第11話 魔王、生贄を探す3

そりゃ俺だってドラゴンステーキ(ステータスアップとかしそうだし)とか食べたかったけども背に腹は代えられない。

魔王は草を生やす存在ではなく、根絶やしにするものだ。根絶やしにする前に『穢れたる肌』を発動させないよう這いつくばって直接歯で噛み千切る。

ごわつく葉を咀嚼しながら味わうべきか直ぐ飲み込むか迷うが、味の表現をするなら、「悲しい味」だった。

空腹は最高の調味料とはよく聞く話だが、いささか以上塩分が効きすぎていると思う。


塩分補給の心配は無くなったような気がしないでもない。


ともあれ自動発生する塩味を携え森の探索を進めることにする。

以下は食料確保の苦難の記録となる。

穂先がくるりと丸まった10cm程の濃い緑の草が見つかる、これは見たことがある。コゴミとかゼンマイという山菜だ。

食べた覚えのある植物に喜びいさんで噛り付くが、異様な苦みと渋さ思わず吐き出してしまう。

「これ食えるんじゃないの?」

苦み渋みに耐え切れず口元を歪めながら疑問符を浮かべる。

「・・・そういえば灰汁抜きとかいう工程が必要って聞いたことがあるな」

加工法が分からなければ、今は無理か。

下生えの草にたまに見える赤い実、蛇苺というやつだろう。見た目の鮮やかさに前世の苺を思い出してテンションが上がるが、実際に食べてみると甘味はほとんど無い。わずかな酸味があるだけだ。

まぁ毒ではないようだし・・・

やはり下生えの草に混ざる根元から真っすぐ葉をのばす緑の草、匂いを嗅ぐと独特の刺激のある匂いがする

「葱っぽいよな。この匂い」

恐る恐る噛みつくと、多少青臭いが葱と似たさわやかな風味があってまぁまぁ美味い。根元の方がより食べでがあるようだ。ノビルというやつだろうか。

膝上くらいまで伸びる茎の先に大きめの葉が広がる植物を見付ける。煮物

で食べたことがあるフキじゃないか?

大きく成長した葉は固くごわついて食べれなかったが、新しい小さな葉はなんとか食べれるので茎ごといただく。

俺の背よりいくらか低いほどの低木だが、枝の先に暗い紫色の実をつけている。実を食べると強い酸味の中にもしっかりとした甘味が感じられ、正直かなり美味い。祝福にマオウベリーと名付けることにする。

何より素晴らしいのは実の生る位置が高いから這いつくばらないでも食べれるということだ。


やってもらえれば分かって頂けると思うが、食事を這いつくばって食べるというのは人間としての尊厳に相当なダメージを与えるので、後学の為にぜひ試して欲しいものだ。既に魔王に転生して尊厳を捨てた身でも応えるのだから猶更である。人前でやるとなお良いだろう。俺もあの経験があったから、こうして魔王に転生できたように思う。

魔王となった暁には人間供にこの食事方を強制しよう。

そう俺は草食系魔王(あの独裁者も菜食主義者ベジタリアンだったし)として心に誓った。

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