの背中から上半身をだしたり、オレの胸から顔をだしたりと、かなり無茶をされたことも付け加えてくれ」
「そしてこの、アンビリカボォ↑ケーブルは、がんばれば、かなり細く長くすることができるのじゃ!」ほこらしげに胸を反らすハク。
――これにより、オレがだいぶ助かっているのは事実だった。
オレの中に引き籠もりのハクは外に出たがらない。そうするとハクがオレの中で寝ているときはいいのだが、起きているとハクは喋りたいことを勝手に喋るから、オレの生活がめちゃくちゃになる。というか、……なった。
ぐたいてきには――
授業中にアニメの話をしたり。
授業中にマンガの話をしたり。
授業中になにかの技名を叫んだり……。
授業中に……。
ぜんぶ、オレの口から!!!!
うわああああああああああ!!
嫌だ! 今でも想い出したくない!
あのときのオレに対する周りの視線。視線……。視線。
生まれてはじめて浴びた種類の人の視線。人ってあんなに冷たい視線を飛ばすことができるんだね……。
想い出す。
望まぬデビューすぎた、鮮烈すぎるオレの夏休み明けデビュー。
オレは夏休みの間に、ハクを身体に棲まわせた影響で髪が白くなり、瞳が真紅になっていた。そして、間の悪いことに、自転車で転けたオレの左腕にヒビが入っていて。ギプスに包帯を付けていた。さらに間の悪いことに、まぶたを蚊にくわれていて……。
眼帯をして登校した。これだけでも相当なインパクトだ。
……その上で、アニメの台詞をハクが授業中ずっとしゃべっていた。
どんな結果を招くかは一目瞭然。
その……、最悪だったよ。
うん。いろいろと、もう無理。オレは心がバッキリ折れた。学校なんていけないよ…………。これで、普通にいけるわけ、ないよ……………………。
「ハクト? だいじょうぶ? なんか具合がわるそうだけど……」
グリーンがオレの顔をのぞき込んでくる。
「あ、ああ……。過去を……あの、忌まわしい過去を想いだしていた、だけだ……」
戦場帰りの兵士ばりに、オレの心には深いトラウマが根付いている。
……誰かオレに心のケアをほどこしてください。お願い。
「ハクト。額に汗が浮かんでいるよ……」そういってグリーンは、懐からハンカチを取り出し、オレの額にとんとんと当ててくれた。その布地から、すこし良い香りがする。
「グリーン。おまえ……。ありが――」
「友人達のことは、ほんとうに残念だったね……」
「(おまえの頭もほんとうに残念だったね……)と」そんなことを想いながらも、オレにとっては意外だったグリーンの行動に、すこしだけ感謝した。
「あ。言い忘れたのじゃ。アンビリカボォ↑ケーブル。わしのオリジナルだから、真似しないでよ!」
「「できるかっ!」」オレとグリーンの声が仲良くハモった。
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