白神家にあたらしい家族がふえた!

第24話 グリーンを家に泊めてほしい

「ったく……あいつら。いつも、話がながいっーつの」


 自分のスマホにあっかんべーをしながら母上がもどってきた。どうやら電話がおわったようだ。


 その隙に――ススッと、逃げるようにリビングを出る小姫。


「まって、小姫どの『ラトの剣』の話がまだ……あ、行ってしまった」


「きょうはもういいぞグリーン。じつにいい仕事だった」


「いい仕事? んーなんの話?」


「こちらの話だから。気にしないでくれ」半泣きになった小姫の顔が思いだされる。また生意気してきたらグリーンの『勇者砲』をお見舞いしてやろう。


「ふーん。べつにいいけどさ……って、そういえば! ……ハクト。あのさ……」なにやらいいずらそうにするグリーン。


「なんだ?」


「フェニ子さんにお願いしてくれるかな?」


「お願い? なにを?」


「ほら、あたし行くところないからさ……」そういって懇願するような仕草をする。

 ……そうだった。グリブル世界から、こちらの世界に来たグリーンは、とうぜん行くところも泊まるところもない。いちおうオレのスマホから出てしまった以上、オレが責任をとらなければいけない。……のか? やっぱ、そうなるか……。スマホ壊したのグリーンだし、いろいろと釈然としないけど……目の前にいるいじょう仕方が無い。しばらく我が家に泊めなきゃいけないから、いちおう母上に許可をとらないと。グリーンのことをえらく気に入っているから心配ないとおもうけど。


「でも大丈夫。庭と毛布を貸してくれればいいから。あたし野宿はなれているからね」屈託のない笑顔でそんなことをいう。


 いくらグリーンが勇者で、脳がすこし……いや、かなりミドリムシ悩なやつでも、女の子に野宿なんてさせられない。

 ……け、けっしてグリーンがどうという話ではなくて! 純粋に人として、そんなことをさせられないという話だからね!

 それに我が家は旧家なだけに部屋だけは無駄に余っている。どの部屋でも好きにつかってもらえばいいし、神様のハクが棲みついていたりするんだから、いまさらゲームのキャラが増えたところで問題は無いだろう……。


「……さすがはプロの冒険者。でも。さすがに野宿はさせられない。ここはオレに任せてくれ」


「うん」グリーンは首を縦に振り、人なつこい笑顔をかえしてきた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



「おつかれさまです母上」オレはタイミングを図り、大人がだいすきな麦ジュース缶を母上に渡す。プルタブを起こすのも忘れない。グラスに注ぐのもいいけど、母上は直接いきたい派だから……。


「ありがとー」そういって缶の液体を一気にながしこむ母上。かなり長時間話していたので、喉も乾いていたのだろう「ハッ君は、なんてやさしい子なんだ。よしよし」そういって――ガバッと、力強くハグをしてきた。オレの顔面を圧迫する弾力が×2。

 ……なんて心地よくて男の子をダメにする圧力なんだ。

 い、いや……母上だからね! 親子のスキンシップだからね!


「そういえばグリーンちゃん。たくさん食べた? お寿司、おいしかった?」


「はい! おいしかったです! あんなの食べたことがありません。魚を生で食べるなんて……って、おもったけど。とても色彩豊かで。繊細で。それでいて食べやすいように工夫されていて。どうやったらこんな料理を思いつくんだろう……って。あと、シュウユ? でしたっけ? あの黒いソースがぴったり合いました」

 ……三国志の孔明のライバルはソースじゃないぞと、心の中だけでツッコむオレ。なんにせよ、ほんとうに感動したのだろう様子が伝わってくるグリーンのリアクション。……なんかそういうのって、こっちまでうれしくなってくる。食べ物をおいしくたべる娘っていいよな……ってグリーンの話じゃなくて! 一般論としてだからね! ええと、何に釈明しているんだろう……。

 それにしても、妙に寿司に食いつくなこいつ。食い意地が張っているのかも。


「でもこいつグリーン、青魚と貝系を食べませんでした!」いいつけるオレ。


「あ、あの……ごめんなさい。それは、すこしだけ……苦手で」


「ハッ君、そういうこといわないの!」


「あと白子も!」


「あれ……見た目がちょっとムリ」


「うーん。白子はさすがに難易度高いでしょ。グリーンちゃん、好きなのだけでいいんだよ。フェニ子も白子は苦手だし……」


「母上。そこで、おりいってお願いが」


「いや! って、何処で!? 白子は? ハッ君さ……前から思ってたけど、話をきりだすタイミングおかしくない?」


「……グリーンのことなんですが」


「ついにきたね……。わかっている。なにもいわないで」


 きゅうに真顔になった母上。瞑目して上をむき、深呼吸をひとつ。息を整えているようだ。

 そうして間があって。オレ達に向き直った母上の表情は真剣そのもの。うっわ……こういう表情も可愛いなぁ。って、母上だからね!


「…………許します」


「ありがとうございます母上!」「ありがとうございますフェニ子さん!」


『グリーンのこと』だけで解ってくれた。さすがは母上。スムーズに話が進んでよかった。


「グリーンちゃん。ハッ君はこんな子だけど、とっても優しい子だから。いじわるを言うのも愛情表現だから」

 グリーンの両手をとる母上。心なしか、いつもより瞳が潤んでいる。


「え、あ……はい」妙なことをいう母上に戸惑っているグリーン。


 って……アレ? なんか、雰囲気ちがくない?


「これで名実ともにグリーンちゃんは家族だからね。ハッ君のこと……末永くよろしくお願いします」


 ……あ、これっておやくそくの。


「って、母上! そのお願いちがうーーーー!!」


「ちがうって、どういうこと? グリーンちゃんと結婚するっていう話でしょ? オッケーいいよ」


 やっぱり盛大に勘違いしている。


「ちがいます! グリーンを家に泊めてほしいだけなんです!」


「もちろんいいよ。好きなだけ泊まったって。だってハッ君のお嫁さんなんだから、ずっとずっといていいよ!」


「そうじゃなくて! お嫁さんじゃなくて! フツーに泊めてやって欲しいんです」


「!? フェニ子、いまいちフツーの意味がわかんないんだけど……」


「グリーンとは、嫁とか恋人とか、そういう関係じゃないですから! っうか、出会って半日ですから! ただの友人……いえ、知人ですから!」


「そうなのグリーンちゃん? ホント?」


「(コクコクコク)」機械的に首を縦にふるグリーン。


「またまたぁ。ただの知り合いの女の子を、いきなり家に泊めちゃうって、ハッ君どんだけー」


「ただの知り合いですけど、グリーンを泊めて欲しいんです」


「そんな子じゃないでしょ! だとしたら、フェニ子は許さないよ! めっ!」


「うっ…………」


 ……嗚呼。こういうとき独り暮らしです的な設定であったならばと、悔やまれてならない。せめて親が海外に出張しているとかそんな感じの設定であれば……。


 現実リアルはそんな便利には、できてはいない。


 ――神を身体に宿し。

 ――母上は不死身でロリ巨乳。

 ――ゲームのキャラクターがスマホから出てきた。


 そんなオレの現実リアルなくせに。……なんでここだけ不便なんだ。


 理不尽!

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