会 3
「あーいう笑顔は、子供っぽいんだけどな……」
呟きつつ、約束通りにミニ
ここは、人が三人も乗ればいっぱいになるであろう、小さな橋だ。しかも、砂利の上に建っており、臨場感はない。
一条戻り橋を掛け替える際に、その石碑だか木片だかわからないが、それを移築(?)したと聞く(すぐ横に説明は書いてあるが、読む気力もない)。
「
普段の
きっと──誰でもいいから、話し相手が欲しいのだ。たとえそれが、外国アニメに出てくるような顔をしている鬼の石像でも。
「本気でオレにラブラブというより、何か演技っぽいんだよなー」
誰が聞くわけでもないのに、つい呟いてしまう。
「オレの出方を窺ってるような──でも、そうする理由がわかんねー……。じゃあやっぱ、マジもんなのか……?」
后は、三歳の頃から近所の道場で空手を習っている。
すでに黒帯でもあり(よく、見た目に合わないと言われ、相手がケガを負わない程度に教えてやっているが)、相手の醸し出す雰囲気や思考はなんとなく──わかる場合も多い。
「──でも、言はわかんねー……。瑞宮並みに謎だぜ……」
さすが、同じ一族だ。というか、どんな一族だ。
がっくり頭を抱えつつ、鬼の石像の頭をポンポンと叩いた。
「おーい、何かアドバイスくれよ、ポン太」
命名は、たった今した。
バレやしない。
「……その、最低最悪なネーミング、どうにかなりませんか?」
「は?」
「式神へ、
深い溜息まで聞こえる──視線のすぐ前には、男の足元が。顔を上げると──。
──思わず、視線を奪われてしまう。
(どわ、言レベル……つか、芸能人か?)
この神社ならあり得る。晴明役でもやるとかで、参拝に来ているのかもしれない。
何せ、これだけ見目が麗しい男で、一般の兄ちゃんであるはずがないのだ(と、断定してみる)。
「えーっと……。芸能人の方が、オレに何の用で?」
「いやですねぇ。私は、芸能人ではないですよ?」
にこ、と笑みを浮かべる美形だが──何か得体の知れない迫力を感じる。
着ているスーツは、やっちゃん系ではなくブランド系に見える──というか、東京系の高級ホストもこんな感じかもしれない(勝手な推測だが)。
迫力に負けてちょっと後ずさりしそうになっていれば、腕を掴まれた。
「な、なんだよ……!?」
「この石像に触れていたでしょう? 駄目ですよ、これには闇世界の魂が入ってしまってますから危険です。もちろん、浄化は今すぐ私がしておきますけど」
「向こう? 魂? 危険? 浄化? ………………は?」
「黙って」
わけのわからないことを言ったかと思うと、美形は后の腕を掴んだまま何かごにょごにょとまじないみたいな言葉を
「──これで、連中が好む気配は拭えました。しかし一応、
「ひとがた……」
そして締めとばかりに手渡されたものは──白い、人の形をした紙。まさしく人形だった。
(こえーっ!)
言以上だ。
というか、これはホンモノの怪しく危険な宗教のお兄さんだ──こんな美形なのに。可哀想に、どんな人生があったのかわからないが。
「オッ、オレ……! 宗教とか! ぜんっぜん興味ないもんでーっ!」
人形は投げ棄て、ダッシュして逃げようとする。
「いやだなあ、これは宗教じゃなくて
しかし、腕は掴まれたままなので逃げられない──しかも、投げ棄てた人形を后の胸ポケットに押し込んできた。
空手有段の后の動きを片手一本で(しかも笑顔で)止めるこの美形、一体何者だ?
「……お、おんみょう……」
「ああ、何もわからなくて結構ですから。──とにかく、私と一緒に来てください」
(いやーっ! それだけは嫌ーっ!)
言と二人きりで、夕方の
「
「イヤだ……え? 言……?」
真剣に告げられた言葉に、反抗するのも忘れ、つい美形の麗しい顔をマジマジと眺めてしまった。
美形は、まるで一刻を争うかのような口調でさらに続けた。
「主神言は、貴方を狙っています。このまま一緒にいれば、間違いなく今夜にでも後悔することになるでしょう。その前に──私と同行してください。私は決して貴方を不幸にはしません」
「……狙ってるって……? え? ……夜に後悔? はぁ? あんたがオレを不幸にしないって……どういう…???」
──意味がわからない。
というか。
(……深読みできすぎる、言い方、だよなーぁ……)
まさか、とは思うが──あっちの意味、とは決して思いたくもないが。
しかしだめ押しの一言が、空気を読まない美形の口から漏れた。
「主神言を、ただの十五歳と思ってはいけません。かなり経験豊富で巧みです。未経験の貴方とは天地の差なのは明白。すぐに丸め込まれ、貴方はされるがまま、体も魂も汚されて──二度と、明るい世界に戻れなくなってしまうでしょう」
「っ、未成年に何を言うとんじゃー! オレはパティママの店でデビューする気はねーんだよぉぉ!」
周囲の姉ちゃんたちの注目を受けていることも忘れ、うっかり吠えてしまう。
──ちなみにパティは、大阪のニューハーフバーの老舗だ。もちろん行ったことはないが、TVのバラエティ番組によく出てくるので未成年(で意外に純情)の后でも名前は知っていた。余談だが。
しかし空手有段の后の
「……な、何……?」
「そういう深読みしますか? そうではなくて、貴方の肉体と心を主神言が狙っていると私は親切にも忠告してあげてるのですよ?」
「っ、どこが違うんだ!? その言い方が
後半は、意味のわからない怒鳴りになってしまったが。
ばっと美形から離れると、言がおばちゃんにつかまっているであろう
「……後悔しても、知りませんよ?」
「────」
怖い。
ぼそり、とこぼれる美形の呟きは、内容に反して軽い口調だ。ある意味、下手なホラーの重低音より迫力がある。
「──た……たとえば、どういうふうに?」
「鬼にバリバリ食われるかもしれないですし。闇の一部に吸収されるかもしれません。どちらにせよ、この世の地獄をすべて味わうでしょう」
(怪しすぎる……)
これを本気で理解せよ、と言われても、残念ながら后はアングラ系宗教を理解する気はさらさらない。
「……あんた、名前なんていうんだ?」
脚が一歩前に出つつも、一応最後に訊いてみる。返答は、
「
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