再 3
なぜかドキリ、とする──心が見透かされるような、あまりにも澄んだ色をしているのだ。
しかし。
「……
「っ、
思考は中断だ。言が意識を取り戻したのだ。
「痛いか!? すぐに医者に連れていってやるから! 背負ってでも! な!?」
「大丈夫……っ、歩けるし……」
「けど……」
強がっているが、かなりつらそうだ。
「──おい、手を貸せよ。お前なら、言に肩貸してやれるだけの背丈あるんだから」
冷めた様子で眺める晴明へ言えば、嫌そうに
「遠慮します。
「っ、てめ……! いい加減にしろよ! 言を警戒しろとかゴチャゴチャ命令するわ、こんな時に協力もしねーわ! 何様だ!」
「さる皇族の、側近なんですよ」
「────もういいや。お前の協力、要らない。言はオレがなんとかする」
妄想危険男なんぞ、頼りにしたくない。一気に怒りが冷めた──つか、喋りたくなくなった。
「……ねぇ、后さん」
「なんだ? どこか痛むか……?」
身長差は結構あるが(認めたくないが、十五センチくらい)、参道を下り始める。
言は素直に后に寄りかかりつつも、ちゃんと自分の足で歩いてくれていた。
「大丈夫。本当に后さんは優しいな。……僕のこと、すごく大切に想ってくれてるんだ?」
「当たり前だろ。お前がオレを兄貴だって言ったんじゃねーか。だったら、兄貴が弟分を大切にするのは、当たり前だ」
「そっか……。ありがとう」
こんな二人の会話をどう聞いているのか。
振り返る余裕はないからわからないが、晴明は半歩後ろにいるようだ。
「ずっと僕を庇ってくれたよね。……嬉しかった」
「当たり前じゃねーかよ。それより、言こそもう無茶すんなよ? 弟は素直に兄貴に護られていればいいんだから」
「……そういうことを言ってくれたのって、后さんが初めてだ」
しみじみと告げられる。
「これからはもっと言ってやるよ。当たり前のことだしな」
「当たり前……。じゃあ僕は、后さんにもっと甘えてもいいのかな……?」
「全然OK。できる範囲なら、いくらでも甘やかしてやるぜー」
ははは、と笑って答えてやる。
「……サイアク……」
しかし、まるで絶望したかのように背後で晴明が呟いた。
(聞こえよがしに溜息ついてんじゃねーよ……)
呆れた雰囲気が、わざとらしいほど流れてくる。蹴飛ばしてやりたいが、階段なのでそんな余裕はない。言に肩を貸してもいるし。
「ねえ、后さん」
言の体を気に掛けつつ注意深く階段を下りる后へ、疑問を含んだ甘えた声音が降り注いだ。
「あ、そこ階段崩れてるから気をつけて──ん? 何だ?」
「約束だよ? 何があっても、僕の味方でいてくれるって」
「当然じゃないか。たとえ世界中の全員が言の敵になっても、オレは言を護ってやるよ」
「ずっと嫌わないで、好きでいてくれる? 約束してくれる? 后さん」
「? ああ。約束するけど……」
念を押す様子に、ちょっと不思議な気配を感じる。
──というより、急に周囲の空気が変わった。
「……え? 何だ? この異様な雰囲気……? 闇鬼でもねーし……」
「……バカ……。ホンッキで、取り返しのつかない“契約”してしまったよ……」
周囲に警戒していれば、晴明が意味深な呟きを漏らす。
「は? 何だその“契約”って。おい、晴明……」
「ありがとう──すごい、嬉しいよ。后兄さん」
「兄さん? ──へ?」
「〝天鳴──動〟」
口調は変わらないが、声質が変化する──エレベーターの前で聞いていた冷たい声音と同じだ。
やはり言のものだったのか、と訊こうとしたが、ゴゴゴ……と周囲の地や石段が大きな騒音とともに破壊されて、とてもそんな余裕はなくなる。
「うわ……! 地震!?」
「“契約”は絶対なんだよ、后兄さん。僕が勝ったら、十二神将最後の地位に就いてよ? 闇皇と表裏一体の立場になるんだ」
「はぁ!? ナニソレ!? 表裏一体!? つか、“やみおう”って何だ!?」
地響きが鳴り続き大地が割れる中で、何に動揺していいかわからない。
「っ、どんな急展開だーっ!」
「驚いているのは、后兄さんだけだよ。だって、晴明は最初から言っていたじゃないか。──僕に気をつけろって」
「はあっ!?」
今までの弱っていた様子も急変し、言は后の肩に腕をかけたまま満足そうに笑う。
しかし、后には余裕なんてない──大地震のように、地面が揺れているのだ。
「だーから、注意したでしょうに……。自業自得ですよ。あ、説明は落ち着いた場所に行ってからしますので」
溜息をつく晴明も、この状況で平然と立っている。
鳥居に必死にしがみついているのは、后だけだ。
「嫌味たらしく溜息つきながら、暢気にしてんじゃねーよ! つーか、呆れる前にこの状況を説明しろ! 晴明!」
「嫌ですねえ。逆ギレですか? 何でも教えていたら、勉強にならないじゃないですか」
「っ、勉強する前に死ぬわ!」
鳥居までも倒れそうだ──本気で危険である。
「うわ……! 石塔が……!」
ぐらり、と落ちてくる。あんなのの下敷きになったら、一巻の終わりだ。
「后兄さん、大丈夫?」
しかしその前に、言が后を抱えて庇い、晴明が石塔の動きを指先一本で止めた。
「……仕方ありませんね。移動しましょう」
「うげ……! 怪力……!?」
「〝大地──静〟」
晴明が唱えるのと同時に、地震もおさまる。
「后兄さんのルックスも僕は気に入ってるんだ。グチャグチャにはさせたくないよ。ま、石塔が崩れ始めたなら大地を鎮めるのは適切かな」
「ははははははは……」
──言外に、
『グチャグチャにならないなら、石塔の下敷きになってもいいよ』
と言われている気がする──正直、感謝の言葉は出しにくかった。
「──ということで。申し訳ありませんが、主神言。我が主を離すように」
「ふん。とりあえず、現状説明をしないと話は進まないからね──闇皇と表裏一体にすらなれない状態だ」
「させませんよ、そんな立場に」
「さあ? そういうコトは僕に勝てるようになってから言いなよ? 晴明」
言は后から手を離すと、今まで晴明に見せていた表情とはガラリと変えて、柔らかな笑みを満面に湛えた。
「后兄さん、晴明は性格は悪いけど后兄さんのことは命に代えても護るから。安心して」
「はぁ? 言……? 一体何の話を……っ、て、うわ……!」
再び、ぐらり、と地面が揺れる──いや、自分の視界が歪んでいるのだ。
「移動します──あ、ご自身でできます? 先ほどあれだけの数の闇鬼を倒したの能力はあるんですから、この程度のことなら頑張ればできるでしょうが」
「知るかーっ!」
そう理解した時には、振り向き様にバイバイと手を振る言だけが見えた。
「今日は本当にありがとう、后兄さん。……逢えてよかった。兄さんのコト、本気で気に入ったよ。感謝してる」
辺り一面が真っ暗になったと思えば、そんな言の声だけが耳に入る。
「約束だよ? 僕のこと、誰より大切にするって」
────その時、まるで闇に落下しているように感じていた后は言に答える余裕はなかった。
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