11. 本音と建前

 1994年、みれにんリアル中二の年末のこと。

 『セガSサターンS』『プレイPステーションS』の次世代機の発売に世間が沸き立つ中、うちに新たなゲームハードがやってまいりました。

 その名は『PC-9821Ce2 model T2D』。名前長くて覚えづらいけどよろしくねっ。愛称は『98MULTiマルチ』、その三代目だよ。某メイドロボットと名前かぶってるけど、私の方が先輩なんだからっ!


 ってそれ、ゲームハードじゃないー!? とつっこまれそうですね。

 いいんです! 私には、ゲームハードです!

 こいつをお迎えするまでには長い長い苦労がありました……。



 1993年春。私は中学校に入学しました。

 授業の中には選択授業というものがあり、何種類かの中から好きな授業を選ぶことになりました。そこでパソコンの授業を選択してしまったのがすべての始まりだったと思います。

 初めての授業。真新しいコンピュータールームに入ると、新品のパソコン特有の何とも言えぬかぐわしき香りが立ちこめている。そしてそこにずらりと鎮座するはNECの『PC-9801FX』。

 ところどころに曲線を用いた美しいホワイトの立方体。あこがれの3.5インチフロッピーディスクドライブ。専用のディスプレイ。ああ……これは、いい。完全に心を奪われてしまいました。

 実際に98の電源を入れてみると、さらにその思いは強まったのです。

 当時はまだパソコンが一般家庭に普及しているとはまだ言えないような時代。そのためか、授業とはいえ、内容は『パソコンにふれてみよう』程度のものだったため、パソコンの内部や仕組みを知ることのできるゲームをプレイすることになっていました。

 そのゲームは、アスキーの『INSIDERS-魔王ハルトンの罠-』というRPG。これがまたよくできたゲームで、パソコン内部に閉じこめられてしまった主人公が、敵と戦ったりアルバイトをしたりしながら脱出を目指すというもの。敵と戦ったあとに報酬を得るには、二進数のAND、OR、XORなどの演算を行わなければならなかったり、アルバイトもASCIIコードからアルファベットに変換するものだったりと、非常に凝った作りになっていました。

 そんなファミコンとかでは考えられなかったようなニッチなゲームが、当時の家庭用ゲーム機には決して出せない高解像度の映像で楽しめる。

 ――なんだこれ、これが本物のってやつなのか? 授業のある週一じゃ全然さわり足りない、もっと遊びたい!

 それまでパソコンといえば、シャープの『MZ-700』という親のおさがりの8ビットマシンしか触ったことがなかった私。記憶装置はカセットテープだし、映像出力はRFスイッチでテレビにつなぐファミコン形式だし。うちにあるソフトもプログラミング言語の『BASIC』くらいでしたしね。

 そんな私が最新のパソコンに魅了され、購入を決意する春でありました。


 まずは情報収集を、と思い本屋で手に取ったのはパソコン雑誌『マイコンBASICマガジン』でした。

 パソコンの最新情報からプログラミング講座、読者投稿のプログラム、はてはパソコンをはじめとするあらゆるプラットフォームのゲーム紹介や攻略まで、ありとあらゆるパソコン情報の詰まった雑誌でした――今は残念ながら休刊となっています。

 毎号毎号すみからすみまで繰り返し読み、パソコンの情報を頭に叩き込んでいきました。

 やはり注目したのは、パソコンの最新情報。新しいハードの紹介や使用レポート、パソコン通信の始め方など、パソコンの活用方法を紹介してくれる記事が私の知的好奇心をくすぐりました。

 また、プログラミング関連記事ですが、当時の私はプログラミングなどほとんどしたことがなく、読んでもほとんど意味不明なことだらけでしたが、を学べたのは大きな糧となったと思います。

 さて、それらの記事は確かに魅力的で、パソコンへの興味をさらに強くするものではありましたが、やはりここからががみれにん。そう、ゲーム記事です。

 家庭用ゲーム機コンシューマーでは目にすることのない、もしくは、コンシューマーに移植される元となったゲームの紹介、レビュー、攻略。これらをうちで遊びたい。これから出てくると言われている次世代機なんかよりももっと楽しそうじゃないか。日に日にその感情が増していきました。

 だがしかし、パソコンは高かったのです。

 少し調べてみたらわかったことだったのですが、私が欲しいと思ったPC-9801/9821シリーズなんかは、安いものでも10万は下らないものでした。

 さすがにという理由で高価なパソコンを買うのはちょっと気が引けました。

 そこで私は一つの作戦を思いつきました。武器は『マイコンBASICマガジン』。これを定期購読することにしました。この姿勢を親に見せることによって、一つの理由付けができるわけです。

 そう、という建前が。


 それから一年半、毎月雑誌が家に届くたびにじっと読みふけり、パソコン(とゲーム)への興味と知識を高めていったのです。今思えば、よくもまあ本体もないのにそこまで情熱を持って読み続けられたなあと自分のことながら感心してしまいます。

 そして中二の冬、これだけ熱心にやっているのなら買ってもいいだろうと親にも許可を得られ、今まで親にずっと預けていたお年玉を解放! 型落ちで半額になっていた――それでも20万弱はしましたが――『PC-9821Ce2 model T2D』をお迎えすることができたのです。

 このパソコン、ただ型落ちになってたから選んだわけではありません。当時としてはとんでもない機能を持ち合わせていたのです。

 それは、ディスプレイ付き、だったのです……!

 何が言いたいかというと、このパソコン一台で今家にあるゲームハードをすべて遊べる、ということになるわけです。

 RFスイッチ(『10. ミンナニ ナイショダヨ』参照)をつないでファミコン&ディスクシステム。

 ビデオ端子にスーパーファミコン。後に購入することになるPCエンジンDUO-Rやセガサターンなんかもいけます。

 そしてパソコンの電源をつければPC-98用ゲームやWindows3.1用ゲーム。

 ああ、なんて幸せなゲーム空間……。

 あ、たまにはプログラミングもしますよ? 『N88-日本語BASIC』もちゃんと同時に買っていましたからね。


 始めのうちは『プログラミング』という大義名分を掲げていたため、ゲームソフトを買うのは自重しておりました。そのため、まずはWindows3.1に標準で入っていたゲームで遊んでいました。みなさまご存知、『ソリティア』『マインスイーパー』ですね。

 まず始めはルールもわかりやすい『ソリティア』からはまり、徐々に『マインスイーパー』の魅力に取り憑かれていった感じでした。

 気がつくと、暇さえあれば『マインスイーパー』のタイムアタックをしているような状態でした。マスに表示される数字を頼りに地雷を撤去していく簡単なお仕事。これが思いのほか没頭してしまうのですね。結構頭使いますし。

 ここから始まり、『マインスイーパー』は私のWindows歴の中で最も起動回数の多いアプリなのではないかなと思っております。だって、ネットのつながらない職場だとしても、Windowsさえ入っていれば昼休みに遊べますしね。プリインストールなので文句も言われないですし。

 今では私のWindows 10 Mobileにもばっちりインストールされています。



 そんなわけで、購入に至るまでの流れと購入初期の活用方法で、というのも少しはおわかりいただけたのではないかなと思います。

 このあと、さらにPCゲーム三昧の日々が訪れるわけですが、そのお話はまたの機会に。




 ちなみに、を年末にお迎えし年が開け、がっつり遊んでやるぞーと思っていた矢先に一週間以上も高熱で倒れ、その横でマルチたんで『ソリティア』に興じる私の父の姿がありましたとさ。

 わ、私のマルチたんなのに……とぐったりしながら悔しがるみれにんでした。

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