第21話 食べ損ねた魔法のオムライス。からの
家に戻ると、居間のソファーで母上が突っ伏していた。
「母上!?」「フェニ子さん?」
「…………」
反応がない。
「なにをしているんですか? 母上」
「……なにも」
「……あの? 晩ご飯は?」
「もうダメなの……」
「?」
「だって食材ないんだもん! 車といっしょになくなったもん! 夕ご飯つくれないんだもん!」
「……あ。そうでしたっけ」
母上は晩ご飯の食材を買いに出かけたのだ。その帰りにグリーンの放った必殺技『グリーンスラッシュファイナル』の被害にあった。
いちおうハクのせいにしてあるけど……。
「ゴメンナサイ」横にいるグリーンが、ことばの意味に気がついて母上にあやまる。
「!? グリーンちゃんは悪くない。悪いのは白起でしょ! ごめんねグリーンちゃん。フェニ子特製オムライスをつくってあげられなくて……」
……あ、それでメイド服なんだ母上。
食べたかったなー特製オムライス。なにが特製かって、仕上げにメイド服姿の母上が胸でハートつくりながら『ふぇに~♪ ふぇに~♪』と、ケチャップでイラストを描いてくれるという、男子垂涎の逸品。
どうみても、ひよこにしかみえないフェニックス(らしい)イラストがツボ。
腹よりも胸が満たされるという、人類を幸せにしてくれる魔法のオムライスだ。
ちなみに味は、ごくフツー。
「出前とりましょう。寿司でも」
「お寿司でいいの? グリーンちゃんって外国の方? ……でしょ?」
「ええと……、そうですね。この国ではないどこか。という意味ならそうなります……たぶん」
言葉を濁すオレ。そういえば、ゲームキャラクターであるグリーンは何人になるのだろう? グリブル人? 異世界人? たしか国名あった気がするけど、そんな設定まで覚えていない。
「ピザとフライドチキンとコーラのほうがよくない? ハンバーガーとオニオンリングとか……」
「それ、特定過ぎる国の人すぎ! ……いえ母上、最近は世界中で日本食ブームですから、寿司で『ワーオッ! ファンタスティック!!』ってなること請け合いです」
その世界中には、グリブル世界までは含まれてはいないだろうけど……。
「……そうなんだ。じゃあ、ハッ君お願いね」
そういって、母上はグリーンにおいでおいでをする。
「その格好じゃ疲れるでしょ? フェニ子の服貸してあげる。きがえましょ!」
グリーンの返事をまたずに、その肩をごういんに押して、出て行った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「わあ。きれい」
届いた寿司桶を前に、瞳をいっそう輝かせるグリーン。
なぜかミイクコスをしている。
「……いや、なんでミイクコスなんですか? 母上」
ミイクとは『初値ミイク』だ。もはや説明はいらないだろう有名キャラクター。もとはボーカル音源ソフトの箱絵だったが、その優れたビジュアル性から広く受け入れられて、派生したゲームやフィギュアでも大人気を博しているキャラクターだ。
「え? グリーンちゃんぜったいに似合うとおもって。すごくない? 似合いすぎだよね……フェニ子嫉妬しちゃう」
「……まぁ、そうですけど」
確かに似合っている。地毛のエメラルド色が『初値ミイク』として違和感なさすぎるし……。というか、おまえ本物か?
当人はそんなこと気にしていない様子で、目の前の寿司に熱い視線をおくっている。
「(――ハッ君。グリーンちゃんスタイルすごくいいよ。あと胸おおきい)」
オレの耳元に小声で告げてくる母上。
「――えっ!?」
反射的に視線がグリーンの胸元に――って、違うから!
即座に視線を外すオレ。
なんか悔しいぞ。
「そんな情報いらないです!」
「(またまたあ)」
肘でオレをぐいぐいしてくる母上。にたっ、とした笑顔。
「グリーンちゃん。お口にあうかわからないけど。たくさん食べてねー」
「ありがとうございます! いただきますっ!」
応えたグリーンの声音は明るい。すごくうれしそうだ。
その様子をみて。……なんか、よかったな。と強く感じる。嫌なことがあったから、すこしでも忘れてくれればいいとおもう。……って、これはグリーンとか関係ないから! 相手がだれであっても、同じように思うから!
「あ、お茶淹れてくるね」母上がキッチンに向かう。
「ハクトも……。なんか……、うん。……いろいろと、ありがとう」
ぺこりと頭をさげるグリーン。
「いいよ。……おまえもいろいろあるだろうけどさ、せっかく来たんだ。さ、食べろよ」
「うんっ」
「グリーン。これが最高においしいぞ」
オレは箸でグリーンの皿に分けてやる。
――緑の固まりを。
「……なんてきれいな緑色なんだろう」
「パクッと、ひとくちでいくといいぞ」
「じゃ、いただきま――!? え!? ……あ!? うあ゛あああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ぷっくくく! キター!! お約束でしょ。これが見たかった!」
「どうしたの! グリーンちゃん!!」
母上がキッチンから駆けつける。
「う、あ゛!? !!!!!!」
オレを指さすグリーン。言葉にならない。
「こらっ! 意地悪しないのハッ君! だいじょうぶ? かわいそうに。……ごめんねグリーンちゃん」
グリーンの頬に手をやり、じぶんの瞳にグリーンの瞳をうつしこむように、顔を近づける母上。
顔近くないですか?
「ハッ君がいじわるでごめんね」
「(――キッ。)」
涙目でオレを睨み付けてくるグリーン。
ふはは。そんな事で魔王に勝てたとはな。勇者殿もお甘いようで……。
「小学生高学年男子のままの精神レベルなんだから。男の子は好きな子にいじわるしたくなるの」
「は!?」
オレの声が間抜けに洩れる。
「男の子は好きな子にだけいじわるしたくなるの」
「ちょっとまって母上!」
「フェニ子、さん!?」
「もう……あの子。分かり易すぎるよね」
「え……、ハクトがあたしのこと……」
頬を赤らめるグリーン。
「それ、おおいに異議あり!」
「だって、ハッ君。いままでこんなこと、誰にもしたことないじゃないの。どうかんがえてもこれって――」
「ちょ、ちょい待ち! ぜぜったい、そんなことないです母上!」
「いや、これは間違いないね。フェニ子の勘が、そう告げてるなー」
「な、なななにを言っているんですか!」
「あー。ハッ君。焦ってる-」
ち、違うし! そんなのありえない!
「べ、べつに、オレがグリーンのことを好きだからって、イタズラしたわけじゃあないんだからね!」
ここでまさかのオレツンデレ。
需 要 皆 無。
えー。
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