第30話 なんでこうなった

 あれから、オレの部屋にもどっていた。


 とりあえずグリーンを保護した。あのまま母上といっしょにいたら、なにがあるかわからない。

 オレの嫁だと信じる母上の意向を加味して、グリーンはけっきょくオレの部屋で寝ることになった。


 なんでこうなった……。


「……どうぞ。グリーンさんにはサイズがあわないかもしれません……けど」


 小姫がわたしたのは、自身の淡いグリーンのストライプ柄パジャマ。

 そういう小姫の表情には、びみょうな感情が交ざっている。その視線の先にはグリーンの胸元。あ、そういうことね……。

 身長をふくめスタイルはあまり変わらない二人。しかし、おおきく異なる部分が一箇所あった。かなりあるグリーンに比べて、平均サイズだと思われる小姫。ここで、そのことを口に出して言おうものなら一波乱だ。あぶないあぶない。


「あ、ありがとう小姫殿」


「ミイク姿のままではあんまりですから……。かといって元の鎧姿は問題外ですし――って、鎧のことを貶めているわけじゃないですからね! 寝るのには不向きだという意味ですからね! か、かんちがいしないでくださいね!」


 慌てて弁明する小姫。ここでまたグリーンの『ラトの鎧』エピソードをブッ込まれたらかなわない。


「うん。それはわかってるよ。小姫殿ありがとう」


 わたされたパジャマを胸に抱いて、やわらかな笑顔をうかべているグリーン。


「ほっ、よかった……。さ、お兄さま。グリーンさんが着替えるので、部屋の外にでてください」


「……お、おう」


 ここ、オレの部屋なんだけど……。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



「お兄さま、いいですよ」


 部屋の中から合図され、部屋に入ると布団が三組ならべてあった。


「え? なんで三組? オレとグリーンの分だから二組じゃ……?」そんな疑問を口にすると。


「不本意ですが、しかたがありませんわね」


 そういって、左側にひかれた布団にはいる小姫。


「あの……小姫。これって、どういう事?」


「グリーンさんを泊めるためには、お兄さまとおなじ部屋で無いとダメ。かといって二人きりで何かあったら困りますよね? グリーンさん。ですよね?」


「うん。そだね。これなら安心、かも……」


「……つまり、私は監視役といったところです。それともお邪魔でしたか? 私は部屋にもどりましょうか?」無表情で天井をみつめながらそんなことをいう小姫。


「そ、そんなことないから!」


「……よかったです。さ、お兄さまは真ん中へどうそ。なんだか今日は疲れました。照明を消しますよ。私は寝ますね……おやすみなさい」


「うん。おやすみ小姫」「小姫殿。おやすみ」


 たしかにそうかもしれない。こうなったいじょう、ベストな選択といえた。パジャマの件といい、よく気がつく。自慢の妹だ。


「ぜったい、いいお嫁さんになるよ小姫は」


「――ッ。…………お兄さまの…………バカ」


 ガバッと布団を被る小姫。


「あたしもそう思う、小姫殿は綺麗だし。誰かさんとちがって性格いいし」


「…………」


 グリーンの台詞に小姫の反応はない。


「フェニ子さん。ずっと居ていいって」


「……そうか」いや、ずっと居られると、それはそれで困るんだけど……。


「ハクトのこと、よろしくって……」


 母上は完全に勘違いをしているな……機会をみて訂正しないと。でも、どこから説明したらいいやら。気が重い課題すぎる。


「……お礼しなきゃ。なにがいいかな……そうだ、あたしが朝ご飯つくったげる」


「……いや、いい」


「えーなんでよ。あたしこうみえても料理は得意で」


「ぜったいにやめろ! わかったなグリーン! 余計なことはするな!」


「!? ちょ、なんでそんな言い方するの? 余計なことって……」


「いいから、もう寝ろ!」


「ぶーなんだハクト……」


 不満げなグリーンを押し切って、オレはこの危険な展開を終わらせる。

 グリーンみたいなキャラがご飯をつくるとか……盛大なフラグでしかないだろ。つくってる最中に異臭がしたり、下手したら爆発するんだろ? オレわかるんだ。大惨事必至だろ。そういうのいらないから……マジで。


 隣の小姫はすーすーと寝息をたてている。すこし間ができると、グリーンの寝息も聞こえてきた。


 妹とゲームのキャラクターに囲まれて寝るとか……。昨日までの、それなりに平和な暮らしからしたら、考えられないような展開に頭がついていかない。……明日からどうなるんだろう? そんなことを考えていると、オレの意識も暗闇に溶ける――そんなとき、ぬるっとした感触がした。そしてオレの肩が揺すられる。薄目をあけてみるとプラチナ髪の少女が、吐息がとどくほどの眼前にいる。ハクだ……。いまごろ起きたのか……自由すぎるだろ。いつものことだけど。


「なーシロ? 起きてるか? なー? ご飯は? 晩ご飯。おなかへったんじゃけど……」


「遅ぇよ! もう寝ろ!」


「ふえっ!? わし、いま起きたばっかなんだけど……」


 ほんと……。なんでこうなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る