第13話 さあ、いっしょにグリブろっ!

「えっ!?」


「こっち! 斬るのこれ! タイヤ!!」オレはすごい勢いでグリーンの側に走り寄り、風圧で散乱しているタイヤを指さす。


「たいや? これを斬るって? なんで?」


「だれが橋を斬れと言った!!」


「だってハクトが、これを斬れって……」手のひらを、橋(いまはガレキの山)にむけるグリーン。


 マジか……。こいつ。もしかして……。

 グリーンからみてタイヤの背後にあった橋をみて……、橋だけをみて。必殺技をお見舞いしたというのか……。

 そんな勘違いを、果たして人類はできるのだろうか?

 ……いや、これを勘違いといっていいのか、そもそも疑問なレベルの話なのだが……。それができてしまっている存在が目の前にいる……。

 驚愕だよ。マジ、やべえよ、グリーン・バーミンガム。

 この子、……脳がミドリムシだよ。


「いや! ミドリムシ!! オレがタイヤ運んでいたの見てただろ! だとしたらおかしいだろ、その行動! なんの為に運んでいたんだよ!」


「ハクトの趣味」


「趣味が、タイヤ運びってどういう趣味だよ!」


「ハクトにはお似合いかなーとおもって……。なにが楽しいのか、ぜんぜんわからないけど」 


「百歩ゆずってオレの趣味がタイヤ運びだとしよう! だとしても、話の流れを読めよ! おまえの力を試すっていうことで河原にきて。なんでオレが趣味に没頭するんだよ!」


「!? たしかに! いわれてみればそうだ!」


「いや……。いわれなくても気がつけよ! 気づいていこうよ! そこは慮っていこうよ!」


「なにがしたいのかなーハクト。とは、うすうす思っていたんだけど……。なるほど、そういうことだったのか、謎は全て解けた!」


「謎なんかねえよ!!!!」


「……謎はあるよ」急に真顔になるグリーン。


「は? おまえ、なにをいって――」


「……この世界は謎で溢れているのハクト。謎がない世界なんてつまらないと思わない? あたしはそう思うよ。子供の頃に感じた世界の広がり。くりかえす日常からすこし道を逸れてみよう。――そこには、あいかわらず拡がる世界がある。いつのまにか、変わったのは……、世界では無く貴方なの。あの大地のむこう、あの雲海のむこう、あの空のむこうには、いったいなにがあるんだろう? 思いだそっ! 冒険心。それが【震撃のグリーンブルーファンタジア】!!」


 キラッキラした顔のグリーン。

 いまいましいほどに、その表情はまぶしい。


 いきなりここでCMをぶっこむスタイルの、グリーンの脳こそ――謎だった。



「さあ、いっしょにグリブろっ!」


「グリブらねえよ!」


「一日四回とはいわないからっ! 一日三回でいいからグリブろっ!」


「さいきん、ちょっと忙しいしなーオレ」


「ぶー。なんだハクト。せっかくグリブル主人公みずから誘っているのに!」


「あれ? おまえ主人公だったっけ? 強いていうなら、オレはブルーが主人公になった、セカンドシーズンから本格的にグリブる所存!」


「セカンドシーズン……」


「グリーン。おまえとは、回想シーンで逢おう!!」


「…………」 


 ずーんと落ち込むグリーン。己の運命を思いだしたらしい。



「……まぁ、オレはもともと、パズル&スライムズ《パズスラ》とか、いまなら《スラモンGO》をメインでプレイしているから、グリブルは優先度がすこし低いんだよね」


 オレはじぶんのポケットからスマホを取り出す。なにげにこの河原はスライムの良スポットだったりして。


「なぬ!《スラモンGO》ですって!? それ貸してハクト!!」


 貸してといいながら、返事も待たずに、オレのスマホをとりあげるグリーン。

 そして、それを――


「フン!」


 片手で握りつぶした……。


 ――パラパラパラ。


 グリーンが手のひらを広げると、オレのスマホの破片が地面に散る。


「ちょ、おま!!」


「あたしのまえで、《スラモンGO》などと! 二度とその名を口にするな!」


「あ、はいごめんなさい」

 なんていう迫力だ……。こわいよ、この勇者。


「そもそも、セカンドシーズンの事も、《スラモンGO》のせいだ。あんなキラーコンテンツさえなければ、あたしは主人公のままでいられたんだ。メーカーの危機感も不必要に煽られることもなかったんだ。だいたい本来の主人公をないがしろにして、ブルーなんかを起用して、いっそうユーザー離れをおこしたらどうする気なの? そのときになって謝ってきても、あたし許さないんだから。セカンドシーズンは判断ミスもいいところ――」


「オレのスマホ……」


「ハクト。これからは脇目もふらずに毎日グリブることね」


「……いや、あの……。スマホがなくなったんで、むしろグリブれないんだけど……」


「!?……あっ」


「…………」


「と、とにかくっ! こんかいは説明不足だったねハクト。つぎからは気をつけてね」


 キリッとした顔で、そう告げてくるグリーン。

 気をつけるのオレかよ……。

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