第27話 勇者を救おう(できれば)
オレはじぶんの部屋に戻っていた。
グリーンに粉砕されてしまったスマホを新調すべく、PCの電源をいれて『
……グリーン・バーミンガム……。おそろしい子。
「
新しいスマホ機種をWEIWEIにするかFREEREIにするかで迷っている。コストを考えると断然後者だが……。
しかしグリブルを快適にプレイすることを考えると、性能もあるていどは欲しい。そうすれば前者か……。
でもオレ的にはFREEREIの水墨画タッチの竹があしらわれた、
ふと、あたまの片隅でグリーンの顔が頭をちらついた。別れるとき不安そうだったな……。母上お酒はいってたし。いつものように添い寝だけで終わるとおもうけど……。たぶん、だいじょうぶだとおもうけど……。
でも、グリーンのことだいぶ気に入ってたからな……。そろそろ様子をみにいこうかな……。でも何かあったら超気まずいし……。
――コンコン。
ひかえめに叩かれたドアの音。
オレはグリーンが帰ってきたのかと注視する。
「あの……お兄さま。私です。いいですか?」
叩かれたドアの音にあわせて、その声量もちいさいものだった。声の主は妹の小姫だ。
「どうぞ。空いているよ」
「あの……すいません。こちらに来てくださいませんか?」遠慮がちにどうしたのだろう? そんなことをいう小姫。しかたないのでオレはPCから離れて小姫のもとへと向かう。ドアをひらいてやると、首だけをオレの部屋に入れ、キョロキョロと様子を確認している。何してるのだろう? 誰もいないことを確認すると――
「……よかった」
そんなつぶやきを漏らし、安心したといった表情をみせる小姫。
「どうかした?」
「グリーンさんとは……その、まだはやいと思うんです! たしかに綺麗な方ですが、それだけでは白神の家には相応しくはないとおもいます! そもそも白神家は神である『白起』を管理するという、崇高な使命を帯びた選ばれし者なのですよ! お兄さま聞いてください! 私は思うんです。これからは積極的に力を行使していくべきだって。いまこそ、有史以来の人類の悲願を果たすのです! 世界に溢れる不平等・貧困・紛争それらを根絶するのですよ! それこそが力をもった者の義務なのだと――」
パジャマ姿で拳をグーにして熱く語る小姫。うん……いろいろと、なにをいっているんだろう? 夜だからか変なテンションになっているのかな。
「それよりも小姫! ちょうどいいところにきた。お願いがあるんだ!」
「そうして、神である『白起』の力を以て、私達兄妹がいずれ世界を統べるのです――って、お願い!? あの……お兄さま。おカオがちかい……です」
「……あのさ、母上の部屋に行って様子をみてきてほしいんだ」
「私がフェニ子の部屋に? 言葉の意味を計りかねますが……」
「……いや、小姫が部屋に戻っちゃった後、母上がお酒飲んじゃってさ。グリーンを強引に連れていっちゃったんだよ。……いや、オレは止めたんだけど」
ごめん。止めてない。なんか勢いで行かせちゃった……。
「え? グリーンさんをフェニ子の元に遣ったんですか?」
「だからさ……その、間違いがおきないように。……両者の合意があるなら構わないのかもしれないけど……。でも気になってさ……こういうときは、女の子同士の方が、なにかといいんじゃないかと思って」
「……って、グリーンさんはお兄さまの……。お相手じゃないのですか……」
「違うから! 母上のせいで変な誤解をしているみたいだけど、グリーンとは何でもないから! ほんと、ただの知り合いだから!」
「そうなのですか? ほんとうに?」
「本当だ。マジで他人。むしろリアルでは今日はじめて会った」うそはいっていない。ゲームのなか、グリブルのなかでは毎日会っていたけど……。
「よかった……あの方は異様にお綺麗なかたですけど、ちょっと頭がおか……いえ、変わった方のようなので……」
「ちょっと……な」
「そうですね……ちょっと……」すこし恐怖の影がうかんだ。グリーンは小姫の心に鮮烈デビューを果たしたようだ。さすがに『勇者砲』は、やり過ぎたか……。
「そういうわけで、母上の部屋にいってほしい」
「い、嫌ですよ! そんな役目!!」
「だって、何かあったらとおもうとさ、気になるじゃん。様子だけでいいからさ……」
「それだったら、お兄さまもきてください!」
「いや、オレ。忙しいから……。『Numazon』でスマホを注文しないといけないからさ……クリックするのが、いそがしくて」
「『Numazon』て! そんなのいつでもできるじゃないですか! はやくいきますよ! いまこの時にも、クリックされている子がいるかもしれないんですよ!」
「嫌だよ! シーツにくるまった涙目のグリーンとかみたくないよ! それならまだいいけど。泣きはらした目だったらどうするよ! そんな目なのに『だいじょうぶだよ……ハクト』なんて、笑顔を浮かべられたらオレいたたまれないよ!」
「めっちゃ想像できているじゃないですか! そんな状況だったら、なおさら私だけじゃ無理ですから! はやくいかないと!」
「そ、そうだな。とりあえず聞き耳をたてよう。衣擦れの音とかへんな声とかしたら、……手遅れだから、黙って去ろう」
「(コクコク)ですわね……」
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