グリーンの こころのやみ

第10話 オレが食われろ。と言う勇者

「で? グリーン。なんでこっちの世界に来たんだ?」


 オレはずっと気になっていたことを聞いた。

 ……なんか、ようやく本題に入れた気がする。


「……うん。ブルーに言われてね。なんでも近いうちに魔王以上の大きな危機が訪れるから、それに備える為だって……」


「なるほど。それが【震撃のグリーンブルーファンタジア】セカンドシーズンの巨人達っていうことか……」


「そうみたい……。そこで、異世界最強の力をもつ者に助力を仰ぐために……」


よくある? 話だった……。でもフツーは、オレがグリブル世界に召喚されたり転生したりしないだろうか?


「異世界ね。まぁ、たしかにそうだろうな……」


 オレは傍らの少女に視線をなげる。

 神様で竜王でもあるハクは、自分がこぼしてしまって、残りすくなくなったクルピスを、ちびちびと舐めている。


「その力を借りるために、あたしにとってはこちらの世界。ハクト達の居る世界に来たって訳。それと……」


「それと?」



「なんであたしがグリブルユーザー人気投票で三位なんだよ! おかしいだろ!」



「そこかよ!!」


「ぜったいおかしいよ!」 


「……うん。おかしいのおまえ」


「これぜったい、なにかの陰謀だと思う!」


「陰謀て、……なんの?」


「そりゃあ、あたしが人気投票三位で利益を得ている者だよ!」


「利益を得ている者? そんなやつは特にいないと――」


「ブルーよ! だいたいおかしいじゃない! なんでブルーが一位なわけ? そんなのぜったいありえないし。きっと票を操作したり……いえ、魔法でユーザーの心を操作したりしたんだ。きっとそうだ。なんて汚い奴」


「……汚い奴だな、おまえは」


「はっ……、もしかして。……ハクトの心もすでにブルーの魔法で……」


「おまえが三位なのは、そういうところが原因なんじゃないのか? ……うざいし」


「うざいってなんだ!」


「あーもう、うるさい! 声大きい。おまえの意見はわかった。他には? 他には”ブルーが”何か言っていなかったか?」


「ブルー? あんなやつの言ったことなんて……」


「いいから、何かないか?」グリーンの話では、らちが明かないのでオレは先を促した。……というか、ブルー本人が来てくれたほうがよかったのに、色々と。本当に。 


「……あ、思いだした。そういえば……あたしを救うためだって、ブルーが言っていた。そのときは意味がよく判らなかったけど……」


「おまえ、そのままグリブル世界に居たら、巨人に食われちゃうしな――ぷっ」


「そこ笑う所じゃないから! くっそ、あたしじゃなくてハクトが食べられれば良いのに!」


「どういう勇者様だよ! 食われろて」


「むしろ苦痛が長引くように、足の先からすこしずつ食われろ!」


「もう勇者の発想じゃねえよ! 苦痛を長引かせろて!」


「そして、できるだけ小さいサイズの巨人がいいわね……」


「小さいサイズ? どうしてだよ?」


「ハクトをいっぺんに食べられないから。うふふふふ。なんなら複数匹の女形小型サイズ巨人に嬲られながら、ね。ちょっとずつ味見されながらキャッキャウフフとね」


「キャッキャウフフて、オレの最期が最悪すぎるだろ! おまえ怖いよ、それ勇者というよりも、魔王の発想だよ! むしろ魔王のほうが慈悲のこころあるよ!」ブルーさん目の前に魔王を超えた大魔王がいます! 緑の大魔王を退治してください! その究極魔法で! なんならオレの生命エネルギーも使って!



「心配しないで、だいじょうぶ。あたしがハクトをバッチリ救うから!」 


「……お、さすがは勇者、いちおうはオレを救ってくれるのか――」


「まぁ、ぜんっぜん間に合わないんだけどね! ごめん! もうすこしはやければー」


「遅れる気マンマンかよ! 間に合えよ!」


「あたしは、ハクト――だったもの。を見て、巨人相手に戦う決意をする……」


「決意?」



「駆逐してやる!!」



「おまえが駆逐されろ!!」



 ……単純元気勇者キャラだと思われた、グリーンの意外な一面をみた。

 というか、さっきから意外な一面ばかりをみているような気がする……。勇者といえども人の子。心の闇は誰にでもあるということなのか……。おもったより深いよ、その闇。光が強ければ、それだけできる影もまた濃いということなのか……。


「グリーン様……た、すけ……コプォ」


「もういいよ!」


「えー。これからがいいところなのに……」口をとんがらせるグリーン。

 オレの最期を演じているグリーンは笑顔でキラッキラしている。


「グリーン。おまえ、こころの底から愉しそうだな……」


「……そういうシロも、さっきから愉しそうじゃけど」ハクがぼそりとつぶやいた。



「「たのしくないっ!!」」オレとグリーンの声が再びハモる。



「って、真似すんなグリーン!」「真似しないでよハクト!」


「ほーなかなかの意気の合いっぷり。仲がよいことでうらやましいのう。若いものはいいのう。いいご縁じゃったのう。わしのかわいいシロにも、ついに春が……」


「へんなことをいうなハク!」「誰がこんなやつ!」


 オレとグリーンはお互いに、にらみ合って――

 フン!と、お互いにそっぽを向いた。


 グリーンを横目で覗くと、綺麗な髪からとびだした耳の先が紅い。


「シロ。お主耳があかいぞ-」


 ――ッ。そんなことはない!



「……ざ、残念だったなグリーン。おまえの言う”オレが巨人に食われる”という、その希望が叶うことはないぞ。なぜなら、こちらの世界には、オレの世界には、巨人なんて居ない――」


 あ、……なるほど、そういうことか。


 ブルーの言っていたという言葉の意味がわかった「グリーンを救うため」という意味が。

 巨人のいないオレの世界に来てしまえば、グリーンが巨人に遭遇することは無いだろう。だとすれば、そもそも巨人に食われてしまうこともないはずだった。ブルー賢い子。


「……事情はだいたいわかった。そうすると、こっちに来た方法は?」


「ブルーの魔法で。もともと瞬時に世界を移動できる魔法があるんだけど、それを改良したって言っていた」


「あ、やっぱりそうだったんだ」移動魔法を改良して異世界間移動って、魔法べんりすぎるだろ……。


「ブルーすごいのよ……。魔王を倒してから、その魔力は日に日に強くなっている。不可能はないんじゃないかっていうぐらい。もう、ちょっと怖いぐらい……ね」


「ふーん。そんで巨人の危機や、お前の死を予見していることになるよな?」


「なんかよく解らないけど、そうみたい……ね――たぶん。魔王を倒したときに入手したアイテム《魔王の瞳》のおかげだと思う。あれからなんか変わったから、彼女」


 そういうグリーンの表情は暗く真剣なものだった。


「クルピスが、なくなってしもうた……」


 そういうハクの表情も暗く真剣なものだった。

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