第4話 いろんな形の勇者様
「……あの……ミドリム……じゃなくて。グリーンさん?」
衝撃のセカンドシーズン動画から、たっぷりと、間をとったオレは遠慮気味にグリーンに声をかけた。
その勇者様のご機嫌取りに供していた、温かいお茶は冷め、冷めていた炭酸飲料ドクターコパ(略称ドクパ)はぬるくなっている。オラオラ系の辛さをほこるオラムーチョをふくめるスナック菓子も、すべて手はつけられていない。
「…………。…………なによ」
少しは心が落ち着いたのだろう、オレを斬ろうとした後はずっとうつむいていた彼女が、低テンションながらも反応を返してきたので、まずはよかった。
「この度のこと、オレなんて言っていいか……」
「ハクトはブルーのこと好きなんでしょ……」
「え、あ……そうですね、ハイ」
「主人公ブルーでよかったじゃないオメデトー」早口気味のその言葉は、カラッカラに乾いている。
「いや……あの」
「邪魔なあたしなんて、いなくなってよかったと内心喜んでいるんでしょ? いらない邪魔なあたしの居場所は巨人の胃袋の中だけだって思っているんでしょ? いらない邪魔なうるさいあたしは頭がなくなって静かになっていいと思っているんでしょ? よかったじゃないオメデトー」
「いや、そこまではさすがに……」グリーンの心の城壁は彼方まで高い。
うっわ……これ、どうしたものか……。このままグリーンにオレの部屋で落ち込まれ続けられたら困るんだけど……ちっとも部屋でくつろげないんだけど……。
この状況を打開するためには、とにかく対話を続けること――
って、なんでソシャゲーでガチャ引いただけでこんな面倒なことになっているんだ……。オレに普通にゲームをやらせろよ。フルボイスでキャラクターと対話できるって、そんなサービスいらないんですけど……。
どうせ対話できるならブルーの方がよか……いや、これは今は禁句だな。なんかグリーンがオレを睨んでいるし……オレの思考が読めるのかオマエ。
あー面倒だ。面倒だ。面倒だ。冷静に考えてみると、すんごい疲労感におそわれる。でも、目の前にグリーン本人が現れてしまった以上、言葉を選んで発しないことには先にすすめない……。
「あの……、グリーンのやったことは、その……無駄になっていないとオレ思うから……」
「…………。どういう意味?」
「セカンドシーズンの告知動画でさ、グリーンの剣がでてきただろ?」
「……ええ、巨人がはき出していたけど……ね……」その場面を思いだしたのだろう。すごく嫌な顔をするグリーン。オレは構わずに話をつづける。
「その剣を拾って、ブルーが巨人に戦いを挑んでいただろ?」
「それが?」
「それって、グリーンの意志をブルーが受け継いで闘っていくということじゃないのかな? あの剣は勇者の象徴、つまりはおまえ自身だ。それを手にブルーが闘うということは、おまえの意志を引き継ぐということ。つまり! その意志は生きている訳だ!」
「!? あたしの意志が、生きている……」
「そうだ! おまえの意志は生きている!!」オレは拳でグーをつくり、グリーンの前に力強く差し出す。
「そうか! たしかにそういえるかも……」
「勇者グリーンの意志は生きている! 勇者とはそもそも何か? それはすなわち勇気ある者のことだろう。人々に率先して巨悪と戦う者――力ではなく、戦うという意志そのものをさす!」
「た、たしかに……そうかも」
「だとすれば! その意志さえ継がれるのであれば……」
「ハッ……。そうか! あたしは生きている!!」
「そう、たとえ肉体が滅んでいても!!」
「……。やっぱ滅んでいるじゃん!!」
「あ……、そうなるか……?」
「ぜんっぜんフォローになっていない!!」
「チッ、余計なひとことだったか……」
「あぶないあぶない。ハクトにダマされるところだったわ……」
「……。わかったグリーン。肉体が滅ぶのは嫌だというのなら、こういうのはどうだ? 告知動画ではユーザーを煽るために、あえてあそこで終わっているが、仮にもお前は主人公。あのまま終わるとは思えないから、きっと続きがあるはずだ、たとえば――」
――巨人に食われた勇者グリーンだったが、大賢者ブルーの復活の魔法で蘇った。
しかし……その頭部は、とうぜん失っていた。
だが、グリーンはその程度のことで諦めるような勇者じゃ無い。
デュラハン勇者として生まれ変わったグリーンは、次期主人公大賢者ブルーと供に大活躍。
キメ台詞は「頭なんてかざりですっ!」
「頭なんてかざりですっ! ほら言ってみろ?」
