第6話 魔王、帝国を興す1
茸小人達には安全になった谷で茸栽培にでも励んでいただいて、俺の方はちょっと遠距離探索にでも足を伸ばそう。
という事で、食料探しの時間を減らして渦を巻くようにくるくると探索範囲を広げていく日々が始まった。
とは言え収穫が目に見えてあるわけではない。
ほとんど無為とも思える探索行だが、森から離れてやはり同心円上に回りながら探索をしていると山脈が連なっているのを見つけたので、それに沿って飛行していく。
「何だか妙な感じがするな」
一度山頂の一つに着地して山脈を見回す。両側へと連なる山脈は一直線ではなく、緩やかなカーブを描いていた。まるで俺の移動に合わせるかのようにだ。
ふと思い立って今まで飛んだことがない高度まで上昇した。
眼下には衛星写真程ではないが地面が広く見渡せる絶景ポイントまで上がり、改めて観察すると違和感の理由に気付いた。
「山脈が円になっているのか?」
厳密には途切れたり、崩れたりしてはいるのだが、こうして上空から全体を見れば、山脈は明らかに巨大な円を作っていた。
その形には見覚えがある。
「クレーターだよな。どれくらいの力が落ちればこんなクレーターが出来るんだ」
俺の力の全力ならばあるいは出来るのかもしれないが、少なくとも俺と同等の力を行使できる存在がいたという事だ。
この辺り一帯が吹き飛ばされた跡地なら人工物が見つからないのも道理か。変な形の建物とは思ったが、あのシェルターみたいな施設も本当は地下深くにあったのかもしれない。
「流石に警戒が必要かもな」
敢えて口に出してはみたが、風化具合からして喫緊の問題では無いだろう。まぁそれでも当面の難敵が水や食料の確保と言う現実から少しだけ目を背ける事は出来た。
「おかえりなさいませ!マオウさま!」
「うむ」
ここ数日恒例となってきたやり取りをして腰を下ろす。
夕暮れ前に拠点に戻ると食事の用意が整っている。
帰ったら夕食が用意してある生活。素晴らしい。こんなに何気ない事が魔王の心を慰めてくれるとは思わなかった。かつては無感動に享受していたが今さらながら感謝を捧げよう。例え最後の方はカップ麺(お湯無)になっていたとしてもだ。
実際食べ比べる茸も味の違いが判別できるようになってくる物で、エノキ風の茸やマッシュルーム風の茸の食感もシャキシャキ、ホロホロと面白い。見た目の突起がグロテスクながらシイタケのようなダシ感のある味の茸も中々だ。
惜しむらくは食べ出が無いので自然と量が増えていくことだ。一個当たりのカロリー少ないのもあるし仕方ない。
「まだまだたくさんありますからね」
山と積まれた茸を前に美少女茸小人がお代わりを促す。すっかりお付きという体だ。
誰かに食べさせてもらわないとならないのは同じなのでそれは良いのだがこの「あーん」の気恥ずかしさには中々慣れない。ちょっと近すぎるんだよな。
くぅ~~
と可愛らしい音が目の前で鳴る。もしかしなくても空腹の抗議の音だろう。
「・・・お前らまさか自分達の食べる分を」
「マ、マオウさまがサイユウセンですから!」
自分の空腹の事よりお腹の音を聞かせてしまった事が恥ずかしいようで腹を隠しながら茸小人美少女は言う。
下々が生存出来ぬほど収奪し尽くすその姿は極めて魔王らしいものだったとか言ってる場合ではなく。
「対策・・・考えないと」
魔王に転生したけど誰もいない件について 文月 狛 @humizukikoma
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