白と白【シロとハク】かえれ!震撃のグリーンブルーファンタジアへ
北乃ガラナ
おんな勇者 『グリーン・バーミンガム』が あらわれた!
第1話 震撃のグリーンブルーファンタジア
「どうも~! ご存じ!大人気スマホゲーム! 美少女すぎる超大作スマホRPG! 【震撃のグリーンブルーファンタジア】のグリーン・バーミンガムで~す!」
いつものように自分の部屋でゲームを楽しんでいたら、目の前に美少女があらわれた。鮮やかなグリーン髪の美少女だ。
スマホでソシャゲーのガチャをひいたら、
身体には、過剰なまでに装飾された、西洋中世風の金属甲冑を身につけている。腰には長剣。もちろん、金属甲冑をベースにしながらも脚や二の腕などをきっちりと露出しているのは言うまでもない。ゲームの中とまったくいっしょ。
――じっさいの防御力的には、大いに問題がありすぎるデザインだと思えるのだけど……この際そんなことはどうでもよくて、コスプレでも人気があって露出が高くすばらしい衣装なのでとてもいい衣装だとボクは思います露出が高いので!(個人の感想です)。
そんな彼女は、両手をひらひらさせて、全力! といった笑顔をオレに向けてきていた。……いや、どちらかというとこの場合、営業! といった不自然なまで満面のスマイルだった。たぶん¥0円のやつ。
オレはそんな彼女を無言で眺めている。
自分の眉間に、すんごく力が入っているのがわかった。
「あれ!? なんなの、そのリアクション……」
グリーン・バーミンガムと名乗った美少女が、戸惑い、といった表情をうかべている。迷い無く全力で登場したあたり、オレが感激して大歓迎するといったリアクションしか想定していなかったのだろう。
「緊張してるのかなー? ムリないねー。なにせ【震撃のグリーンブルーファンタジア】略して『グリブル』ユーザー人気投票、堂々第三位。超美少女騎士にして勇者のグリーン・バーミンガムが目の前に現れたんだもんねー。あー、そんなに緊張しないでリラックスしてね。はじめまして、って……えっと貴方の名前は?」
「
「ハクト君ね……って、すんごいイケメンさんだ。……えっと、あらためて、はじめましてハクト君」
営業スマイルを浮かべ、慣れた動作で握手を求めてくるグリーン。オレはこれみよがしに腕を組んで、そのグリーンを睨んだまま……握手を返さない。
「あ……、あれれ。どうしたのかなー? ハクト君。緊張かなー。あはは……」
差し出した手を、バツが悪そうに手を引っ込めるグリーン。
浮かべていた営業スマイルがそのまま凍り付く。
「――チッ」
「って、え、あれ!? 舌打ち!? ハクト君、いま舌打ちしたよね?」
「うわ……いらね」
「えっ、……?」
「マジいらねー! ミドリムシ」
「!? ミドリムシ?」
「あーあ、ミドリムシかよ……」おおきなため息と共に、そんな台詞がオレの口から出た。
ちなみに、ミドリムシというのは【震撃のグリーンブルーファンタジア】ユーザーのなかで広く使われている、主人公グリーン・バーミンガムの愛称のひとつだ。他にも『ぐりぐり』『緑子』『グリリン』などの愛称があるが、オレはオレの中でミドリムシというのを制式採用している。これはもちろん、悪意から。
「もしかして? それって、わたしのこと、……なの? かな……?」面と向かったこの状況では、誰でも同じ判断をするだろう。恨みがましい視線をむけてくるグリーン。オレはその視線をさらりと受け流す。
「……別のキャラクターがよかった」
「ちょっとまてや! いまこいつが、聞き捨てにならないこといった!」
オレの口から漏れた本音に、過剰に被さってくるグリーン。声が大きい。
……そういえばコイツ。ゲーム内でもこういうキャラだったよなー。いつもうるさくて、うざいんだよコイツのキャラクター。
主人公だからか、なんだか知らないけれど、どんな場面や相手にも快活元気な高テンションキャラ。そんなグリーン・バーミンガムが、オレは嫌いだ。
