第8話 魔王、人里を探す4

これは前世が日本人である俺だからそう思うのかもしれないが、美術品といば絵画や彫刻だけなのだろうか?

この世界の美術品の枠にどんな物が入るのか分からないが、他にも芸術として残すべき品はあるはずだ。例えば陶器とか茶器とか日常品としても使えるようなそんな用の美を備えた美術品が!

懐の『魔王の聖杯』の重さを感じながら彼我の美意識の差に如何ともし難い違いを感じたが、一人孤独に芸術論を闘わせても仕方がない。探索に戻ろう。


順路以外の部屋を粗方調べてみたが、役に立ちそうな物は見つからない。というより物自体があまりにも少なく生活感がない。元より人を招くようなことを想定した建物ではないのだから当たり前といえば当たり前か。美術館のようになっているといっても、客を入れるためのものではない。

芸術性はともかく食器とかフォーク、ナイフのような物があればと思ったのだが・・・

目ぼしいものと言えばバックヤードの陳列してない美術品くらいだ。


最後の部屋は事務所的な使われ方をされていた部屋なのだろうか、いくらかの書類や、本が残っていた。大半は日誌や事務的な物だが、一冊だけタイトルが目を引くものだった。

魔法動人形ゴーレム制作の手引」

思わず手を伸ばしかけたが慌てて引っ込める。他の書類を拾った時に分かったことだが紙はすぐに腐らせて劣化させてしまう。

適当な石を二つ拾って只でさえ崩れそうな本をゆっくりめくっていく。

この建造物の工事に使われた魔法動人形ゴーレムの製作方法にすぐに使えるものはほとんどなかった。魔法動人形ゴーレム制作の魔法は元々使えるのだが、材料が足らない。石材はまだしも宝石、水銀等は手に入れ方の見当もつかない。

唯一可能なのは泥魔法動人形マッドゴーレム制作ぐらいか。

拠点に戻って試してみるとして・・・

しかしヒエログリフの記録が間違いないとするとすでに人類が滅亡しているわけで、魔王としての存在意義レゾンテートルに関わることだな。

現時点ではまだ判断を下すのは早いと思うが、少なくとも衰退してるのは確かだろう。

ここまで人間の生活の後がないと、また一つ決定的な問題が顕在化してくる。


ぐるぅぅぅ~~


つまり食糧が無いということだ。


ここ二日間水だけでごまかしていた胃袋が抗議の声を上げた。

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