解 3
「えっ!?」
いきなり背後から声をかけられ、驚いて振り返る。
「……っ!?
「
橋のたもとには、今頃サッカーをしているはずの幼なじみが立っていた。
しかも──知らない連中を三人も引き連れている。
(……。……部活のダチ……じゃ、ねーよな……)
何せ、同じ年頃がいない。
ホストっぽいケバ系の美形兄ちゃんと、殺伐とした雰囲気を醸し出しているナイスバディの超美人姉ちゃん、この二人は二十代前半のようだ。
そして、黒い和服の年齢不詳で暗そうな美形もいた──若くも見えるし、年くっているようにも見える。微妙だ。
「どこまで説明をされたので?
和服が尋ねる。
「闇皇や主神言との関係と、后様自身の置かれた立場についてですよ、
「──では、我々の紹介も含めて詳細はこれから話しましょう」
ケバい兄ちゃんが晴明へお辞儀をしつつ口を開いた。
さらに、周囲をぐるり、と見渡しつつ美人も静かに告げてくる。
「そろそろ日が暮れます。いかに
「じゃ、晴明様が宿泊してるホテルに行きましょう。それでいいな? 后」
確認を取ってきたのは幼なじみの甘雨だった。
「えーと……」
そんな、話題についていけない状況で同意を求められても困る。
「……甘雨。お前、晴明と知り合いなのか? それに、お前の連れは一体何者……?」
「まあまあ、そういう話も含めてホテルでしましょう。甘酒もなくなったことだし」
(おいおい晴明、甘酒は常にストックしてあったのか?)
ホストを背に、后に答えたのは甘雨でなく晴明だ。その瞬間、ケバい背景に睨まれたのは気のせいだろうか?
「ホテルって……。泊まる必要あんの? 闇世界って、遠いのか? 利用してるホテルはどこ? あ、アクセスを考えて駅直結のところか? つか、駅とか使うのか? 闇世界から来る時」
「いえ、能力者ならば瞬間移動できますから。オモテから闇世界まで一瞬で直行ですよ。──それから、
「……晴明ゆかりって……。まさか……?」
「そうです。あそこは、安倍晴明屋敷跡に建っているだけでなく、現代陰陽道と風水の集結するホテルでもありますし」
「やっぱりか!」
だからロビーでお茶を飲んでいたんだ、と納得している場合ではない。
「……おい、あそこ。言も泊まってねーか?」
「もちろん、分はわきまえていますよ? 皇族よりよい部屋には泊まれないですからね、インペリアルスイートは遠慮して、
「部屋のレベルは聞いていねーよ! なんで言と同じホテルに泊まってるんだっての!」
しかも、レベル下げたとはいえ簡単には泊まれない超高級な部屋だ。
「主神言に聞いてください。私はオモテでの仕事の際は、必ずこのホテルに泊まると決めていますし──ほら、会員証」
「っ、出張サラリーマンか!」
──ああ、もう。本当に疲れる。
「落ち着けよ、后。あんまり興奮すんなよ、体に悪いだろ? 心配になる。な?」
「っ、うるせー甘雨! 晴明と知り合いだってことを内緒にしていた、てめーも同罪だあ!」
ぎゃーと叫ぶ。
「わかった、わかったから后、落ち着けって。また空手の練習相手してやるからさ」
しかし、甘雨に肩を抱かれたまま引きずられるように神泉苑を後にしてしまった──この身長差が憎い。
「……ガキくさ……」
(────はぁ?)
しかし。通りに出たところで背後から溜息とともに声が漏れ聞こえた。
明らかに后へ向けた呟きだ──ムカっとして思わず振り返れば、ホストと視線が合う。
「……おい、ケバ兄ちゃん。何か言ったか?」
「麗しい晴明様に下品な態度で接するなって、言いたいだけさ。皇子様」
「……。……麗しいだぁ……?」
見下した口調である。悔し紛れに「どこがだ!」と言ってやりたかったが──。
(……無駄に美形め……っ)
確かに──晴明は、その表現に値する。問題ありすぎる性格を差し引いても。
「──お気になさらず。この男三の
するとお姉ちゃんが説明をしてくれる。しかし、声音はクールで感情の抑揚がない──ロボットみたいな喋り方だ。なまじ、かなりの美女だから迫力があった。
(さ、さんのげっしょうって……何?)
しかし、美女は、聞きにくい雰囲気を漂わせている。
後で、甘雨に訊くことにしよう。
「皇子って言い方は恥ずかしいから……やめてくれるかな? 后ってさ、気軽に名前で──ほら、オレの方が年下だし……っ」
「それは無理です、皇子は皇子ですから」
「────」
和服もぼそり、と言ってくる。
────この和服が喋ると、空気が重くなる気がするのだが。
「なあ……晴明。この集団で、ホテルまで戻るのか?」
「別に、ここからならば大した距離じゃないでしょう?」
「距離の問題じゃなくてさー……」
周囲の目が痛いのだ。
后にはおんぶオバケ(甘雨だ)がいるし、晴明にはケバホストの背後霊がついているし。
ナイスバディのねーちゃんはロボットみたいだし、和服は暗いし。
────何より重大ポイントは、晴明以下四名がみな超美形ということで(后は自分のレベルを自覚していない)。
「──立っている今だけでも、ほら……衆人環視じゃん……? 二条城から出てきたあの外国人集団なんか、オレらの写真撮ってるし。オレとしては、できるだけ迅速に人目のつかない場所へ行きたいんだけど……」
「じゃ、走りますか? それぞれダッシュでホテルまで」
「違う意味で、もっと目立つだろ。それ」
想像したくない。
特に問題なのは──多分、和服の(暗い)男だ。
袂をばっさばさとひるがえした全力疾走は、間違いなく外国人観光客の皆様方に喜んでいただけるはずだ。
「それも嫌なんですか? ワガママですねえ……じゃあ」
「何か手があるか?」
ワガママじゃねーよまともな感覚だよ、と言いたいのをぐっと堪える。
「伏見山から神泉苑に飛んだように、瞬間移動しましょう」
「…………」
あっさり言われたが、それを肯定するのには勇気が必要だった。
──前にそれをされた時は、かなり気持ちが悪かったのだ。
ぐんにゃりと足元がスライムに飲まれるようで──闇に落ちていく感覚で。
「……みんなが見てるのに?」
「何とでも、記憶操作をしますよ」
「……。……晴明一人で、この人数を移動するのか?」
「いえいえ。后様以外は皆、瞬間移動できる能力を持っています」
言われて、思わずばっと甘雨を見てしまう──視線を逸らしやがった。ムカツク。
「いやあ、内緒にしていたんじゃねーよ? ただ、后が質問してこなかったから……」
「っ、『瞬間移動できる?』なんて質問する人間なんかいるかふつー! くそーっ、教えてくれねーで、長いこと側にいやがって……! オレが知らないことばっかじゃねーかよ!」
しかし、背に腹はかえられない。
「……観光客に囲まれているこの現状に耐えられません。──すみませんが、飛ばしてください」
屈辱だが──晴明へ、頭を下げることにした。
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