第5話 魔王、人里を探す1

堅牢な城壁が一撃で弾け飛び、崩壊した石塊の礫が家々に降り注ぐ。

王宮も尖塔も砂上の城のように崩れ去る。

川は凍り付き魚を凍えさせ、森は焼き尽くされ鳥は逃げ惑う。

天からの雷は地の獣の悉くを引き裂いた。

異形の魔法動人形ゴーレム達に追いやられ圧死する人々。

地上に現れた恒星に気付く間もなく蒸発する人々。

運よく生き延びた者は自身の不運を嘆くだろう。

次に襲い掛かるのは自分の隣人だった屍者アンデッド達なのだから。

その全ての元凶である魔王は何もかもが腐れ落ちた汚泥に独り佇み歓喜の叫びを上げた。


「さぁ愚かな人間供よ!!魔王に捧ぐ絶望の交響曲を奏でるがいい!!」


そう叫び手足を大の字に広げた俺は、左手が木の根元に当たった衝撃で目を覚ました。

「夢か・・・いい夢だ・・・」

空を見れば日の出の時刻なのが分かる。谷合のここに日が差すのはもう少し先か。

しかしこれから正夢になるだろう素晴らしい夢だった。欠伸をしながら今見た夢を思い返していると


ミシッ


「ミシッ?」

奇妙な音を発した木の根元を見る。

左手の触れた根元が『穢れたる肌』によって腐りだしていた。

必然、大人が抱えきれない程の太さの幹がこちらに向かって倒れてきた。

「ふ、ふふぉぉぉぉぉ!!!」

声にならない声を上げて緊急回避。絵面的にはお遊戯でやる芋虫ごろごろのようなものだったが命がけである。

ズズゥンと大きな音と土埃を立てて寝転がっていた場所に大木が倒れた

「あっ危ね~!!マジで死ぬかと思った!」

触れた瞬間腐っていくとはいえ、あの質量だ。魔法を使えばなんとでもなるだろうがまだ調整が分からないので、咄嗟には使えなかった。

「しかし迂闊に触れないな」

リアル○○菌が付くから触らないで状態だ。掃除の時間に机を運ぼうとしたら泣き出したあの娘はどうしているだろうか。今なら椅子机はおろか体操着まで腐らせられるのだが。

あの時の辛い経験はこのためにあったのかもしれない。

いやそんなことより、本当にそんなことよりだが『魔王の聖杯』の安否を確認せねば!

どうやら無事だった『魔王の聖杯』で朝一番の水を飲んだ後しばし乾くのを待ち、ローブの袂に入れると大空へと飛び立った。

これからが世界支配の本番となろう。

袂の『魔王の聖杯』の重さに頼もしさを感じながら再び哄笑を高らかに響かせた。

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