りゅうおう神 『白起』が あらわれた!

第5話  神様はリアルタイムで観たい派

 ピピ……ピピピ……ピピピピピピッ。


 17時ちょうど。オレの部屋にスマホの電子音。セットしていたアラームが響く。


「おい、起きろハク。17時だぞ」オレはアイツ――ハクの名を呼び、約束どうりに起こしにかかる。グリーンの件は、彼女がなにか知っているに違いない。


《…………》


「ハク。起きろって、もうオープニング始まっているぞ! アニメみるんだろ!」


《……………………》


「あーもう! 毎度のことながら素直に起きないな! だったら連続録画してあるんだから、後で観ればいいのに! リアルタイムで観るって言ったのは、おまえだろハク!」


 オレは苛立ち、指に力を込め、強く頬をつねった。力が弱いとハクはぜんぜん起きないから強く。さらに頬をつねったままねじり上げた。

 ……自分の頬を。

 あたりまえだが、……痛い。


『……!? い、いた……イタイ!』


「ハク? 起きたか? っう痛ッ……。もう、たまには素直に起きてくれよ! まいどまいど、痛いんですけど!」


《ふあ……シロ。おはよう》


 シロとはオレのことだ。彼女、ハクは、オレのことを犬かなんかの様に『シロ』と呼ぶ。……たしかにオレの名は《白神白人(しろがみはくと)》だから、シロでいいんだけどね……、もう慣れたし。


「……はいはい、おはようハク。ほら、グリブルはじまるぞ」


 そう、アニメとは【震撃のグリーンブルーファンタジア】アニメ版だった。

 しょうじき、作画にはじゃっかん……と、いうか、かなり難があるのだが、それは原画が良すぎたのと、コスト=大人の事情というやつなのだろう。

 そんなところから、ネットでの評判はイマイチだったりするんだけど、原作のゲームにはない、キャラクターを掘り下げたアニメオリジナルエピソードや、キャラクターを活かしながら声優ネタを多用したりとファンサービスも多かったりして、オレは良アニメだと思う……。って、いまはそんな話はどうでもいい。


《おー、今週もはじまるかシロ。それにしても昨夜は驚いたな、まさか【震撃のグリーンブルーファンタジア】セカンドシーズンで、主人公グリーンがあんな目に遭うとは……。つくづくおまえたち、ヒトの紡ぎ出す物語は面白い。矮小なくせに、こういう”才”には、ほとほと感心する……》


「感心はいいから……。で、これは? この状況は、ハクの仕業かな?」


《ん? なんの話だシロ?》


「なんの話って、その【震撃のグリーンブルーファンタジア】主人公で勇者であるところの『グリーン・バーミンガム』さんが、オレの目の前に現れている。という、すばらしいファンタジー展開の件なんだけど?」


《シロ。いまいち話がよくわからないんじゃけど? ……あ、グリブルアニメ始まるんじゃが……》


「後でゆっくり観てくれ、どうせ録画してあるんだから」


『えー。わしリアルタイムでみたい派なのに……』


「ハク! それよりもこっちの話!」


《……いったいさっきから、なんなのじゃ?》


「グリーンが居るの! ……って、そうか、おまえみてなかったもんな」


 オレはじぶんの首を曲げ、グリーンが視界に入るようにする。さらに大きく視界に入るように自分の顔を近づけた。「これ、本当に知らないんだな? 本当に?」首をゆっくりと上下に動かし、グリーンの全身を捉えるように視線をうごかす。ぺたんと床に座り、きょとんとした様子のグリーンが映る。


《うあ! グリーンじゃ! 部屋に勇者に『グリーン・バーミンガム』がおる! すごいなシロ!! なにこのクオリティ、これコスプレっていうやつじゃろ? すっごいコスじゃないか!! まるでCG。VR? いや、本人そのものじゃ!》


「うん。本人だから……」


《本人って、なにをいっているのじゃ? ……それにしても、シロにこんな彼女がおったとは……。しかも自分の部屋に連れ込んで、わしの知らぬ間に隅におけぬのう……お主もさすがヒトのオス。やることがはやい。年中発情期のお主ららしい……っと、わし……お邪魔だったかな? 気にしないで続けてくれてかまわぬ》


「いや、そんなんじゃないから! 確認するけど。彼女『グリーン・バーミンガム』がここに居るのは何故なのかな? オレはてっきりハクの力かと思っていたんだけど……」


《わしの力?》


「だから、さっきゲームをしていたら彼女『グリーン・バーミンガム』がいきなりオレの前に現れたんだよ……。オレはハクが……よくわからないけど、能力かなにかの力で呼んだんじゃないのかな? なんて……」


『話をまとめようシロ。要約すると。わしがお主に『コスプレ彼女』をあてがった、ということか?』


「ちょっと違うけど……いや! それかなり違うから! コスプレ彼女じゃなくて本人なの! さっきゲームしていたら、ビカビカッと光ってオレの前に出てきたの! 現実の人間ならそんな登場の仕方できないから! んもう!……なんて言っていいのかわからない! ああ、もどかしい!」


《興奮するなシロ。まずは落ち着くのじゃ。ほら、深呼吸》


「すーはー。すーはー。……ごめんハク。オレもしょうじき、この状況をよく理解できていないんだけど……【震撃のグリーンブルーファンタジア】内のキャラクターである、主人公の勇者グリーンがオレたちの世界? この現実に現れたんだよ。で、これってハクが何かしたのかな? なんて思っていたんだよ――」


《わし、そんな力無い》


「だって神なんだろ、ハクは? まえに世界の半分をオレにくれるって言っていただろ? だったら何でもできるだろ?」


《何でもできるわけじゃない。できることはできるけだけじゃ。わしは確かに世界の半分をお主にくれてやることはできる。望むなら今すぐにでも。その力はある。だが、神にだってできないことはある。というか、ゲーム内のキャラクターを現実に呼び出す能力って何? わし意味わかんない》


「オレも言っていて意味がわからない。……うーむ、じゃあグリーンはどうしてオレの前に出てきたんだ? 現実にオレの前にいる”こいつ”はなんなんだ?」


《知らん。というか、そんなになんでもかんでも”神様”のせいにするのはどうかとおもいますよ~》


 国民的人気を誇る、某アニメキャラクター執事の口調を真似するハク。共通するのは、この世の者ではないことと白いこと。


 オレをおちょくるような口調だったが、本当にハクはなにも知らない様だった。

 ……困ったな。オレはてっきりグリーンが現れたのは、ハクの仕業だとばかり思って決めつけていたんだが……。じゃあ目の前のグリーンは何故? どうやって? なんのために? オレの前に現れたのだろうか?


「……あの、ゴメンねハクト。……さっきから、誰と話しているの、か……な?」


 ずっと様子をうかがっていたのだろう、おずおずと声をかけてくるグリーン。発せられたその声音はどこまでも心細そうだった。


 無理はない。


 ――そう、客観的には、この部屋にはオレとグリーンいないのだから。

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