第5話 いつもとは違う学校
六月十二日 月曜日
アラームをセットしておいてスマホが鳴り出す。
「……もう朝か」
俺はまだ眠いながらもなんとか身を起こす。
「朝食をとっている暇はないな」
時刻はすでに七時半になっていた。大体、俺の家から学校まで行くのに歩いて一時間ぐらいかかる。つまり、もう走らないと間に合わない。
身支度を済ませた俺は急いで家を出る。
「まずいな。相当急がないと間に合わないぞ」
いくら授業は寝ているとはいえ、遅刻はしないというのが俺のポリシーってやつだ。
ルールを守る男ってカッコいいだろ?……そう思ってるのは俺だけか。
そうしてなんとか学校には間に合った。
そして、いつも通り朝のホームルームが始まる。
「起立」
「礼」
『おはようございます』
「着席」
諸連絡が先生から伝えられると、奈希が話しかけてきた。
「おはよー。ずいぶん疲れてるみたいだけど、走ってきたの?」
「ああ。そんなところだ」
「意外とそういうとこは真面目なんだね」
「意外とってなんだ意外とって。こう見えても成績は上から数えたほうがいいんだぞ」
家出することがない俺は結局勉強をするしかやることがないのである。
「金曜日ずっと授業中寝てたから、そんなにかなーとか勝手に思ってたけど違うかったんだ」
失礼なやつだ。
「失礼なやつだな。偏見は良くないぞ」
世の中には授業を全く聞かずとも才能でできる奴もいる。俺は違うけどな。
「暇な時は家で勉強してんだよ。今どき大学いけなきゃどこにも就職できねえだろ」
「それこそ偏見じゃない?」
「……偏見だな」
「自分で『偏見は良くないぞ』とか言っておいてすぐ言っちゃうんだね〜」
ニヤニヤしながら言ってくる。ムカつく女だ。
「そういうこともあるだろ。ほら一時間目は移動教室だろ。早くしねえと遅れるぞ」
「あ、そうだった。けど、学校二日目だからまだ場所わかんなくて……案内してくれない?」
「そういえばお前、まだ学校に来るの二回目だったな」
こいつがあまりにも馴れ馴れしくて忘れていた。
「じゃ、行くぞ」
そうしていつもとは少し違う学校生活が始まった。
昼休み
俺はいつもの階段へと向かう。だが今日はいつもと少し違う。
「私も一緒にお昼、食べていい?」
「ああ。お前がいいなら別に構わんぞ」
今日は奈希がいる。
「まだここにきて俺としか話してないみたいだけど、友達作らなくていいのか?お前ならすぐできるだろ」
「んー、でももし私がそうして友達ができたら、風雅とあんま話せないかもよ?」
「元々、話し相手なんかいなかったし、そんな気にしなくてもいいぞ」
「……そこはさ、『やだー!奈希どっか行かないでよー!』とか泣きつくところじゃない?」
「俺はそんな子供じゃねえよ」
多分舐められている。話し相手がいなくとも生きていける。俺はそう思っている……思っているはずなのに、この引っかかる感じはなんなのだろうか。今までずっと一人で過ごしてきて慣れてるから大丈夫なはずなのに、その、なんていうか……奈希とあんま話せなくなるのは嫌だな……
「そんな強がらなくてもいいんだよ?」
「……強がってねえよ」
「ほんとに〜?」
ニヤニヤしながら奈希が言ってくる。
でも、正直、今の俺は強がっているのかもしれない。でもそれが何のためなのかは……分からない。
「……まあ話し相手がいなくなるのは、暇になるな」
「そこは素直になりなよ〜『奈希とずっと一緒にいたいんだー!』って」
「っ!だから、そんなんじゃねえよ」
隙あらば煽ってきやがる。でもこのやり取りにも慣れてきた気がする。
「あはは、冗談だよ。私が楓雅といたいから話しかけてるだけだし」
「そうか。そう言われて悪い気はしないな」
「お前その弁当、自分で作ってるのか?」
ふと奈希の弁当を見て思い出したが、こいつダークマター製造機だったよな。
「ん〜?あーんってして欲しいのか〜?」
そのダークマターを俺に食べさせようとするな。もうあんなのはごめんだ。
「いや、そうじゃなくって。普段から料理するのか?」
「いや、こっちに来てから始めたから、まだ四日目だねー」
にしてもこれは酷いだろう。
「今度なんか料理の作り方教えてやろうか?」
「え、いいの!」
目を輝かせて言ってくる。
「ネットで調べて作っても、どうにも上手くできなかったから困ってたんだ〜!風雅がいいなら今度教えてよ!」
「ああ。いいぞ。死人が出ないためにもな」
「死人?」
「あ、それは気にするな。こっちの話だ」
「?」
奈希に友達ができておかず交換とかしたら絶っっっ対に死人が出る。これはなんとしてでも避けないといけない事だ。
そうこうしているうちに昼休みがもう終わろうとしていた。
「おい、そろそろ戻るぞ」
「あ、うん!」
そうしていつも通り午後の授業が過ぎていき、帰る時間となった。
「奈希、今日は一緒に帰るのか?」
「私と帰りたいの?」
「そうじゃなくて……いやそうかもしれんが、金曜日、お前が言ってきたから今日もそうかなと思って」
「風雅がそんなに私と帰りたいなら、しょうがないな〜。一緒に帰ってあげる!」
「……お前、俺以外に一緒に帰るやついねえだろ」
「バレた?」
テヘッて顔をして言ってくるな。バレバレだ。ていうか今のところ学校では俺としか一緒にいねえだろ。
「じゃ、早く帰る準備済ませろ」
「はーい」
奈希が準備を済ませると俺たちは校舎を後にし、帰路につく。
「今日も案の定、寝てばっかりだったねー」
「別にいいだろ」
「私話し相手いなくて暇だったよー」
「だから友達作れって言ってるだろ。そんな俺にこだわらなくてもいいんだろ。俺よりいい男なんて他にもわんさかいる」
「楓雅じゃないとダメなの!」
「お、おう、そうか」
あまりに真剣な眼差しで言ってくるから、俺は少し驚いてしまった。
『……』
俺たちの間に気まずい空気が流れる。
歩いているうちに奈希と別れる場所まで来てしまった。
「じゃ、じゃあな」
「あ、うん。また明日……」
奈希と別れると、俺は家まで猛ダッシュで帰る。
家に着くとすぐに俺は椅子に座り、考え込む。
「『風雅じゃないとダメなの!』は反則だろ……」
「でも、よく考えたら知り合ってたった四日で、ここまで俺に好意を示してくるなんて、おかしなやつだ」
他人とほとんど関わりのない俺から見てもわかる。あいつは俺のことを好いている。
「でも、なんで俺なんだ?席が前後だから……?それとも、別の何かなのだろうか…」
そんなことを俺は何時間も考えていたようで、気づいたらもう十一時になっていた。
「ちょっと考え込み過ぎちまったな。飯食ってさっさと寝ないと」
俺はストックしておいたカップ麺を食べ、寝る準備をして布団に潜る。
「……四日であそこまで普通、言うかなぁ……なんか執着心を感じるというか…よくわかんねえな」
「でも、特に今日は俺への主張が強かったな……」
俺は疑問に思いながら眠りについた。
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