第3話 魔王、軍団を執る3

マシュの話を聞いても自分達の種族と言う考え方は持ってないらしいと言うことが解っただけだった。

曾祖父の曾祖父のそのまた曾祖父の・・・

まぁとにかく数え切れない程の昔からこの谷にに住んできたそうだ。

当然、自分達以外のヒトなど見たことも、おそらく想像したことさえもないのだろう。

しかしそれはそれとして今は何より聞かねばならない事がある。

どんな事柄より優先して聞かねばならない事、それは


「・・・お主ら・・・『火』って持ってない?」


何やら煙草でも吸いたいかのような言い回しだが、知的生物にあった以上最優先課題である。


「ヒ?」


一斉に首を傾げられる。


「ずっと我の事を観察していたなら分かるだろう?ほら木を黒焦げにしたりする、あの赤いやつ」


火と言うものがどんなものなのかを説明するのって意外に難しい。


「おぉ!マオウ様、マオウ様のようなイダイなお力は私たちには有りません。どうぞお許し下さい」


いや、だからあんなに迄強い力は必要ない訳でね。

こいつら火すら使えない程の文化レベルなのか。随分と原始的な生活なんだな。

石器時代レベルの生活をしている俺にそんな事を言う資格はないかも知れないけど。

ん?


「火を知らんと言う事は、主らはどんな食事をしておるのだ?」


「マオウ様!お腹が減っていらっしゃるのですか?」


正直に言えば転生してこの方腹が減ってない日はないぐらいなのだが。

それにしてもこの小美少女、本当に好奇心旺盛と見えてぐいぐいくるな。

俺だったら自分の10倍はある生き物なんて近付くのもいやだ。

会話に割り込んでくる小美少女にある種の尊敬さえ感じる。

長老のマシュもこの娘を扱いかねているのが分かるが。ここはこの娘と会話を進めて行くのが良さそうだ。

他の連中はひたすら平伏し続けてるし。


「こちらへどうぞ。私たちの畑がありますから」


小美少女に促され森を進んでゆくと着いたのは朽木の集まった広場のような空間だった。

畑と言うイメージには似つかわしくない場所に見える。


「これが良く育って美味しいですよ」


屈託のない笑顔と共に差し出されたのはコメでもムギでも無く、一房の茸だった。


「・・・・・・」


生の茸って食べれるんだっけ・・・

茸の刺身とか聞いたことないな。


しかし精一杯背を伸ばしながら茸を突き出す娘に「それって本当に食えるの?」等と聞くのも頂けない。

何より周りの不安と期待の入り混じった視線が重圧プレッシャーを感じさせる。

未開部族との交流は一緒に飯を食う所からだとも聞くし。


潔く茸に噛り付くと茸独特の甘いような香りが口に広がる。


「・・・・・・・・・・!」


可もなく不可もなく、まぁ食べれる、か?ぐらいの味ではあるが、一斉に歓喜の叫びを上げられたので、むしろ周りの反応に驚いて謎のポーズを取ってしまう。

その謎のポーズを更に真似されて踊りだしたりするから、よく分からない祭りのよう騒ぎになる。

喜びの踊りとでも思われたんだろうか。


「お口に合って良かったです。私たちと同じ木で育てた茸ですから美味しいでしょう?」


いや正直そんなに美味いとは思ってないけど、焼いて醤油とかあればな。

私たちと同じ?って事は。


「お前らってもしかして妖精とか精霊じゃなくて茸なの?」


「?、はい、そうですよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る