https://kakuyomu.jp/works/16817330649026392153/episodes/822139844999747514
そんなわけで、第十八話「幻影樹」です。
これまでにも幻術は何度か登場しています。
オルロック伯爵の館に通じる洞窟や、古代トルゴルの征服王が眠る墓所の入口もそうです。
幻術、あるいは幻影術は、相手に特定の映像を見せるという、よく考えると単純な魔法です。
ただ、人間は主に視覚情報に頼って周囲の状況を認識する生き物ですから、視覚さえ騙してしまえば、簡単に脳の誤作動を誘導できるのです。
これが他の動物だと、嗅覚や聴覚も重要な情報となるので、人間より騙しにくくなります。
視覚情報によって「ここに○○がある」と認識してしまった脳は、自分の記憶の中からその物体の触り心地、匂い、立てる音などを引っ張り出してきて、視覚情報を都合よく補足してしまいます。
そのため、「○○の存在」はますます確固たるものになります。本来なら存在しないただの3D映像ですから、これを突破するのは簡単なはずですが、それをバグった脳の認知が阻んでしまいます。
「通れないに違いない」「ぶつかったら痛い思いをする」という思い込みが、行動にブレーキをかけてしまうのです。
病気や怪我で手足の一部を切除した人が、存在しない手足の痛みに苦しむ「幻肢症」はよく知られていますが、これも脳が「そこに手足があるはずだ」という思い込みに捉われた結果起きるバグなのです。
この幻術を打ち破るには、まずこれが「幻影」だという確固たる認識を持つことが必要です。
その上で、自殺する覚悟で(実はこれがもの凄く大変だったりする)、幻影に頭を打ちつけます。瞬間的に脳が激痛を錯覚させますが、実際には物理的な抵抗がないので、するりと抜けられてしまうのですね。
これを何度か経験すると、幻術だと認識するだけで、簡単にその影響から脳を解放することができます。
エイナが今回騙されなかったのは、これまでの経験によって、騙されない脳を育てていたからです。
こうした理論づけが、はったりに過ぎないということは、当然作者も自覚しています。
ただ、自分なりに『こういう仕組みなんだ』という納得がなければ、この幻影を打ち破る方法が出てきません。
今回エイナが考え出した、姉弟から視覚と方向感覚を奪い、前の人の衣服に触覚を集中させるという方法は、彼女が幻術の仕組みを理解しているからこそのものです。
よく〝世界観〟と言われますが、こういう面倒くさい思考をパスして、ノリと勢いで話を進めるのは楽ですが、書く方が納得しないままでは楽しくないと思うのです。
これまで何度もこの場で書いていますが、なろう系異世界転生ファンタジーで普通に出てくる開拓農民に関して、貧しいからこそ開拓に挑むのに、収獲が安定して得られるまでの当座の資金を、誰が出しているのだろう?
この問題への回答を提示せず、適当に流している作品を見ると、某CMの女将さんが脳内再生されてしまいます。
「そこに愛はあるんか!?」
そんなわけで、侵入口を隠蔽する幻術を突破した一行は、いよいよ奥へと進みます。
鬼が出るか蛇が出るか、どうか次回をお楽しみに!