会 2
「で。行きたいところを整理しよっか。バスと電車を使うからさ、時間に限りがあるし」
「日が暮れてから、
「──いくらオレでも知ってるぞ、有名な心霊スポットじゃねーか」
「いえ、デートスポットですよ? やだなあ」
「────」
今の
「……。……そーゆー大人のスポットは、言くんが十八歳以上になってから、
「いきなり敬語なんて、どうしたんですか? 后さん。僕はそういう距離感は好きじゃないですよ、水くさい」
距離を保ちたいんだ、本気で心の叫びだ。
「──言くんのリクエストを聞きつつ、まあ近場から観光するか──」
「言、でいいですってば。呼び捨てにしてください」
「……言。えーと、まずこのホテルの近所でメジャーな観光スポットというと、やはり
「あ、御所は早朝に行ってきました」
「じゃあ、晴明神社に行くか」
並んで(やはり肩をピッタリくっつけて)歩く──アベックみたいで嫌なのだが、指摘するのも自意識過剰に思える。
(どうせ、人はほとんど歩いていないし……って、あれ?)
ふと、遠くに幼なじみ──
(気のせいか……だよな。今日、サッカーのはずだし……)
こちらをじっと見ていたように思えたのだが──見直しても、その方向には誰もいなかった。
(オレをからかっているだけか、甘えん坊キャラなだけか──イメージじゃねーけど)
グルグルと考えているうちに、晴明神社に到着する。
陰陽道の
「この鳥居をくぐって、一条戻り橋のミニバージョンの後ろが
説明をしつつ言を見る。そして、ちょっと首を
(……? 何してんだ?)
ミニ一条戻り橋の横に、石像の鬼がいる。それを無表情でじっと見ているのだ。
さらに言は、ゆっくりと手を
「言……? その像が気になるのか?」
「あ? はい、すみません。ちょっと……」
「ちょっと?」
「安倍晴明が使う式神が、宿っていないか確認したくて」
「あ、本殿はあっちな。小道を渡った向こう」
ヤバイ台詞は聞こえなかったフリが一番だ。
后はさっさと境内へ進む。
そんな后を気にする様子もなく、言は後をついて本殿へやって来た。そして、お
(何かのまじないやっててもおかしくねーよな、好きなものがホラー過ぎ。……新興宗教? UFO呼べる人? ともかくヘンだぜ。性格も怖いし……いっそ、妖怪呼べても、不思議じゃないかも……)
「ここって、アベックで参拝したその二人は結ばれる、とかサプライズ的なご利益はないんですかね?」
「ははははははははははは」
妖怪を呼べた方がまだマシだ──后は確信した。
必死に話を変えようと努力をする。
「き、今日もそうだけど……っ。ここって女の参拝者が圧倒的に多いよなー? やっぱすげーよな、安倍晴明の人気って」
周囲を見回せば、お姉ちゃんたちが言へ熱い眼差しを送っていることに気づいた。なので、そのノリ(?)で話題展開を狙い、ははは、と渇いた笑いを送りつつ告げる。
「こ、言く……言は、小野篁とか怪しい……いや、神秘的な歴史上の人物が好きなら、安倍晴明とかも好きなんじゃないのかー?」
「いえ、笑顔の裏で何を考えてるかわからないタイプだから。嫌いです」
「────」
まるで見てきたような言い方だ。后は口元を引きつらせる。
「あー……そー、なんだー……ぁぁ」
「まあ、確かに平安時代で最も超人であったことは認めます。あの才能は小憎らしくもありますが、千年以上たった今でもこの古都を護っていられるだけの万策を施しているなんて。最高峰の陰陽師ですね、不愉快ですけど」
(……。……だから、なんでそう、近所に住む兄ちゃんへの愚痴っぽく言える?)
口調は本当に
「で……でもほら、護ってくれてるのもありがたいし。美形ってイメージもあるらしーじゃん? うちのクラスの女子なんか、それですげー盛り上がってるぜ?」
「え? 后さんは安倍晴明みたいな男が好みなんですか?」
「────」
なぜ、そっち系にもってくる?
不愉快そうな言の口調に、ますます言との距離が離れていく気がする──実際は、体はかなり密着しているのだが──后的には、心と同じくらい体も離れたい。
「──あー。別にオレ、男だし。安倍晴明に興味はねーけど……」
「そうですか。それはよかった」
(なんで!? なんでここで安堵するかな!?)
周囲のお姉ちゃん──巫女さんまでも──が、言を熱く見つめているのに。
会話が聞こえたらヤバい。一体、言はどこへ進もうとしているのか。
「あ、ほら……! 言! お参り終わったら、おみくじ引こうぜ!? な!?」
「え? 僕たちの相性占いですか?」
「前言撤回! お守りを買おう! お守りを!」
腕を引っ張り、手水舎の隣にあった休憩処に向かう。そこは、この神社に訪れた有名人のサイン付き絵馬や様々なイベント展示の他に、お守りなども売られているのだ。
「ほら、見ろよ。あの女優とかアイドルもお参りに来たんだー」
「后さん、縁結びのお守りもありましたよ。どうですか? これ」
「……。おっ、あの作家さんは三回も参拝してるのかーさすが!」
「一つは后さんで、もう一つは僕が持ちますので。いいでしょう?」
「……ここは、厄よけ、魔よけで有名なんだが……」
「あ、僕はそーいうのより縁結びを信じたいので」
「五芒星ステッカーと晴明神社特製キャンディでも買っとれ」
五芒星の交通安全ステッカーを貼っている車は多い。実際、后の家の車も隣のおっちゃんの車にも貼ってある。
(どわー、オレの忠告無視して買ってるよ、こいつ……!)
いや、厳密に言えば無視ではない。実際に、ステッカーと飴も買っている──ただ、縁結びのお守りのついでのように見えているだけで。
「……千二百円のお納めです。ご足労さまでした」
巫女の視線と言葉が、何か冷たく感じるのは──后の気のせいか。
「后さん、どこ行くんですか? 離れると僕、迷子になってしまいます」
(逃げさせてくれ……! なんの根拠もないが、お前なら絶対に迷子にならないという確信がある!)
怪しい関係に思われたくなくて、后は必死に言から離れて歩こうとするが、言はその長い足で追いついてきた。
抱きつくように腕を掴まれると、もう、引きつり笑いをするしかない。
「つ……次はどこ……行きたいですか? 言さん……?」
これ以上人目にさらされたくないので、誰もいないところがいい。だが、それも危険な気もする。ああ、ジレンマだ。
「やだなあ、また敬語なんか使って。らしくないですよ、后さん」
グルグル思考を回転させつつ、言にズルズル引きずられて、后は表鳥居をくぐった。
「……あ、あのさ……っ、あそこにも、土産物屋あるし! あそこのおばちゃん、お茶をサービスしてくれるから……! 土産探してみろよ? な!?」
びし! と指を差したのは、小道を挟んだ向こう側──ミニ一条戻り橋や鬼の石像の側に建っている、こじんまりとしたお店だ。
「え? そうなんですか? じゃあ、后さんも一緒に選んで……」
「逃げないから。オレはそこの一条戻り橋で考え事してる。ゆっくり東京への土産を選んでこい、言」
「……あの、鬼の石像のところですか?」
「そうそう」
「──じゃあ、本当に逃げないでくれるなら……」
「もちろん。中坊を置いていかねーよ」
逃げないから、という言葉が効いたらしい。
言は嬉しそうに笑むと大きく頷き、ようやく后から離れた。
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