なので、とうぜんコイツの登場場面はゲーム内ではすかさず飛ばしているのだが、現実ではそんな便利で人に優しい機能がまだ実装されていないのでツライ。飛ばせませんかねコレ。なんなら、コメント飛ばし機能に課金しちゃうぞ☆
「い、いちおう……、ねんのために聞くけどさ。別のキャラクターって、誰のことかなー?」すこし間があって、オレにそう問いかけてくるグリブル主人公。もはや目が笑っていない。
「そりゃあ。ブルー・マルレーンしかいない」オレはそう答える。
「…………ブルー・マルレーン。ね……」
「愚問だな」
「ブルー……。くっ、また、あいつか……」低い声で呻くグリーン。
そう。オレが欲しかったのは、それこそ【震撃のグリーンブルーファンタジア】ユーザー人気投票第1位のブルー・マルレーンだった。
どうせオレの前に出てきてくるのなら、だんぜん彼女がよかった。彼女ならオレは感激して、大歓迎のリアクションを自然に出せただろう。
いや、うれしすぎてノーリアクションで硬直したかもしれない。テレビなんかのドッキリ企画でみるような「人間って本気で驚くとこうなるよねー」的な反応になってしまったことだろう。
だが、目の前にはミドリムシ……。これじゃないだろ。これじゃないよ! コレジャナイ!! どこにぶつけてよいのか判らないこの感情。まさに憤り。
……たしかに。グリブル主人公は目の前にいるグリーンなのだが……。巷では専らブルー・マルレーンこそが、真の主人公とされている。ブルーはミドリムシと違い、賢く魔法を操り無口気味でおしとやか、健気で優しく思いやりのあるすばらしい娘だ。ショートのブルー髪でサファイアの瞳をもつ。そんな癒やし系の彼女。
しょうじきオレは、ブルー・マルレーンに恋をしていると言っても過言では無い。だからこの台詞は大事に取っておいてある。
「おとうさん! 彼女をボクの嫁にください!」
誰がおとうさんか知らないけれど……。たぶん、ヒロインの父親という需要皆無なモブに、そこまでの設定ないと思うけど……。
「くっそ! やっぱりブルーか! またブルーだよ! ほんとキライ。昔からあいつ邪魔。こっちにきても出しゃばってきて! なんなのあいつ、地味なチョイ脇役のくせに! いっつも!」
「うっわ……」
グリーンのどろどろ感情の発露。その表情は、美少女(いちおう)主人公とは思えない悪人顔。
登場時、光を受けて鮮やかだったエメラルドの瞳が、いまはなんか……どこかの澱んだ沼の色みたい。すごく……濁っている。
その様子に、オレは軽いショックを受ける。……うん、勇者とはいってもやはり女子。女子特有のあれですか? グループでは表面だけ仲がよいようにみせかけても、裏ではドロッドロなあれ。女子アイドルグループなんかで、よく垣間見える、あれ。
もちろんグリブル作品中では、お互いに助け合い、数多の苦難を友情で乗り越えていったグリーンとブルー達。
挫折したグリーンを慰めるブルー。
理想と現実の狭間に悩んだグリーンを支えたブルー。
強大な敵の前に敗北したグリーンを、自らの身を犠牲にした魔法の発動で前に進ませたブルー。
最終バトルでは「こいつの相手はボクがするから先にいって!」とブルーが……って、
「ほんと、邪魔。ちょっとばかり人気があるからって。調子にのってんじゃ――」
「お前……。ひくわー」
「!? ひく? なにひいてんのよ!」
「ガチャを引いて、ひいたわー」
「うまいこといったつもりか! あたしグリブル主人公だよ。主人公! 超SRだよ! このあたしを前にしているんだから、すこしはよろこびなさいよ!」
「え!? 主人公? お前そうだったっけ?」
「は? あたし以外の誰が主人公だっていうのよ!」
「だってミドリムシ。よく考えろよ、お前人気投票3位じゃん。自分でさっきそう言っていただろ?」
「うぐ……」
