第29話 そんなあるあるはない

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 母上とグリーンは布団のうえで重なるようにシーツにくるまっている。そのしたは……たぶん、っうか、ぜったい全裸。


 涙目でマウスを握っているグリーン。

 そんな彼女にぴったりと、うしろからしなだれかかるように母上。


 暗くされた部屋には、壁掛けされたおおきな液晶画面がある。そこにうかぶのは、とってもエッチなゲームのワンシーン。金髪ロリの娘が、存分に豊富にそそがれちゃっている……。

 母上ェ……。なにしてるんですか……。あきらかにグリブルじゃないでしょこのゲーム。


 「!? なっ! なになに! 曲者!?」


 オレの絶叫に驚いた母上が、勢いよく立ち上がった。

 そのいきおいでシーツが引っ張られて、はらりと落ちた。


 【緊急速報】――やはり二人は全裸。


 オレの視線はついグリーンへそそがれる。液晶画面の青白い光に照らされた彼女は幻想的なうつくしさを露わにしている。布団の上にいるというシチュエーションがなんとも艶めかしく、かろうじてここが現実社会日本であると気づかせてくれた。


 ……ほんとだグリーン。あるな……胸。母上から聞いてはいたが百聞は一見にしかず。かなり、ある。いつも鎧姿だから気がつかなかったが……これが着痩せするタイプという魔法効果か……。


「って、ハッ君? 姫ちゃんまで……? なにしてんの?」


「!? うっ、あああッ! は、はハクト!?」


 オレと目が合うと、手で胸を、膝をたてて前を隠す。それだけでは心許ないとおもったのだろう、涙目のグリーンは枕を引き寄せて抱くように身体を隠した。


 ちなみに母上は腰に手をあてて仁王立ち。


「……えっと。母上はまず、胸を隠して――うぶっ」


「!? ちょ、お兄さまは、みないでください!」小姫の手でオレの視界は遮られ、首をグキッとされる。


「フェニ子はぜんぜんっ、構わないんだけどねー」


「フン。フェニ子はどうでもいいけど、グリーンさんが可哀想なんです! ハイ! お兄さまは、そのまま後ろ向いて、部屋をでて居間にいくこと! 別命あるまで、そこで待機!」


「ら、了解ラジャー!」


 有無を言わせない勢いの小姫の号令に従い、オレはいわれたとおりにした。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



 しばらく時間を空けてから、小姫がオレを呼びに来たので、再び母上の部屋へむかった。


「うお!? ミイク! ……じゃなかった。なんだ、グリーンか……」


 障子をあけると、シーツを巻いた母上と、初値ミイク姿のグリーン。すっかり体勢を整えている。グリーンは顔が超赤いけど……。


「お兄さま。フェニ子とグリーンさんに聞き取りをしたんですが、このいかがわしいゲームを、やっていただけらしいです」


「そうだよハッ君。なに勘違いしてるのかなー? なにもしてないよー …………まだ、ね?」

「(コクコクコク)」首を縦にふるばかりのグリーン。


 小姫から渡されたのは、誰でも目にしたことはあるだろう高名な戦車と共に、有名な制服(スカートの丈は短い)を身につけた女の子達満載のパッケージだった。追いやられるように端っこの方には、ぴっちりとした七三分けに印象的すぎる髭を生やした主人公……。


 ……そ、そうか。

 オレはそのパッケージをまじまじと見つめる。


 タイトルは『紫陽花あじさいのブリッツクリーク』


『紫陽花のブリッツクリーク』――二次戦ドイツの将軍たちが女体化されているというエロゲだ。主人公は総統閣下さまで、……いろいろと、がんばる(超略)内容だ。もち18禁。

 ……お、オレはやったことなんて、ないからね! かなり人気があって有名なゲームだから、内容をざっくりと知っているだけなんだからね!


「母上ェ……。グリーンに、なにやらしてるんですか」


「だって……大好きなルンルンの声がグリーンちゃんとそっくりだったから、聞いて欲しくて。似てるんだよ声。本気で本人か? ってぐらい……。だから、あとで台詞を真似してもらおうとおもって……」


 エロゲの台詞を朗読て……どんなプレイですか! むしろ、なんらかのハラスメント濃厚ッ! 

 ちなみにオレの推しは敵キャラだけどジューコフ。銀髪碧眼はマジ卑怯。だから捕らえてやったった。祖国の進む方向に悩みながらも己の立場を越えぬような振る舞い。部下の命を救うために投降して仲間にしてからはメイン嫁にした。かっての祖国、かっての同胞に銃を向ける葛藤。バトル後毎に、その傷を舐めとる主人公足るオレの甘美たるや、たまら……嘘。……やってないからね!


「あの、フェニ子……。ルンルンて何? 説明して」

 こういうのに疎い小姫が母上に尋ねる。

「んっとね、このゲームにでてくるヒロインなんだけど、本名はめちゃくちゃながいんだよね……」


 母上がゲームの説明書をとりだして指さしたさきに、ルンルンと呼ばれた、その金髪ロリキャラはいた。この時点でオレには全てわかってしまっていた。注目したのは声優のクレジット部分。



【紫陽花のブリッツクリーク】

 カール・ルドルフ・ゲルト・フォン・ルントシュテット

 CV:晴宮地衣はれみやちい


 ちなみに……。


【震撃のグリーンブルーファンタジア】

 グリーン・バーミンガム

 CV:晴宮地衣はれみやちい



「ああ……なるほど……。そういうこと。そういうことね。やっぱり……」


 つまり。こういうことだ。


『震撃のグリーンブルーファンタジア』グリーン・バーミンガムの声を担当している声優と『紫陽花のブリッツクリーク』の、白濁液そそがれたっ娘ルンルンは同じ声優だった……。つまり、おんなじ声。



「グリーン。おまえ!! まぎらわしいわ!!!!」



「ええっ!? わるいの、あたし???」


 すべての謎は解けた。


 今回の事件は、ゲームのキャラクターが現実に来ると『よくあるよねー』的な、あるある。そういえるだろう――



「って、そんなあるある……。ねぇよおおおおおおおォオオオオオッ!!!!」


 

オレは両手を天に突き出しながら、大絶叫したのだった。

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