魔王に転生したけど誰もいない件について
文月 狛
プロローグ
何事も順番はある。
それがたまたま今日だっただけさ。
そんな風に嘯いて一つため息をつく。
まぁ死んでからもため息がつけるとは思わなかったけどな。
暴走車に弾き飛ばされた記憶の後、この明るいとも暗いともつかない天地の区別さえない空間に漂っていた。
おそらくこれが死後の世界というものなのか?
ずっとこのままなのか、それとも天国や地獄に割り振られる待ち時間なのか・・・これからどうなるかと判断する基準さえつかめない空間にどれくらい漂っていたのだろう。いやおそらく時間すらここにはないのではないか。考えてもしょうがないし、どれくらい考えていたのかも分からなかった。
そんな空間に強い光(と受け取れるもの)が天上(と呼べそうな方向)から指しているの気が付いた俺は意識をそこに向けると何者かの意思が直接伝わってくるのを感じた。
「アナタノ今生ハサキホドオワリヲツゲマシタ」
「リスタートヲ希望シマスカ?」
「はい?!」
リスタート?
頭の中で思い浮かべた疑問を受け取ったのか「意思」は説明を続けた。
「アナタノ次転生先ハ、決定シテイマス。リスタート希望ナラバ転生ステータスヲエランデクダサイ」
そういうと膨大なイメージを俺の意識に流し込んできた。
世界を救う英雄
四海を統べる海賊王
伽藍を護る聖者
市井を生きる賢者
荒野を疾る剣匠
大陸を繋ぐ大商人
迷宮を攫う冒険者、、、、、、、、etc
そんなありとあらゆるステータスが頭の中に次々に流れていく。しかしどれも自分らしく感じない。
もし生まれ変わったらとはよく考えていたことだが、いざ並べてみてもどれが自分がそう在りたいものなのだろうか見当もつかない。
死ぬまでの自分の持っていた願望はなんだったろうか?茫洋とした意識を過去に向けていくと一つのステータスが浮かび上がってきた。
「そうか・・・俺は・・・」
そうして俺はそのステータスを選び取った。
再び目覚めたのは祭壇の上だった。
周囲を断崖で囲まれたカルデラ火口のような地形の中心に有る、禍々しい意匠がほどこされた祭壇だ。一枚岩を削り出した重厚なそれから俺はゆっくりと身を起こし、自分の体を見る。
身長、体重そのものは前世と変わりないように見える。しかしこの肌には祭壇に刻まれたものと同じ刺青が彫り込まれており、地の色は美しい赤銅色だ。
この体からは勿論、傍らに安置された荊が巻き付いた杖や、体に纏っていたの精緻な刺繍のローブや、アクセサリーに使われた宝石からも強大な魔力を放っていた。
そう魔力、この世界には魔力という力がある。
自分の体に宿る魔力を自在に使えるという確信。
溢れ出る力を抑えながらも喉からは空気が漏れ出した。最初は僅かなものだったが、次第に哄笑へと変化していく。
「我は魔王!!生きとし生けるもの供よ。我が軍門に下るがよい!従僕には頽廃の喜びを!愚か者には絶望の死を与えよう!!」
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