第2話  食べられちゃった勇者様 

「!?――うギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!」



 大絶叫が部屋に響いた。

 悲鳴の主であるグリーンはスマホを放り投げる。


「おい? いったいどうした!!」


「う…………」


 顔を覆い、おびえた様子のグリーン。目には恐怖を浮かべ、小刻みに震えている。人差し指を、放り投げたスマホに向ける。その様子は尋常では無い。


「!?」


 オレは床に転がるスマホに近づき、その画面に視線をやった。

 そこには――


 首から上を巨人に食われ込まれた人物が、映し出されていた。


 無残極まりない死に様の人物だ。こんな死に方だけは嫌だ……だれしもそう思うであろう死に様。そして、だらんと宙づりになった人物の姿には既視感があった。


「あれ……?」


 見慣れた甲冑を身につけている。見慣れたというか、いまオレと同じ部屋にいる、目の前の少女が身につけている甲冑……。


「これって……」


 どう考えてもグリーンしかいないけど……。


 さすがのオレも、本人を目の前にして、その無残っぷりに言葉を詰まらせる。

 ――パッキャ……。ペキッ。

 うっわ。嫌な効果音がでているし……。

 グリーンになんて言ったらいいのか……。

 そうやってオレが次の言葉を選んでいると、部屋に生じた沈黙をおしやぶるように、スマホからは淡淡とナレーションが流れでた。



 グリーンは死んだ。


 人類の新たなる危機。


 数千年の時を経て――ついに伝説の巨人達が、地下世界から地上に沸いて出でる。



 ――巨人の震撃!!



 衝撃的な音響と共に、黒画面に白文字で次々と映し出される【震撃のグリーンブルーファンタジア】セカンドシーズンの煽り文句。


 動画は続く――


 ファーストシーズンで安寧を取り戻したグリブル世界に次々と沸きだす巨人達。


 突然の事に逃げ惑うしかできない人類を、いともたやすく捕食する巨人。

 母親が、父親が、息子が、娘が――目の前で食われ千切られ噛み砕かれる。

 か弱き人類に、立ち向かうすべなどあろうはずが無い。

 絶望、まさに絶望そのものだった。


「待ちなさい!」


 凜とした声と共に、巨人達の前に立ちはだかるブルー髪の魔法使い少女。ファーストシーズンラストの魔王戦で覚醒し、すべての魔法を操る大賢者となっていた、そう、新主人公のブルー・マルレーン。

 あまり~というか、ほぼ感情を表に出さないキャラクターの彼女だが、このときばかりは、その怒りが身からあふれんばかりの様子。


「!? 勇者様! いえ……、グリリンちゃんの敵だ!!!!」


「は? 勇者様だあ? ああ、あのクッソまずかった小娘のことか……」


 醜悪な巨人(たぶんラスボスなのだろう)がそんな台詞を吐く。同時に口をもごもごとさせて、プッとなにかを吐き出した。


 ――カツン。


 石畳の地面に固い金属質のものが落ちる。そこにあったのは――



 かっての勇者グリーンの剣。



 それを見たブルーが絶叫する。




「グリリンのことかあああああああああああああああ――――――!!」




 その剣を手に取り、得意の魔法を剣にまとわせ巨人に大きく切りつけるブルー。



 ――そこで動画は終わっていた。



 ………………………………………………。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る