第19-1話 プチ温泉旅行スタート!
七月二十五日 月曜日 大崎楓雅
『これにて一学期、終業式を終わります』
『礼』
長い一学期が終了した。
「いや、短かったかもな」
担任に呼ばれた俺は今、職員室へ向かっている。
「一体何の用なんだ……」
奈希と詩葉を待たせている俺は走っていく。
「あ、先生」
職員室に行く途中で担任を見つけた。ラッキーだ。
「おお、大崎。ちょっと話しときたいことがあってな」
「なんですか?」
「大学進学するって一学期初めの面談で言ってたと思うんだが」
「はい」
ああ、お金の話か。
「大崎って今一人暮らしだろ?」
「先生、お金の問題なら大丈夫です。国立一本で行きますので」
「私学はもう受けないってことでいいのか?」
「はい。国立一本で行きます」
「うん…そうか。頑張ってくれ。また時期が近づいたら話をするから、そのことだけ覚えておいてくれ」
「わかりました」
「あと、大崎」
「どうしました?」
「最近お前変わったな」
「そうですか?」
「最近は表情も豊かになって友達もできたみたいで安心だよ」
「そうですか」
まあ、奈希みたいなやつといたら必然とそうなるだろうな。
「楽しそうでなによりだ。気をつけて帰れよ」
「はい」
結局、何の話がしたかったかよくわからなかったが、まあいいか。
それよりも二人を待たせている。早く行かないと。
「わざわざ呼び出すような話じゃなかったじゃねえか……」
文句を言いながら、俺は奈希と詩葉の待つ正門へと駆けて行く。
「すまん、待ったか?」
「待ってないよー」
「今日は私に任せてね!」
「今日は詩葉が案内してくれるんだったな」
「はい♪私にお任せあれ♪」
「私、まだなにもしてないから、次また三人で遊びに行く時は私が計画立てるね」
「奈希ちゃんの立てる旅程も気になるから、また近々行こうね!」
「そうだな。とりあえず今日は楽しもう」
前回は俺が案内して、今回は詩葉の番だ。次回は奈希だな。
「このまま港に行くのか?」
「そうだね!着替えとか二人とも持ってきた?」
「言われた通り持ってきたよ!」
「ちゃんと持ってるぞ」
「よし、じゃあ早速行こう!」
俺たち三人は港へ向けて歩き出した。
「今日は最初に本を買いに行くんだったな」
「そうだよー」
「お前らまた買いすぎるなよ。この前はすごかったからな」
二人とも二万円分だっけか。とんでもない量の本を買ってたよな。
「大丈夫だよ〜まだこの前買ったやつも読み切れていないし」
「私も全然読み切れてないよ。テストの結果が悪すぎて一人、項垂れてたからね」
「結構落ち込んでたよな」
「あ、でも今はもう大丈夫だよ。流石に」
流石に立ち直っていてくれ。
「流石にな」
他愛もない会話を繰り返していると、港が見えてきた。
「今日は私スマホでチケット三人分取ってるからこのまま乗るよー」
「これスマホでチケット取れたんだな」
「こっちの方が便利だね」
「時間ギリギリに来てもすぐ乗れるし、すごい便利だよ。あとスマホでチケット取った方がちょっとだけ安いんだよ」
「それは有益な情報だな」
「金欠にはありがたい情報……」
フェリーに乗り込み、揺られること三十分。
「着いたー!」
「とりあえず本屋だな」
「そういえば、どこの温泉行くの?」
「それは着いてからのお楽しみにしておいて!」
「期待度上げてきたな」
「これは期待していいやつ?」
「しちゃってください!」
元々、詩葉が温泉に行きたいって言ってたし、行きたい温泉も決まってたんだろう。
「とっておきのところを予約しましたから」
「そりゃ楽しみだな」
「楽しみにしときます!」
「とりあえず本、買いに行くぞー!」
「おー!」
そうして本屋に到着した…が
「よっしゃいくぞー!ついてこい詩葉ーー!」
「ラジャー!」
到着するやいなや、二人は颯爽と店の奥へと消えていってしまった。
「あいつら速すぎんだろ……」
俺一人を残して本に夢中ってか……はぁ。
「立ち読みでもするか……」
モラル的にどうかとは思うが、まあいいだろう。
そう思った俺はジャンルを決めて、気になったものを端から見ていくことにした。
「たまにはミステリー系もいいな」
本棚に並ぶタイトルたちを眺め、俺は気になったもののあらすじを見ていく。
「これ面白そうだな」
いい感じのものを見つけた俺はペラペラとページをめくっていく。
「……」
「これは買いだな」