「………………。いや……、どうやって喋るの?」
「そうか。頭ないんだった」
「デュラハンなんでしょ?」
「じゃあ決め台詞はナシの方向で! 剣と盾でうまいことポーズ決めてくれ!」
「決めてくれ! じゃなくて! あたしデュラハンは嫌なんだけど!」
「なんだ嫌って。勇者様ぐらい偉くなると気むずかしいことだな。頭なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのです」
「何をいっているのかぜんぜんわからなんだけど……。とにかく、デュラハン勇者はナシ」
「デュラハン勇者がナシか。斬新でいいと思うんだがなーデュラハン勇者。それぐらいインパクトが無いと、勇者が巷にあふれている昨今は埋もれちゃうぞ。……う、その剣の柄から、手をはなそうね。……わかったよ、たしかに頭がないといろいろ不便だしな。じゃあ頭は有りの方向で、むしろ特盛りで! こういうのはどうだ?」
――巨人に食われた勇者グリーンだったが、大賢者ブルーの復活の魔法で蘇った。
その数はおよそ三千。
大賢者ブルー「勇者が量産の暁には巨人などにこの世界をやらせはしない」
一体では巨人に遅れをとってしまった勇者グリーンだったが、やられてもやられても、十体百体千体とつぎつぎ現れ、数の力で巨人を圧倒するのだった。
キメ台詞は「あたしが死んでも代わりはいるもの……」
「あたしが死んでも代わりはいるもの……。ほら言ってみろ?」
「もう悪意だよねハクト?」
「サブタイトルは【震撃のグリーンブルーファンタジア《グリーンの逆襲》】でいこう。オリジナルを食われた逆襲だ! 一体で魔王を倒した戦闘力をもつグリーンが、量産化された暁なんだから、いや~面白くなるぞこれは。量産型勇者で思う存分逆襲してこい」
「いまここでハクトに逆襲しようか?」チャキッ。
「すいませんごめんなさい」
「あと……気になっているんだけど、あたしの単位が『~
「注文が多いな……難しいんだぞ展開が、だって食われちゃっているんだからお前。整合性というものをだな……」
「勝手にあたしを増やさないでくれるかな」
「なんだよ増やすの無しかよ。量産型はいいぞー。勇者ぶいて単独ですぐに突っ込むお前にはわからないかもしれないが、戦いは数だぞグリーン」
「(――キッ。)」
「怖い目でオレを睨むなよ……。あーもう、わかったよ。じゃあ勇者の数は一体で……」
――巨人に食われた勇者グリーンだったが、大賢者ブルーの復活の魔法『キョキョキョ……キョダーイ!!』で蘇った。巨人の倍サイズの超巨大勇者として。そんで巨人を頭から逆に食ってやりましためでたしめでたし。完。
「雑! ハクト! 展開が雑! 急になんか雑! キメ台詞もないし!」
「……ハイハイ、決め台詞ね。キメ台詞は――『倍がえしだ!』はいどうぞ」
「テキトーすぎ! なんか意味もわかんないし!」
「なんだ、倍がえしを知らないのかグリーン。『倍がえしだ!』というのはこちらの世界では由緒ある台詞なんだぞ。そんで巨人は膝をプルプルさせて、忸怩たる想いをにじませながら、たっぷり溜め気味に歯を食いしばって土下座して謝ってくるよ。きっと」
「……うん、ますます世界観がわからない」
「そんじゃいいや。説明――あー面倒だ。あとはテキトーにがんばれ」
「あー面倒って、それが本音じゃん!」
「ちがうぞグリーン。オレはおまえをはげまそうと――」
「それはない」断言したグリーンがオレに向けるその瞳は、うたがい成分100%「ぜったいにそんな気持ちは入っていない! ハクトは、勇者のあたしが死んだのになーんか軽いんだよ、他人事にも程があるよ。もうすこし思いやってもいいんじゃないの? ファーストシーズンがんばったでしょあたし? 魔王がんばって倒したんだよ? それがセカンドシーズンになった途端にあんな形で扱われてさ、非道い話だとおもわないの? だいたいさ――」
……うわ、うざっ。
いちおうグリーンに元気がもどったみたいだけど……、よいことなのか? これ?
それにしても、この状況。ソシャゲーの主人公が現実に現れるなんておかしな現象、どう考えても原因は『アイツ』だとしか思えないんだけど。
オレの中で眠っている『アイツ』(この表現カッコイイ)。もう少しで起きるであろう『アイツ』を、オレは問いたださなくては……。
時計をみると17時まで、5分前だった。
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