第一章 第1話 魔王、水を飲めない
哄笑は三分ほどで飽きた。
生まれて初めてやってみたけど、結構喉がかわくなこれ。
魔王として練習しなければならないな。
カラオケボックス的なものでもあればいいんだが・・・
いや俺は魔王なんだからご近所を気にする必要などない。
むしろ地下牢に閉じ込めた囚人にエンドレスで哄笑を聞かせて恐怖で発狂させるなんていいかも知れない。夢が広がるな。
音速を超えたスピードで天空を疾駆しながら自分の
イメージされるのは幾多の強大な魔法達、
常時発動の能力も数えきれない、
『魔王の威厳』『絶望の声明』『魔族の比翼』『不死者の装飾』『穢れたる肌』『闇守宮の肢体』・・・
それぞれがどれ程の力を持つか試していかねばなるまい。ちょうど手頃な山を見つけたので一つ試してみるか。
指先に意識を集中し魔力を発動する。
「
発動する魔法を間違った?そう思わせるほどの業火が裾野一帯を含めて吹き上がった。まるで山そのものが大噴火したかに見えたが、業火が燃え得るもの全てを焼き尽くすとすぐに鎮火し、炭火すら熾せないであろう程燃え尽きた黒々とした残骸が山上に残った。
あまりの威力にしばし目を白黒させていたが、改めて自分の魔力の偉大さに打ち震えた俺は再び哄笑を繰り返そうと大口を開け、喉がカラカラだったことを思い出した。
「まずは川でも探してみるか」
そう考えしばらく飛行を続けると谷合の泉に水を湛える小さな滝壺を発見し降り立った。
滝壺から上がる水しぶきは場の清浄さを際立たせ、畔に妖精を佇ませれば幻想絵画の一幀にでもなりそうな調和の取れた美しさだ。あるいは実際に精霊の類の祝福を受けているのかもしれない。
「ふっ・・・ここが我の最初の征服地という訳だな」
「光栄に思うがよいこの我の渇きを癒す栄誉を与えてくれよう」
支配者の威容を見せつけながら泉の水を掬うと
「ふぁ!」
思わず間抜けな叫び声を上げてしまった。
掬った水が一瞬で放置されたザリガニ水槽のような青緑色に変色してしまったのだ。
「な・・・何だこれ?」
何度掬っても同じように変色してしまう。
疑問に対してステータスの一つのイメージが浮かぶ。
常時発動能力『穢れたる肌』
赤銅色の魔王の肌に触れるものは全て腐り落ちるであろう。
完全な無機物以外に例外はない。
世界を汚泥で包むがよい!
乾ききって張り付きそうな喉からようやく出た言葉は一言だけだった「・・・・・・・・・
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