立ち読みだけにしとこうかと思ったが、思いの外手に取った本が面白かった俺は結局、買うことにした。
「あと何冊か見てみるか」
一冊だけだとどうも味気ない感じがしたので、俺はもう少し見ることにした。
「…もうこんな時間か」
ふと時計を見たら、もうここにきてから一時間ほど経っていた。
「あいつらまだ見てんのか」
とりあえず俺は買うことにした本の会計をしに行く。
「一三二〇円ですねー」
「これで」
「ちょうど頂戴いたします」
「ありがとうございましたー」
今日は二冊だけにしておいた。あまり散財しすぎるのも良くないからな。
「で、あいつらはどこに行ったんだ」
辺りを見回すと、そこにはすごい量の本をカゴに入れた二人がいた。
「あ、楓雅!」
「楓雅くんは何か買ったの?」
「ああ、二冊だけ面白そうなやつがあったからそれだけ」
「…で、お前らはまたそんなに買うのか」
俺は二人のカゴを指さして言った。
「うん!これで当分は大丈夫だね!」
「二人の会話にはついていきたいからね!」
前も同じような理由だった気がするけど……
「……そうか。とりあえず会計してこい」
「はーい」
二人はそう言い、レジに向かった。
「いやー今日もたくさん買っちゃったねー」
「詩葉ちゃん、それ前買った時よりも多くない?」
「いやーちょっとコレクターの意思が抑えられなくて……」
「奈希、お前も相当だぞ」
「え、そう?」
「それ、重たいだろ二人とも。持つぞ」
「私のはいいよ!勝手に買っただけだし。奈希ちゃんのだけ持ってあげて!」
「そうか?じゃあ、奈希、それ貸せ」
「あ、ありがと」
「にしても買いすぎだお前ら」
「ごめんなさい」
「ごめん」
「まあ、いいけどな。楽しそうだったし」
笑顔が見られるならそれで良い。
「ところで詩葉、温泉ってのはここからどんくらいで行けるんだ?」
「えっとねー、すぐそこのバス停からバスが出てるからそれに乗って四十分ぐらいかな?」
「じゃあ、ちょっとだけ待っとくか」
「バスってどれくらいで来るの?」
「十分間隔であるからすぐ来るよ」
「そっか。じゃあちょっとだけみんなで待っとこー」
「ってもうバス来てるじゃん!走れー!」
「あ、ちょっと待てって」
「奈希ちゃん早いよー!」
突然走ったと思ったらめちゃくちゃ速い。さすが元陸部だ。
俺たちはなんとかギリギリでバスに乗り込めた。
「はぁ…はぁ…奈希ちゃん、ちょっと速すぎるよ……」
「元陸部なだけあるな」
「ご、ごめんって……」
そうしてバスに揺られること約四十分。やっと目的地に到着だ。
「こんなとこに温泉街なんてあったんだな」
バスを降りると、そこに広がっていたのは温泉街だった。
「私もここ調べた時に初めて知って驚いたよー」
「おーすごいねー、なんかたくさんあるね。なんというかーすごい」
「奈希、語彙力が死んでるぞ」
「それは元からだよ」
「それもそうか」
「ちょっとは否定しなさいよ!」
「いや事実だろ」
「もう!知らない!」
「ご、ごめん」
「……いいよ」
「優しいな」
「なんでこういう時に限ってそういうこと言うの!照れるでしょ!」
「ご、ごめん……?」
「まあ、いいけど」
「あ〜2人のじゃれあい可愛いな……食べちゃいたい」
「……」
「あの〜詩葉さん。さっきから俺たちをみる目が、なんか怖いです」
「っ!えっ、あっ、ちょっと目が痒くて〜」
「詩葉ちゃん、嘘ついてる顔だよねそれ」
奈希の言う通り嘘だな。この前、動物園に行った時もなんかすごい視線を感じたんだが、こいつの仕業だったんだな。
「う、ううん?そんなことないよ〜?」
バレバレな嘘はやめておけ。後々自分に返ってくる羽目になるだけだ。
「ところで詩葉、俺たちは今日、どこの温泉に入るんだ?」
「あ、そうだった。こっち来て!」
俺と奈希は詩葉に先導され、それについて行く。
「と、いうことで本日私の予約した温泉はこちらです!」
外観は落ち着いた雰囲気で、いかにもといった感じだ。
「ここは天下一って言われることで有名なんだよ」
「へー、そうなのか」
「なんか、高そう……」
「大丈夫!なんと大人一人七百円です!」
「や、安い……!楓雅でも入れる値段だ!」
「お前は俺のことをなんだと思ってるんだ。金ならある。にしても安いな」
「まあ、泊まるわけじゃ無いからね〜。じゃ、早速入ろ!」
「おう」
「そだね!」
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