第12-3話 嫉妬
「お待たせしましたー」
そうして運ばれて来たのは、香ばしい匂いをしているいかにも美味しそうな炭火焼きのハンバーグ。
「めっちゃ本格的だね」
「だろ」
「楓雅くんこんないいお店、どこで知ったの?」
「普通にネットで調べたら出てきたぞ」
ネットは便利でいいよね。調べたらすぐ色々出てくるし、ありがたい存在だよ。
「じゃあ、食べようぜ」
『いただきます』
一口大に切って、口に運ぶ。
「めっちゃ
「これは、美味しい……」
「美味いな……」
気がつけば私たちは黙々と食べ続け、もう食べ終わっていた。
『ごちそうさまでした』
「美味かったな」
「また来たいね〜」
次は二人きりで。
「また来ようね」
「じゃあ俺、会計してくるわ」
楓雅が会計を済ませて帰ってくる。
「何円だった?」
「三千五百円だったから、千円ずつだけもらっていいか?」
「そんな案内までしてもらって多く払わせられないよ」
むしろ私が多く払うべきなんだけどな。
「そうだよ楓雅くん」
「いや、いいよ。細かいのめんどくさいだろ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「じゃあ私も楓雅くんのお言葉に甘えさせてもらおかな……」
お金あんまりないはずなのに、よかったのかな。
「じゃあ次のとこ行くぞ」
「あ、うん!」
私たちは楓雅に言われるがままに次の目的地に向かって歩みを進める。
「で、お次はどこに連れて行ってくれるのかな〜?」
「動物園だ」
「動物園とか小学生以来だよ私。」
「楓雅って意外とそういう所好きだったりするの……?」
もしかして意外と子供っぽいところもあるのかな。かわいい。
「いや、みんな楽しめるだろうと思って」
「でも、新鮮味があっていいかも!」
「この三人で行くことになるとは思ってなかったけどな」
「でも楓雅は楽しめるの?私は楽しみだけど」
「そりゃそうだろ。じゃなきゃ行かない」
「そりゃそうか。私と行けるからとかじゃなくて?」
「……それもあるけど、普通に動物は好きだぞ」
それ“も”あるけど……?
……たまにそうやって不意をついてくるのずるくない?こっちが照れちゃうよ。
「楓雅くん犬好きって前言ってたもんね」
「そういえばそんな話したな。詩葉は犬か猫、どっち派なんだ?」
「うーん、私は猫かなあ。奈希ちゃんは猫派か犬派どっち?」
「……」
「……?奈希ちゃーん?おーい?」
「っあ、ごめん。なんて言った?」
「なんか顔赤いけど、体調悪い?ちょっと休む?」
「ちょっと陰で休むか?」
「あ、いや大丈夫だよ!ほら、こんなに元気だから!」
「ならいいけど、熱中症になったら大変だから体調悪くなったらすぐ言えよ」
「今日も結構暑いからねー。あ、私あそこの自販機で飲み物買ってくる!」
そう言って詩葉ちゃんは自販機に走って行く。
「あ、悪いな詩葉。俺は水でいいわ」
「奈希。ほんとに体調悪くないんだよな?無理してないよな?」
っ!顔が近いよ楓雅……!誰のせいでこうなったと思ってんのー!
「だ、大丈夫だから!ちょっと考え事してただけだから」
「ならいいんだけど」
「はい、奈希ちゃん。水買ってきたよ。楓雅くんも」
「おう、さんきゅ」
「ありがと!」
「あ、はい百円」
「あ、俺も百円」
「いやいいよこれくらい!」
「そうか?ならありがたく」
「いや、でも」
「ううん!これくらい気にしないで」
二人とも優しい……また今度、お返ししないとな。
「一応ちょっとだけ休んでくか」
私たちは木陰で十分ほど休憩した。
「じゃあそろそろ行くか」
「そだね」
「日も暮れちゃうしそうしよー」
「ごめんね。私のせいで」
「気にすんな」
「私もちょっと休みたかった所だし全然!」
「倒れられても困るしな」
「そうだよー。無理して倒れちゃったら元も子もないしね」
楓雅に言われたことが恥ずかしくて顔が赤くなってたなんて、今更言えないよお……!
