第28話 あつあつ
七月三十一日
「…………ぅが……楓雅!」
奈希の声が聞こえてくる。
「んん……?」
「もう朝だよ!起きて!」
「……ああ、もう朝か」
「そうだよ!早く起きて!」
「分かった分かった」
目をこすりながらゆっくりと体を起こす。
「今日は遊びに行くからね!」
「あ、ああ。でもどこに?」
「それは後で決める!」
あっ……よく考えたら……
「俺、着替え無いぞ」
「えっ」
「一泊の予定だったから着替えが無い」
「ありゃ」
「別に昨日の服を着ても良いけど……」
「いや、ちょっとまって。お父さんのがあるかもだから探してくる!」
「頼んだ」
万が一を考えてもう一着持ってくるべきだったな、ミスだ。
しばらくして奈希が部屋へ戻ってくる。
「あった!無地のTシャツだけど、これでいい?」
「ああ。着れたらなんでも」
「じゃあこれ、どーぞ」
どーぞって……お父さんのやつだよな、これ。
「勝手に持ってきてよかったのか?」
「大丈夫!今日も仕事みたいだし、同じようなやついっぱい持ってるっぽいから!」
「そ、そうか」
「じゃあ早速準備して行こ!」
「そうだな」
慌ただしいやつだな。
「朝ごはんは今日は外で食べよ!」
「たまにはいいかもな」
「でしょ?」
「ああ」
その後、俺たちは身支度をし外で朝食をとった。
「ん~!たまにはカフェでモーニングもいいね~」
「俺初めてだわ」
「え、ほんとに?」
「マジだ」
「……言われてみれば島にカフェ無いもんね」
「そういうことだ」
「じゃ、朝食も済ませたってことで!横浜観光しに行きましょー!」
「案内は頼んだ」
「もちろん!」
「行くところは決めてるのか?何の計画も無しで来たけど」
「んー、それは考えながらで!」
「適当だな」
「それぐらいがいいでしょ?」
「まあ、そうだな」
奈希らしいくてなんか安心する。
「とりあえず近場のところ行こっか」
「そうだな」
今日は奈希の義両親に挨拶してから帰る予定だから、五時前ぐらいには戻りたい。
「じゃあ私についてきなさい!」
「分かった」
そうして奈希に言われるがままについて行く。
歩くこと二十分。皆のよく知る場所に着く。
「中華街か」
「そうです!さっきモーニング食べたばっかりだけど、食べれるよね?」
中華街といえば食べ歩きになってしまうというのは仕方がないが、なにも最初に来なくても良かっただろうとは思う。
その気持ちをぐっと抑え、俺は口を開く。
「まあちょっとなら食べれるかな」
「よし、じゃあ行こう!」
奈希はこっちに来てから笑顔が絶えない。いや、島にいる時も笑顔は絶えないがそれ以上だ。
「奈希」
「んー?」
「楽しそうだな」
「楓雅は楽しくないの?」
「めっちゃ楽しい」
「なんだ、楽しくないのかと思った」
「こっちに来てから奈希、いつも以上に笑顔が多いから相当楽しいんだなって思って」
「うん!めっちゃ楽しい!ずっと二人きりだし。欲を言えば昨日も二人で過ごしたかったけどね」
「俺の唯一の男友達が消えたら困るからな。それに久々に話しときたかったんだ」
「一年ぶりとかって言ってたっけ?」
「そうだな。一年ちょっとぶりに会った」
「私もこっちの友達に会えばよかったな」
「確かに、なんで会わなかったんだ?」
「ずっと楓雅といるものだと思ってたから……」
「なんかごめん」
「あはは、謝ることじゃないって。ほら、食べ歩きするよ!」
「あ、ちょっと待てって!」
走っていく奈希を俺は必死に追いかける。
「その、なんかあったら走る癖……やめないか!」
息を切らしながら言う。
「ちょっと無理かもー!」
そう奈希が言った瞬間、俺は奈希の方を捕らえた。
「捕まえた!」
「ありゃ。捕まっちゃった」
「ちょっと足が鈍ってるんじゃないか?」
「んー、そうかも。でもいいや、私は楓雅がいれば何でもいい」
「俺がいなくなったら?」
「死ぬ」
「それはやめてくれ」
「冗談だって」
「まあ俺も奈希がいなくなったら死ぬかもな」
「両想いだね」
「歪んだ両想いだな」
「ちゃんと純白の想いもありますから!」
「そりゃ安心だ。ほらこれ買おうぜ」
そうして俺が指さすのは、
「小籠包……熱そう」
「熱いだろうな」
「私、猫舌だけど大丈夫かな」
「大丈夫だろ。ほら早くしないと時間もだろ」
「そんな急かさなくてもー!」
奈希がそう言うのを横目に俺は注文をする。
「すみません、小籠包二人前ください」
「八百円です。はい、丁度頂戴します。少々お待ちください」
「ってもう買ってるし!」
「なんか匂い嗅いだら腹減ってきた」
「確かにいい匂いだけど……」
「すいません、お待たせしました!」
店員に二人前の小籠包を渡される。
「はい、奈希」
「ありがと」
「じゃあ」
『いただきます』
とりあえず俺は口に放り込んだ。
「っ!あ!……あっつ!」
「……私の彼氏ってバカなのかな」
正直これは自分でもバカだと思った。
「これは……熱いな」
「猫舌じゃない楓雅でそれなら私食べれないよ」
「いやいける」
「んー、割って食べよう」
奈希が小籠包を二つに割ると、肉汁があふれ出る。
「ふーっ、ふーっ、あむ」
「……うん、美味しい!」
天使のような笑顔を俺に見せてくる。
「奈希」
「うん?」
「可愛いな」
「っな!き、急に何!?」
「いや、可愛いなと思って」
「なんでこういう時に言うかなぁ」
「気付いた時には勝手に口から出てた」
「悪い気はしないけど~」
奈希が近づいて、耳元で囁く。
「そういうのは恥ずかしいから二人きりの時、ね?」
「わ、分かった」
「じゃ、これ食べたらまた別のとこ買いに行こ!」
耳元であの囁きは色々と誤解が生じそうだけど……そんなことはないから大丈夫だな。
その後も俺たちは食べ歩きを続け、結局帰る時間まで中華街周辺で時間を潰した。
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