第3話 民間人を手にかけがちな勇者様
……まさかの展開だった。
震・撃・感。満載のセカンドシーズンすごすぎた。
主人公のグリーンが冒頭であっさり食われて死んでしまうとは……。
【震撃のグリーンブルーファンタジア】さすがに大人気ソシャゲーなだけはある。まさかの主人公交代とは……。ユーザーを煽るのが本当に上手だ。オレだって、先が気になって……期待感がハンパない。
ハンパないんだが……。
「……あたし死ぬんだ…………しかも……あた……あたた、頭から食べられて……あはは……。あは……」
巨人に食われて死んでしまう本人。目の前のグリーンの落ち込みっぷりもハンパなかった……。
無理もない……。主人公降格で脇役スタートどころか、頭からパクッと巨人のカルシウム源では悲惨すぎる。己の過酷すぎる未来を知ってしまった少女に、かける言葉も思いうかばない。
新たなる強大な敵の登場や、主人公をブルーに譲っての脇役スタートなら……これからの努力や運でなんとかなるかもしれないけど……。これはもう、どうしようもない。死んじゃっているし……。
――ぶち。
ぶちぶち。
繊維がちぎれるような不快な音が耳にはいってきた。あ……グリーンが絨毯の毛をむしりはじめた……。そんな彼女の瞳は視点が合っていない。空を見つめながら両手だけがうごいている。
……無意識にやっているようだから、すこしそっとしておいてやろう……。
――ぶちぶちぶち。
ぶちぶちぶちぶちぶちぶち。
ぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶち。
……………………。
「――プッ」
オレは笑いが吹き出しそうになるのを無理矢理こらえる。
……いかんいかん。いくらブルーのセカンドシーズン主人公抜擢がうれしすぎるからって、ここで笑う訳にはいかない。いくら目の前のミドリムシの没落っぷりがおかしいからって、笑う訳にはいかない。
ここはクールダウンしなくては、よく考えるんだ、よく考えるんだ
「……巨人のエサ」
「!? ――キッ」
怪訝そうなグリーンと目が合った。オレの反応がおかしいと感じたのだろう、こちらの様子をうかがっている。
そんなグリーンの目の下にはクマができていた。人間こんなにも短時間でやつれることができるのかと感心してしまう。
オレはグリーンから顔を背け、口に手をやり笑いが漏れないようにする。
そのやつれた顔をみたら……。
もう、こらえきれない…………。
「…………どうかした?」
「プ……、い、いや……」
「さっきから様子がおかしいけど……。大丈夫?」
「……なんでもない、大丈夫(おまえこそ大丈夫ですか!!)……ククッ」
「!? こっちみなさいよハクト!」
グリーンはオレの肩を掴み強引に振り向かせる。さすが勇者なだけに、その力は少女とは思えないぐらい強い。
「(こいつ頭から食わてやんの!!!!!!!!!!!!!!!!!)プッ、ククク」
「なに笑っているのよ! こんなときに!」
「ぎゃはははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
オレはこらえきれずに大笑いをしてしまう。
「な、なにがおかしいの!!」
「おまえがあんな風に死んじゃうのがおかしいんです!!」
「!? あ、あたまおかしいんじゃないの!!」
「だってグリーン、おまえ……これだぞ」オレは近くにあったテッシュを箱から引き抜いてその端を咥えてみせた。オレの口に垂れ下がるテッシュ。
「非道い!! なんて奴だサイテー!!!!」
「サイテーな最期を迎える奴ならオレは一人しってます! ぎゃは……」
「………………………………。ほーう……」
――チャキッ。
「はは……え? あの……グリーンさん? その腰にある剣に手をかけたのは何故でしょうか……?」
「奇遇ねー。あたしも一人しっているんだ”サイテーな最期を迎える奴を」
「うっ……。ひ、ひとつ聞いても良いですか? それって女性でしょうか? それとも男性でしょうか?」
「後者ね」
「あー男か。それならオレのしっている人とは違うなー、……はは」
「あたしのしっている、サイテーな最期を迎える奴は、胴から首が離れちゃう男なんだけど、ハクトのしっている人はどんな感じなのかな?」
「うっ…………」
「そうそうハクト……、話はかわるけど、あたしのこの剣知ってる? あたしの世界では超メジャーな有名人『勇者ラト』の剣なんだ。よく斬れるんだよねーこの剣。鉄より固いと言われるドラゴンの鱗もトマトみたくサクッと……」
「――ビクッ。……存じております。ファーストシーズンであの魔王をも倒した剣ですよね?」
「物知りじゃないハクト。ついでに切れ味を試してみようか? その身体で……ふふ」
「あの? 貴方……たしか? 勇者……さん、ですよね? 勇者が民間人を、しかも無抵抗かつ非武装な人間を手にかけるのは如何なものかと……」
「勇者? あ。さっきまではねー。もうあたし勇者じゃないみたいだから、ブルーにでも助けてもらえばあ? ハクトが大好きな、あたらしい勇者のブルーにね……こっちの世界にも来てくれるといいねブルー。うふふ」
そう言う、グリーンの目はどっしりと据わっている。これは……ヤバイ。
「グリーンさん! いえ勇者様! マジ勘弁してください!! ほんとすんませんッ――した!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
オレは直立不動から七十度の角度までビシッと頭を下げた。
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