痛いところを突かれたといった様子のグリーン。オレはたたみかけるようにつづける。
「ここはやっぱり、ユーザー人気投票第1位であらせられるブルー・マルレーンが主人公であるべきじゃあないのかな? オレはそう思うし、じっさい他のグリブルユーザー大勢もそう思っている」
「ダメダメダメ! ハクト君、いやさ! ハクト! よく聞きなさい! 主人公っていうのは尊いの! 尊いからそんな人気投票なんかで揺らいでしまうような脆い存在じゃないんだから! ユーザーの人気投票なんてポピュリズム! 愚かなユーザーなんかよりも、作り手、つまり【震撃のグリーンブルーファンタジア】創造主であるメーカー制作陣が選んだ、あたしこそが主人公に相応しいの! 絶対に!!!!」
両腕を大仰に広げ、オレ相手に力説をするグリーン。じゃっかん目がこわい……。そこにはどこか、陶酔といったものも混じっている。
「でも、次期大型アップデートで、グリブル主人公変わるはずだけど」
「うえ!?」
「このあいだ発表があったぞ、おまえがいう創造主たるメーカー制作陣から」
「!? !? !?」
「ぷっ、知らないのかお前? グリブル主人公なのに」
「って、ハクト!! それマジ!? マジで???」
「マジ」
オレはスマホを操作して、【震撃のグリーンブルーファンタジア】公式サイトを開いてやった。そこで次期大型アップデート情報がアナウンスされている部分をグリーンに見せてやる。
「………………………………マジか」
瞬きもせずに、画面を凝視しているグリーン。
そこには、はっきりとブルー・マルレーンを中心に「さあ行くぞ!」という、やる気満々な表情をうかべた新主人公パーティのイラストが――
《【震撃のグリーンブルーファンタジア】セカンドシーズンスタート! 主人公ブルー・マルレーン達の新たな旅 COMING SOON!!》
「ノォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
絶叫。
はかなくも、脆く揺らいでしまうような存在であった主人公。
いや、この場合(元)主人公。
その場で崩れ落ちる、グリーン・バーミンガム。
幾多の困難を乗り越えていた勇者の、心が折れた瞬間だった。
「………………ブルーが主人公、か。……あたしは不人気だから不必要……お払い箱……リストラ。脇役か……この、あたしが……脇役、はは……あは、は……」
ぶつぶつと、なにやらつぶやいている。真夏のため池色の瞳がさらに濃くなっている。痛々しいまでに深く落ち込んでいるグリーンには、すこしだけ好感がもてた。ちいさくて小動物みたい。
「……泣くな。ミドリムシ」
「は!? な、泣いてなんか、いないんんらから!!」
噛みまくってかわいそうに……。
ブルー推しのオレ的には、セカンドシーズンには大いに期待しているけど、そのことで割を食ったヤツが目の前にいる……。って、あれ? スマホ画面を操作していたオレの指が止まる。
「おいグリーン、これみろ。セカンドシーズンの、あたらしい告知動画がでているぞ」
今朝までは無かった、セカンドシーズンの続報が更新されていたようだ。冒頭部分の動画らしい。
「!?……え、あたらしい告知!?」
「そうみたいだ。オレもまだ内容は知らんが……」
「ちょっと、それ貸してハクト!!」
台詞を言い終わらぬうちに、オレの手からスマホをひったくるグリーン。くいぎみに画面を覗く「そっかー、そうだよね。だいたいユーザー人気の有無だけで、主人公を途中で変えるなんてないよねー。あれはなにかの間違いだったんだよハクト。そう、間違いだ。そうに決まっ――」
「――う、ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」
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