第14話 じゃあ、滅びのエクストリームバースト!

「か……」

 オレの横でプルプルとふるえているハク。様子がおかしい。


「!? ハクどうした?」


「か……、かっこいい! カッコイイ!!」


 そういってグリーンに駆け寄り、すごいを連発しながらグリーンにぺたぺたさわりまくるハク。ショッピングモールなどで催される、ヒーローショーに群がるお子様のようだ。


「カッコイイ? ……そ、そうかな?」


「うん! 勇者カッコイイ!」 


「……ハクちゃん。ありがとう」

 そういってハクのあたまをなでるグリーン。そのしぐさは愛しげでやさしい。きっと、彼女がグリブル世界で村や町を救うたびに、おなじような光景がくりかえされてきたのだろう。

 勇者とお子様の図。なんとも、ほほえましい光景だ。


「勇者の必殺技すごい! えっと……」


「グリーンスラッシュのこと?」


「そう、それ! グリーンスクラップ!」


「プッ――」


 吹いた。

 ハク、ナイス! オレは心の【いいね👍】ボタンを連打する。ポンコツなグリーンにはお似合いすぎる技名。


「(――キッ)」


 ……グリーンにすんごい睨まれた。

 その戦闘モードの眼……ほんとうに、こわいんだけど……。


「やっぱり技名をさけぶほうが映えるなー。しょうじきわしもあこがれていました。でも最後の一線でふみとどまっていたのじゃ、さすがにリアルでそれはないなー。と。お子様ヒーローショーじゃあるまいし、技名をさけぶなんてありえない。くそだっせえなーと」


「……ヒーローショー。……くそだっさい……」


「だからわしも無言でやっていました。クールに斜めに構えていました。それが格好いいことなのだと……。しかし! それはまちがいじゃった! 必殺技名はさけぶべき!! だれがなんといおうとも、ためらいなく羞恥心などすてて! わしの目の前で、それを臆面もなくやってのけた者がいた! わしはそこにシビれました。あこがれました。その行為はまさに勇気の体現。まさに勇者! ライブだからこそ感じる熱量! つたわりました、その厨――」


「ハクちゃん、そこまで……ね」


「い、いたた……。勇者。あたまがいたいのじゃ」

 ハクのあたまに置いたグリーンの手に力がこもっているのが解る。

 そうとうに手加減しているのだろうけど……。

 構図的には先ほどと同じ、勇者とお子様の図でかわらないんだけど……もはやそこに、ほほえましさは欠片もない。


「……ハクト。準備してあげて」


「準備? なんの?」


「次は、ハクちゃんの番でしょ。だから、たいやを積んであげてよ。お子様の、ハクちゃん様にね」あきらかに見下している様子のグリーン。


「そういえば、そうだったな」すっかり忘れていたオレ。


「なんなら、あたしがハクちゃんの相手してあげようか? なんてね」


「んじゃ、わしのターン!」



 コォオオオオオ。



「え? ハク?」「ハクちゃん?」


 低くこもった音がハクの口元に集中する。


 次の瞬間――


 ――ゴッ。


 ――キラン。


 ハクの口から白い光線が吐かれ、それが真っ直ぐに伸びた。

 

 そして、オレたちからみてはるか奥。数キロ先にあるだろう――グリーンの破壊した次の橋に直撃する。


 雷のように低い振動が届く。


 沸き上がるキノコ雲。


「……すげえ」「……すごい。ハクちゃん」


 なんという威力。これだけの距離があってもあっさりと届いたその力。

 誰が見ても、グリーンよりもハクの力のほうが格段に上だった。しかも、ぜんぜん力が入っていない。軽くやってこの威力。本気でやったらいったい……


「あ! わすれてた! えっと……。じゃ、じゃあ! 滅びのエクストリームバースト!」



「「おそっ!」」



 えっと、じゃあ……て。あきらかにグリーンに影響されて、いま技名を命名したよねハク?



「滅びのエクストリームバーストお!!」



 ……いや、二度いわなくてもいいから。あと、こっちみなくていいから……。ハクが望むようなリアクション。オレ、とれないから……。


「……うわ……あっぶな! こんなの食らっていたらひとたまりもなかった……。あたし、あやうく自殺するところだった……」


「うん。そのきもち、よく解るよグリーン君」そのきもち先輩として、目をほそめるオレ。優越感に浸る。


「……前倒しセカンドシーズン突入なところだった……。死因に滅びのエクストリームバーストて書かれるところだったわ……。完全に舐めていた……ハクちゃんの力」

 衝撃をうけているグリーン。むりもない。


「あーこの姿じゃとこんなものか……。なにせ、口が小さいからのう。本来の姿ならこの百倍は太いのを出せるんじゃが……」


「「ひ……百倍……」」


 そんなことをさらっと言うハク。

 ……その力、化物だった。というか、神だった。


「っうか、おまえらが化物ということは、理解できました……」


「……これが、ハクちゃん。いえ、神である竜王の力……なんという力なの。こんなものが悪用されたら世界の終わり……。そう、この力は渡せない。アイツらだけには……」

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