第7話 魔王、人里を探す3

建物の入り口は近付くだけで自動で開いた。

厳重なシャッターのような造りだったのにあまりにあっさりと開いてしまい、驚いて思わず後ずさってしまったが、要は只の自動ドアだ。電気がこの世界で使われている(いた)のかは判らないがこの状況で稼働するということは何らかの魔法によるものだろう。魔法をふんだんに使える文明の遺跡ということだ。

中には厚く埃が積り、やはり人の出入りがないことを覗わせる。魔族の基本特性として闇視の能力はあるものの薄暗い建物の中が完璧に見通せるわけではない。特に色味はほとんど区別がつかないので目を細めていると、これも魔法の発動だろう蛍光灯のような光を天井が放ちだした。

色味を持ち出した玄関ロビーで一際目を奪ったのは壁一面を埋めんとする巨大な絵画だ。

流石に絵具がくすんでいるとはいえ、さぞ名のある画家の手によるものなのか美しい森と自然を描いたそれにしばし見入ってしまう。絵画に描かれた森はもしかして今俺が拠点としているこの森なのかもしれない。

「美術館なのか・・・・?」

通路を進むと主に絵画を中心とした美術品が並ぶ、中世風の油絵があれば、東洋風の水墨画、現代アートまでなんでもござれという体だ。美術品の価値は判別できないが、保存状態はともかく優れた芸術品達なのだろう。

順を追って進んでゆくと程なく終点、入り口の手前までたどり着く。やはり美術館と同じような構造だ。

終点の展示にはメッセージらしきヒエログリフが据えられていた。全ての魔術書を解読できる『汎読』の能力で読んでみる。

この文章を残したのはこの美術館を建てさせた本人らしい。

要約すれば人類の滅亡という災厄に対してせめて人類史の残すべき美術品をできるだけ集め、保存するためのシェルターとして造られた建物なのだそうだ。このシェルターを建てる為にいかに私財を投げ打って苦労したかという話が続くと、こう刻まれていた。

「このシェルターを発見した方よ。どうか人類の残した遺産を受け取って欲しい。そして許されるならこの遺産をさらなる未来に引き継いではもらえないだろうか。切に願うものである」

素晴らしい。

どんな災厄かは分からないが人類滅亡級の災厄に遭っても人類の歴史を残そうとするその利他精神。人間の中でも特に優れた存在だったろう。

とうの昔に死んだ身であろうが、生きていれば魔王の幕下に加えても良いと思える程だ。勿論俺に忠誠を誓えばの話だが。


しかし・・・しかしである。ここには決定的な物が足りなかった。

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