第6話  神様はカラダにピースがお好き

「さっきから、誰と話しているの、か……な?」


「神」オレはグリーンの問いに答える。


「!?…………」


「だから神だよ神」


「うっわ……。あちゃー。……そうきたか」そういって、ぐんにょりとグリーンの顔がゆがむ。


「いや、だからそうじゃなくて! オレの中にいる神。竜の神様で、こいつハクっていうんだけど――」


「うんありがとうごめんなさいハクト」オレが台詞を言いおわらないうちに、被せ気味にグリーン「……あたしの世界でも居たけど、こっちの世界にもいるんだ……。こういうひと……。見えないもの見えたり、話したり出来ちゃう人が……」


「ちゃうわ!」


「あの……ゴメンナサイ。怒らないで、落ち着いて。とりあえず落ち着いて、ね?」慇懃にオレをなだめるグリーン。まさに、腫れ物に触るように~という扱いだった。……オレ最近になって、こういう扱いをよく他人からされているから知っているんだ……。これ、なんどやられても傷つくんだけど……


「だから、違うというのに! 居るの! オレの中にハクが! 神様が! グリーン! オレの話を聞……」


「それ以上近づかないで!」チャキッ。

 すごい勢いでラトの剣の刀身がオレに向けられた。おびただしい魔物や、魔王の血も吸ったであろう勇者の剣。発する鈍い光をみてそんなことを思う。


「あのですね、ちょっと待ってオレの話を……って」


「目が本気。これは相当……、キテるわね……」


「……キテるて」


「ハクトがこんなガンギマリな奴だったなんて……」


「……ガンギマリて」


「ああ、これからどうしよう……」オレを見るグリーンの瞳には先ほどまでなかった恐怖が映っている。せまい部屋の中で、オレとの距離はいつの間にか開いている。グリーンは無意識にとったのだろう、これが熟練の戦士がとった剣の威力を最大限に活かす間合いにちがいない。そして、心の距離はもっと開いているにちがいない。


「……っうか、グリーンへの説明が面倒だから、オレの中からでてこいよハク」

 このままではらちがあかない。オレはそうハクに問いかける。


『えー。それこそめんどうなんじゃけど……。それに、なんどもいっておるじゃろうシロ。わしは外に出るとかったるいの。だるいの。つかれるの。例えるなら、お主のようなお家万歳の引き籠もり君が、炎天下の中外に出歩くようなものなのじゃ。どうじゃ? あり得ぬことじゃろ?』


「引き籠もりちゃうわ!」

 ――いや、客観的にはどうみても引き籠もりなのだ。ハクの見方はまっとうなものだった。……というか、そのハクが原因で、オレは学校はおろか外にもでられないんですがね!


「あの……独り言、やめてくれるかなハクト。……その、すごく……怖い」


「独り言ちゃうわ!」

 ――いや、客観的にはどうみても独り言なのだ。グリーンの見方はまっとうなものだった。ハクがオレの中にいる時。ハクはオレの口を使って話す。


 つまり、先ほどからのハクとのやりとりは全て、オレが問いかけてオレが答えている……様にしか見えない。

 引き籠もりで独り言を多発する奴。それがオレ白神白人の置かれた現状だった……。これって、けっこういる気がするのだが……。


「ちょっと待てグリーン。いまハクをから」


『なぬ! いまなんといったのじゃシロ! 聞き捨てにならん! わしをってお主はいつからそんなに偉くなったのじゃ、うぬぼれるなヒト! 竜のなかの王、竜王にして神であるわしを、なんと心得るか矮小なる者よ! 畏れを知――」 


「クルピス」


『!!!!!?』


 ――クルピスとは誰もが知る、日本の夏を彩るカラダにピースな乳酸菌飲料。濃い原液が入ったボトルにデザインされた水玉も涼しげだ。

 ハクはこの白い飲料クルピスが大好きだった。

 というか、好きすぎて、これを与えれば神様であるハクはオレの言うことをなんでも聞く。ちなみに偶然だったが、はじめて飲ませた時に”せかいのはんぶん”を貰った。

 オレは要らないと言ったのだが、ハクはクルピスに心から感動したらしく、どうしてもということで、オレはしぶしぶ受け取った。

 とはいえ、こんなのをいきなり貰っても困るので、いちおう権利として保留してあるのだが《せかいのはんぶんをやろう券》って、扱いに困る。メモの切れ端に書かれたそれは、ハクがその場でテキトーに書きなぐったもので、よくある《おばあちゃんの肩たたき券》よりビジュアル的には価値はなさそうだった。

 ――って、そういえば《せかいのはんぶんをやろう券》何処に置いたっけな? まぁいいか……オレの部屋のどこかにあるだろ。


「ハク。このクルピスをやろう」トンと、オレは白い瓶を差し出す。


『うわ♪ 出る! 出る出る出ます! シロちょっとまって! す、すぐに出ますから!!』

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