12. Brand-new Gameが私を成長させる(前編)

 もう少しとのお話をさせていただきます。

 うちのパソコンゲームハードとして君臨した『PC-9821Ce2 model T2Dマルチたん』。スペックを公開しましょう! みなさん、ついてきてくださいねー!


 CPUは32ビットi486SX 25MHz、メモリは5.6MB。

 内蔵HDD170MBにMS-DOS5.0A-H + Windows3.1がプリインストールされ、3.5インチフロッピーディスク2基と倍速CD-ROMドライブまで搭載。

 音源はPC-98シリーズ最強のFM音源であるPC-9801-86音源。

 これでゲームをやらずになにをやれというのかっ!?


 あ、えーと、どれくらいの人がこれついてこれてるのか、心配です……。

 このあともまだまだ出てきますよー、覚悟してください!



 マルチたんをお迎えして年が開け、1995年。

 これだけMS-DOSでのゲーム環境が整っているのなら、遊び倒さねば! と思いつつも、中学生のおこづかいではなかなかパッケージソフトを買えるものではありません。

 しかし、パソコンには家庭用ゲーム機にないソフトの流通方法がいくつも存在します。その中でも当時の代表的なものを三つほどあげてみます。


 まず一つ目、パソコン通信。

 インターネットが一般的には普及していない90年代前半、『ニフティーサーブ』や『PC-VAN』、『アスキーネット』など、ホストとなる局のサーバーを通じてデータ通信を行うサービスが全盛期だった、とのことです。そのコミュニティで各個人が開発したフリーソフトやシェアウェア等が公開され、無料もしくは安価にソフトを手に入れることができたそうです。

 なぜ伝聞調なのかといいますと、理由は簡単。うちはパソコン通信やらせてもらえなかったのです……。そんな毎月何千円も通信費なんて払ってられないから! と親に一蹴されました。『テレホーダイ』なんていう深夜限定定額通話サービスができる直前のことでした。

 まあ仮に『テレホーダイ』があったとしても、1,800円ないし3,600円なんて払ってくれるはずもなく、泣く泣くあきらめることにしました。


 二つ目、雑誌や書籍。

 先ほどのパソコン通信でやり取りされていたソフトなどは、雑誌の付録のフロッピーディスクやCD-ROMに収録して配布されることもありました。これはパソコン通信ができない私にとっては本当にありがたいことでしたね。PC-98シリーズ専門誌としては、『Oh!PC』なんかが代表的だったのではないでしょうか。また、Vectorの『フリーソフト&シェアウェアPACK』というCD-ROM10枚組、収録ソフト数約16,000ととんでもない書籍を購入し、長年愛用させてもらいました。

 また、雑誌や書籍でオリジナルのソフトがついてくるケースもありました。その中でもコンパイルの『ディスクステーション』は、毎号オリジナルゲームが6本前後収録されているというなんともうれしい雑誌でした。ジャンルもアクションやRPG、シミュレーションなど多彩なラインナップ、中にはかの有名な落ち物パズル『ぷよぷよ』の原作である『魔導物語』の外伝的な作品もあったりと、サービスもボリュームもたっぷりで楽しませてくれました。


 最後に三つ目、『ソフトベンダーTAKERU』。

 これは本当にすごかったですね。パソコンソフトの自動販売機です。

 パソコンショップの店頭に設置された巨大な専用端末を操作し、購入したいソフトを選択すると、ネットワーク経由でソフトがダウンロードされてディスクに書き込んでくれる、というものです。マニュアルもプリンタで印刷してくれます。

 パッケージとして販売されていた旧作品が廉価版として販売されていたり、同人ソフトが販売されていたりと、地方民にとってはものすごくありがたい存在でしたね。TAKERUオリジナルタイトルなんかもあったと思います。

 ただ一つ問題があるとすれば、購入時間がものすごくかかる、というところでしょうか。

 当時の回線速度なんてたかがしれていますので、ダウンロードに時間がかかります。さらに、ディスクへの書き込みもフロッピーディスクなのでこれもまた時間のかかるものです。そのため、購入のために何十分も並ぶということも多々ありました。

 結局これも今はもうないのですが、『ディスクライター』と同様に、コンテンツ配信のパイオニアとしての役割を果たしていたのではないかと思います。


 このように様々な入手手段があったおかげで、私のPCゲーム生活は充実したものとなりました。そして、ゲームを起動するために必要なPC設定にも精通していきました。

 例を挙げると、マルチたんの搭載メモリは5.6MBなのですが、MS-DOS上で動くアプリが利用できるメモリはそのうちの640KBのみという制約があります。そのため、MS-DOS起動時に使われるドライバ――CD-ROMドライブを動かすためのドライバ等ですね――をメインである640KBの領域ではなく拡張領域の5MB側に読み込ませて、ゲーム起動に必要なメモリ容量を確保する、というゲームとは無関係のPC知識がどんどん身についていったのでした。ゲームがからむと人は成長するんですねえ……って、そんな人あんまりいませんかね?




 私とマルチたんのゲーム生活には、まだまだ試練が降りかかります!

 待て、しかして希望せよ!

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