第25話 白神家の禁忌

「ハクト……どうしよ」


 よこにいるグリーンが不安げにオレをみる。


「大丈夫だ。この白神白人『任せろと』と請け負ったいじょう、その言葉に二言はない」ちな、そんな設定はない。


「なんて凜々しい表情なんだ。歴戦の騎士団長みたいだ。たのもしい……」


 騎士団長か……カッコいいな。グリーンに言われて悪い気はしない。男の子のなりたい職業ランキングで『騎士』は常に上位ランキング入りしているはずだ。さらに団長とまでいわれては、張り切りざるを得ない。ちなみにランキング一位は『武士』、二位は『騎士』、三位は『サッカー選手』で四位が『調査兵団』、五位あたりに『ドラゴン』か『吸血鬼』だろう。それが男子という生き物よ(ツッコみ待ち)。

 ……とにかく、このままでは話が進まないのでいいところをみせてやるか。


「母上! おもいだしました! グリーンはやっぱ嫁でした。そんな気がします……ひどく記憶がおぼろげですが、そこはかとなくオレの嫁かと。そのような合意を前提に協議を重ねていく関係性が構築できつつあります!」


「ハッ君てさ……ときどき訳のわからないこというよね……。んと、つまりそれって、グリーンちゃんがお嫁さんだってこと?」


「そのようで……」


「それならいいけど……」


「な? グリーン! そうだったよなオレら!」たたみかけるように、グリーンの頭をぐいっと下げさせる。


「(コクコクコク)」


「あ、さてはさては、二人でフェニ子のことからかったんでしょ? 只の知り合いだなんてウソついて。すっかり騙されたなー」


「そ、そうなんですよ、はは……」


 よし、これでいけそうだ。ふう。


 チョンチョン。んだよグリーン。


「(誰があんたの嫁よ!)」

「(この場を切り抜けるためだガマンしろ)」

「(は? もっとマシな言い訳ないの?)」

「(こっちだって、おまえみたいなアホな子が嫁だなんて迷惑千万なんだ。そこを折れてやってんだぞ。我が身を犠牲にして! これを献身といわずにして、なにを献身といおうか!)」

「(なによ!)」

「(なんだよ!)」


 オレとグリーンは、母上にバレないように机の下で小突きあい、互いの足を踏み合う。もちろん笑顔は絶やさない。


「そっか。よかった。でも、ざんねんだなー、グリーンちゃんがハッ君のお嫁さんじゃなかったら、フェニ子の部屋で朝までグリブれたのに……」


 と、心底残念そうに母上。あれ? これってもしかして、どのみち家にグリーンが泊まれるのは決定事項じゃないか……。それならオレの嫁という設定はいらないじゃないか。


「やっぱり嫁じゃなかったです。いらないです。グリーンは母上の部屋で朝までグリブるそうです」


 あっさりとグリーンを売るオレ。


「瞬時にあたしを売った!? まってハクト! さっき『オレに任せろ』て、いったでしょ! 最後まで責任もってよ!」


「だから、オレに任せてもらった以上このような結果に……頑張れよ」


「ちょ! 頑張るってなにを!」


「……タップするの」


「なんだその表現……」


 グリーンがタップするのはスマホ画面じゃないかもしれないし、タップされる方なのかもしれないが……そこは母上とよく話し合ってほしい。オレの干渉できる範囲のことじゃない。世の中にはいろんな愛のかたちがあると聞く。それに母上にタップしてもらえるんだったら、いいじゃない!

タップしても、タップされてもいい存在、それが母上!


「ふぁ……んじゃ、フェニ子は眠くなってきたから、そろそろ寝るね。二人でなかよくするんだよ。でもでも~あんまりたらダメだよ。姫ちゃんもいるんだから、ほどほどに、ね?」


 くちびるの先で人差し指をたててそんなことをいう。


「ぜったい、しないです!」「ぜったい、しません!」


「それじゃ、グリーンちゃん。また明日あそぼうねー。を自由につかってね」


「ちょっと、母上。いまなんと? と聞こえましたが?」


「あたりまえでしょ。ハッ君のお嫁さんなんだから。ハッ君の部屋をつかってね」


「いや、母上! 他にも余ってますし、グリーンが使う部屋はどこでもいいんじゃ……」


「そんなのダメ。ダメダメダメ! ぜったいダメーー!! ハッ君! なにいってんの!」


「……うっ」超まずい展開だ。母上はいいだしたらきかないのだ。


「男女ってのはね、おたがいの距離が離れると、心の距離も離れるもんなの! おなじ部屋で寝起きしてこそ夫婦なんだから! フェニ子のときも、そう……。フェニ子のとき、も……。も……くっ、ふえ……」


 そういって、拳をにぎりしめ、唇をかむ母上。を思いだしている! いけない! は母上にとって禁忌。白神家のタブーなんだ!


「あ、そういえば。ハクトのお父さんて何処なの?」


 脳天気なグリーンの、そんな台詞が茶の間に響きわたった。

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