5. レトロゲームには夕暮れ時が似合う
――レトロゲームには夕暮れ時が似合う。
そのようなキャッチフレーズをつけて拙作『レトロゲームと古本屋』を夕方にツイッターで宣伝したことがあります。
私的には結構気に入っているこのフレーズ、特に深く考えもせずあるとき唐突にふと頭に思い浮かんだものだったのです。
でもなんで夕暮れ時なんて思ったんだろう? 作中の時間帯は夕方だっただろうか……と読み返してみても、夜、昼下がり、夕方、とまちまち。
そこで少しばかり昔のことを思い返してみると……ほう、なんてことはない。当たり前の理由がありました。
小学生の頃、私は剣道の道場に通っておりました。
だいたいいつも、18時くらいから稽古が始まります。
そして、小学生といえば15時くらいには学校が終わります。
家に帰って稽古まではまだ少し時間がある。
ここでゲームの登場……はまだですね。夕暮れ時というにはまだ早い。
幸いなことに、道場までの道すがら、私には寄り道をする場所がありました。
それは『友達の家』と『古本屋』です。
ある日は、友達の家へ。
一緒に道場に通う友達の家へ立ち寄り、夕方までゲーム。
プレイする側も見ている側も、楽しいんですよね。
限られた楽しい時間は過ぎ、やがて日が傾き、西の空は夕焼け。もっと遊んでいたくてギリギリまでねばるが、サボるわけにはいかない。
あきらめてゲームを打ち切り、そのまま友達と一緒に道場へ向かう。
これはまあ、夕暮れ時ではありますが、ありがちな思い出ですね。
またある日は、一人で古本屋へ。
その古本屋はまさに、作中の古本屋のモデルになっているお店なのです。
入口の自動ドアを入ると、左手にレジカウンターと箱なしファミコンソフトが所狭しと並べられているガラスケース。右手にはスーパーファミコンやその他ハード用のソフトがみっちり詰め込まれたガラスケース。店の奥には背の高いスチール製の本棚がずらりと並ぶ。
残念なことに、作中と違ってゲーム機で試遊できるスペースはないわけですが。
このソフトの入ったガラスケースというのが曲者で、カギをかけられていてソフトを手に取ることができない、パッケージをよく見ることさえできないという状態なわけで……。
そこでちびみれにんがどうしたかというと、ガラス越しに見えるソフトのラベルを見て、「あのゲームはどんなゲームなのだろうか? ジャンルは? やけに安いけどクソゲーなのか?」と想像するのです。スマホはおろか、携帯やPHSだってまったく普及していない時代でしたからね。ましてや小学生、流行りから外れたゲームを調べる手段なんて持ち合わせておりません。まあ、たまたま攻略本なんかが置いてあれば話は別ですが。
ガラスケースにじっと張り付き、ひたすら想像、妄想。脳内に構築されていく自分だけの想像上のゲーム画面。
店員さんから見たら、さぞかし変な子供であっただろうと思いますね。
そしてひとしきり脳内で楽しんだら、何も買わずに店を出る。
仕方ないですよね、小学生ですからそんなにぽんぽんソフト買えるだけのお小遣いなんてもらってませんもの……仕方ないですよね!?
外に出てみれば夕暮れ。そろそろ稽古に行く時間だ、となるわけですね。
こちらの夕暮れ時のほうが、いかにも私らしいのではないかなと。
小さな疑問も解消されたところで、もう一度言わせていただきます。
――レトロゲームには夕暮れ時が似合う。
と。
ちなみにあの古本屋、秋田市内に何店舗もあったのに、今はすべて閉店してしまったようです。
これもまた、ガラスケースをのぞきこんでいたときのように、私の妄想により脳内で再構築され、レトロゲーマー御用達として進化した古本屋として生き続けるのです。
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