恐 1

「──────!」

「わ!」


 晴明せいめいはいきなりこうの体を抱きしめると、瞬間移動するかという早さで飛び退った。

 同時に、今まで立っていた大地が噴火のように、土砂や岩を吹き出して大きく轟く。

 ただ呆然と見るしかできなかったが、気づけば后と晴明の周囲には朱雀、青龍、白虎、玄武の四天王がそれぞれ武器らしきものを構え、変動する大地を睨んでいた。


「……今、晴明が岩人形を倒したばかりだよな……? また、こといがやってるのか?」

 見るが、言や瑞宮みずみや、フランス人形が何かを仕掛けているようには見えない。


「違うよ、兄さん。僕じゃない」

《グォォォォ……》

「うわ……!」


 うなり声を上げる巨大な土の塊は、どう見ても后を狙っている。


「后! ……〝激進〟!」

「皇子様! ──〝死刃〟!」


 塊による岩や土砂の攻撃からは、甘雨が多折棍棒を武器とし、そして破は手にする数珠(?)のようなものを投げ、その波動を武器として助けてくれた。

 多折棍棒が白青のオーラに包まれ、それが龍のうねりとなって土の塊の右腕部分を破壊すると、さらに白虎の放った気が白いエネルギーの煙を立ち込めさせて胴を斬る。


(っ、強い……! というか、オレ最低じゃん! まったく力がなくて……!)

 わかってはいたが、いざ実感するとかなりキツい。


「結界を作って、后様を護れ。水終」

「わかりました。──失礼します、皇子様。〝万物囲収〟」


 蛇の刀を水終が一振りすれば、后の周囲に光の結界のようなものができる。

 途端、土の塊が何を投げつけてこようとも、まったく届くことがなくなった。

 ありがたいが──情けない。后は、拳をぎゅっと握る。


(役立たずじゃん……オレ。闇皇候補とか言われてても……っ)

 そんな悩んでいる間に、気づけば斬られたはずの塊が、再び周囲の岩や土砂を吸収して復活しようとしていた。──さらに。


「え? ……あっ!」

 本気で驚く。言は、とても冷静に土の塊を凝視していたけれども。

「なんで!? 言のことも襲おうとしてるんだよ……! こいつ!」


 巨大な土の塊は、后が結界に護られたと知るや、今度は言を襲いにかかる。

 言は冷めた表情で眺めていたが、塊傀儡が吐き出す土や岩を軽く避けていた。


「へえ……。では、主神言殿ではなく、他の皇子の手の者の仕業か?」

「知るかよ……! つーか、気のせいじゃなくて……っ、この化け物……!」

 ──────力を増してる気がする避ける言にも、余裕の表情はなくなりつつあった。


(マジかよ? 言が表情歪めてる……?)

 手を翳して、何度も光球のようなものを出しては傀儡を破壊するのだが、すぐに再生するのだ。瑞宮も一緒に闘っているが、しかしまるで傀儡を止める手だてになっていない。


「うわ……!」

 とうとう間が狭まり、傀儡が言の腕を尖った岩で突く血で、シャツが染まった。

「……っ、言……!?」

 后の目前で、言の腕から血が流れる──本気で、怒りを覚えた。

「っ、ざけんな、てめー……!」

「后っ!? ちょ……! 危険だって!」


 甘雨の制止も聞かず、后は結界を飛び出すと言の元へ走っていく。

 そして言を背に、巨大な傀儡と向き合った。

 鋭利な岩の欠片が、ぴしぱしと后の顔や腕を掠めていく──気にしない、言を助けるのが先決だ。

 言の腕を傷つけた罪は重い。この傀儡をぶち壊してやらないと気が治まらない。


 ────体中が、真っ赤に燃えるほどの怒りを憶えた。


「……っ、オレの大切な弟に……っ、何してくれてんじゃ! こるあ!」

「!! 后兄さん……っ!?」

 叫ぶのと同時に、后の頭上に火の鳥のようなものが見えた気がする。


 それが巨大な傀儡に襲いかかり、一瞬にして食い尽くす。

《オオオオオ……》

 土と岩なので、火で燃えることはない──しかし、ガラガラと、傀儡は激しい音を立てて下から崩れ倒れていく。


「……ったく……この野郎……! 言! ケガは大丈夫か!?」

「平気。私は治癒力に長けているから──任せて」

 すると前鬼くさびがやって来て、言の傷に手を触れる。

 その言葉の通り、パア、と光が傷を包み込み、あっと言う間に言の腕の傷はなくなった。


「よかった……」

 呟きは、心からの安堵によるものだ。


「あの程度の傷なら、言様──ご自身で治せます。わざわざ、前鬼楔が治癒する必要はありません」

「え?」

 ほっと一息ついた時、背後から知らない声がする。


「……面白いですね。自身の危険では、能力が発動しにくいのに、言様弟君の危機ではビギナーであるにもかかわらず、あれだけの能力を発動させられるとは……」

「……っ!」


 ばっと振り返るしかし、そこには。


「帰りが遅いから心配しました。しかし、第一継承権を持つ皇子とご対面を果たしたようで──それは、幸いなこと」


 佇んでいたのは、一人の(かなりイケメンな)青年だ。

 晴明よりも年上に見える──一見すると実業家風のインテリだが、何を考えているのかわからない、得体の知れない恐怖を感じさせる男だった。

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