第20話 発火スマホ。ギャラクティカノーツヘイブン

「グリーンあきらめんなよ! 勇者だろオマエ!!」


 オレの人生で、こんな台詞をリアルで吐かなきゃならない日がこようとは……。なんで、モブ仲間みたいなしょぼい台詞をリアルで吐かなきゃならんのか……。すんげーじぶんの人生嫌になる。


「……で、でも。あたしはもうダメだ……。こんどというこんどはダメ。どうすればいいハクト? 教えてよ!」


「教えてといわれても……」


「あたしは世界を救った勇者だけど……」


「……勇者だけど?」


「魔王を倒して、奪われた平和をとりもどし、世界を直すことができても……」


「…………」


「スマホは直せないよ!!!!」


「ちっとも、うまくないわ! あとドヤ顔!!」


「……そうだ、まずはカスタマーサービスに電話して! 保証期間内なら無償で交換してくれるかも!! 送料は自己負担かもしれないけどそこはガマンして! くれぐれも故意で壊したっていわないで、あくまでも不慮の事故で、……いや、ここは紛失ね。スマホあんしんサポートサービスに入っているハクト? 月々480円で故障や紛失等にも24時間あんしん対応してくれる、それなら!」


「……ずいぶんと冷静な判断だな、おい」


「!? ハクトまさか……。スマホあんしんサポートに入っていないなんてことはないよね?」


「ショップのお姉さんに薦められたけど、断った」


「なんてことを!」


「だって、いがいと高いし……」


「わずかなお金で安心が買えるなら、その安心は買わなきゃダメだよハクト。最近のスマホは、いつ急に発火するかもしれないんだよ!」


「それはごく一部のメーカーの、ごくごく一部の新製品だけだ!」



「ソマホンの『ギャラクティカノーツヘイブン』ね……」



「ぐたいてきな商品名はやめて!!」


「航空会社によっては、機内放送で『商品名』を名指しで使用禁止だったと聞いて、びびったわ……」


「びびったって……。妙にいろいろと、くわしいなグリーン。おまえ本当に異世界の住人か?」


「異世界っていっても、あたしの場合はスマホのゲームだから、ハクトの世界のことについては詳しいんだよ。ハクトがあたしの世界についても詳しいように」


 なぜか胸を張るグリーン。


「……そんなものか」


「……そんなものだよ。異世界といっても、お隣さんな世界同士だよ。だからこうして行ったり来たりできるんだよ」


「いまはできないけどな。その、行ったり来たり」


「……そうだった」ガクッとうなだれる。現実?リアル に引き戻されたグリーン「あたし、これから。どうしよう……」


「その『どうしよう……』は、グリブル世界にもどれなくてどうしよう……なのか? それとも、母上に朝までグリブル誘われてどうしよう……なのか?」


「どちらかというと、後者かな……」


「ですよねーーーー」


「……だって、たしかに『震撃のグリーンブルーファンタジア』元の世界にはもどれないんだけど……そこはブルーがなんとかしてくれるから、きっと大丈夫!」


 勇者はおもいっきり、他人任せだった……。


「ブルーのやつは気にくわないけど、実力はすごい子だから……。じっさいあの子がいなかったら、グリブル世界は滅んでいたと思う。勇者のあたしよりも、あの子の存在が大きかったんだ……」


「――!?」 


 暗い表情をみせるグリーン。陰った陽の光が、さらにその印象を強くする。


「世間では勇者のあたしが持ち上げられているけど……実際は……」


 グッ――と、唇をかんでいるように見える。


「だから……大丈夫なんだ。そう、大丈夫。――グリブルには………………………………あたしが、居なくても……。あたしなんか……」


「グリーン……!?」


「はっ!? ――って、ハクト。何をいわせるの!」


 すぐに、いつもの明るい表情にもどるグリーン。


 ……垣間見た。

 グリーンには、オレには想像することしかできない、ブルーにたいしての複雑な感情があるようだ……。

 グリーンとブルーは共に魔王を倒すために戦った。その目的は達したのだが。その過程で彼女が知ってしまったことがあったのだろう。実力を出し切って真剣に戦ったことで思い知らされたこと……。自分より優れている存在『ブルー・マルレーン』のことを。

 仲間とはいえ、自分よりも優れた実力の者を前にして、どのような感情を持ちうるのか。……いや、仲間だからこそ、距離が近いだけに、その想いはいっそう強いのかもしれない。もしかして、キャラ人気の順位にこだわったりするのも……。

 勝るものには理解できない。まさに――負の感情。

 そのグリーンの負の感情を前にして、いまのオレにはかける言葉がうかばない。


「でも……フェニ子さんのほうはブルーも助けてくれない……。どうしようハクト」


 いつもの笑顔のグリーン。


 そんなグリーンに、いまは、かける言葉がうかばない……。いつかは、いい言葉がかけられるといいんだけど……。彼女がこころの底からの笑顔をうかべられるような。曇りのない笑顔をむけてくれるような、そんな言葉を……かけてあげたい。なんでだろう? オレは会ったばかりのグリーンに、そんなことを思ってしまった。

 いまは、かける言葉がみつからないけれど……。だとすれば、オレは言葉を紡ぐしかない。


 すうっ――と、息を吸い。オレも笑顔をかえす。


「そりゃあ、母上と朝までグリブルコースだな!」


「うええ、やっぱり?」


「そういうのも、いいんじゃあないかな。愛にはいろんな形があるよきっと、うん」


「いろんな愛の形……」


「おまえの愛の形なんぞ、オレはぜんぜんっ興味ないけどな!! ふはは! 手折たおられろ」


「本音!? 手折たおられろて!」


「安心してくれ。オレの脳内では、牡丹の花びらが――ボタッ。と落ちた的な表現で濁しておくから」


「ハクトの脳内だけで完結!? なんの救いにもなっていない!!」


「明日の朝、大人の対応しかしないから」


「大人の対応?」


「……ゆうべはおたのしみでしたね(ニッコリ)」


「ちょ、バリトンボイス自重!! なんていう外道なのハクト! むしろいまからゲドーと名乗るがいいわレベル!」



「だから…………!」

「…………!?」

「…………」

「……」



 紡ぐ。グリーンとオレの、とりとめもない会話。

 内容はよく覚えていない。


 暮れゆく陽。 

 いつもの河原。土手沿いの空間がひどく荒涼としたものに感じた。


 オレたちは斜陽に立つ。

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