「動物園って歩いて行ける距離なの?」
「歩いて五分ぐらいだな。すぐ着くぞ」
思ってたよりも近かった。
「めっちゃ近いね」
「奈希ちゃんって動物触ってみたいとかある?」
「え、触れるの!」
「調べたらね、今から行く所ふれあい体験してるっぽいよ」
「さっすが楓雅、いいとこ選ぶねえ」
「俺も今知ったけどな」
「そこはさらっと嘘ついてカッコつけるとこだよ」
「そうなのか?」
「そうだよ!そうだよね、詩葉ちゃん」
「うーん、人によるんじゃない?」
「あ、そ、そっかあ」
話しているうちに動物園に着いたみたいだ。
「あそこで入場券買えるみたいだな」
「じゃあ、早速買いに行こー!」
「奈希ちゃん、テンション高いなあ」
「いっつもあんな感じだぞ」
「あはは、そうなんだ」
「楓雅くんって奈希ちゃんのことどう思ってるの?」
「……面白いやつだなって思うよ」
「本当にそれだけかなー?」
「そ、それ以外に何があるって言うんだよ」
「二人とも買わないのー?」
私は早く入りたくてうずうずしてるっていうのに、二人は何話してるんだろ。
「今行くー!」
二人が走って私のいる方まで来る。
「あ、詩葉ちゃん先買っていいよ」
「うん、ありがとう」
で、気になることは
「楓雅、二人で何話してたの?」
「あ、ああ、ふれあい体験って予約とかいらないかなーと思って調べてたんだ」
「で、結局どうだったの?」
「予約とかはいらないみたいだな」
「よかったー、じゃ、早く入ろー!」
「やっぱテンション高いね」
「だな」
楓雅、嘘ついてる顔してたよね。私にはお見通しです。あとでみっちり問い詰めないと。
「キリンの首って何メートルあるんだろ」
「平均して二メートルぐらいあるらしいよ」
「詩葉ちゃん、なんで知ってるの!」
「いつしか読んだ小説に書いてたんだよね」
前々から思ってたけど、詩葉ちゃんって豆知識めっちゃ持ってるんだよね。
「初耳だな。俺たちの身長よりも高いとかすごいな」
「あと、そのキリンの首の骨の数は人間と同じ七個で、オス同士はその首を使って戦ったりもするらしいよ」
「え、戦うんだ……」
いや、豪快だね、キリンさん。びっくりだよ。
「なかなか派手な戦い方するんだな」
「面白いでしょ?」
「面白いよりもびっくりが勝っちゃった」
「あはは、確かにびっくりだよね。本で読んだ時びっくりして、本当かどうか調べたぐらいだよ。結局、本当の話だったんだけどね」
「そういう豆知識を持ってたら面白い話もできるからいいな」
「本は偉大なのですよ!」
私ももっと本読もう。
「わ〜!あのペンギンかわいい〜!」
「奈希ちゃんってこういう子供っぽいとこ可愛いよね、楓雅くん」
「ああ、そうだな」
「ぺたぺた歩いてる感じがめっちゃかわいい〜!」
かわいいは正義だよね。
「癒される〜」
「奈希ちゃんペンギンめっちゃ好きだね。もう二十分は見てるよ?」
え、私そんなに見てたの?
「もう二十分も経ってる?」
「経ってるな」
「でも私は奈希ちゃん養分が吸収できたからいいかな」
「?どゆこと?」
詩葉ちゃんは何を言ってるんだろう。養分?
「そろそろ次のとこ行こうぜ、奈希」
「また最後に来てもいい?」
「いいぞ」
「やった!」
「可愛いなあ奈希ちゃん……」
なんか詩葉ちゃんの私を見る目が怖いような気が……
「動物ふれあいコーナー先行っとく?三時で終わっちゃうらしいよ」
「あ、じゃあ先そこ行くか」
うさぎとか触れるのかな。もふもふしたい……
「うひゃー!もふもふだあー!」
天国かな、ここは。もふもふ。
「奈希ちゃんが切実に可愛い……」
「もふもふしてんな」
もふもふした後はまた他の動物を見て回った。
「パンダはやっぱり見ないとね」
「子供パンダちっちゃくてかわいい」
「ちっちゃいやつ全部かわいいんじゃねえか」
「パンダももふもふしたい……」
「やめとけ」
「返り討ちにあうからやめといた方がいいね」
「うーん、残念」
まあ確かに強そうな見た目ではあるもんね。
そうして私たちは動物園の動物を片っ端から見て回った。
「じゃあ、最後にペンギンを……」
「ああ、言ってたな。行くか」
「よちよち歩きがかわいすぎる〜!」
ぺたぺた。よちよち。かわいい。
「ペンギンもかわいいけど、奈希ちゃんも可愛いなあ……えへへ」
詩葉ちゃんの目が怖い。なんかさっきからめっちゃ見られてる。てか最初ペンギン見に来た時もめっちゃ見てたよね。
「ペンギンもふもふしたらダメかな」
「ダメだ」
「ちぇ〜」
絶対もふもふだよ。ペンギン。
「じゃあ、そろそろ行こ。もう満足!」
「おう」
「もう心残りはないか?」
「私は奈希ちゃんの可愛い顔が見れたので満足です!」
「私も満足かな」
私の可愛い顔……?動物じゃなくて?まあ、いっか。
「じゃあ、そろそろ港に戻るか。時間も結構いい感じだしな」
時刻はもう午後の五時だった。
私たちは来た道を戻り、港に着いた。
「あ、二人とも、私ちょっとお手洗い行ってくるね」
「あ、はーい」
「おう」
「……」
「ねえ、楓雅」
「どうした?」
「最近詩葉ちゃんと仲良いね」
「あ、ああ小説の話してんだ」
「……好きなの?」
聞いてしまった。
「そんなんじゃねえ。ただ友達として小説の感想言い合ったりしてるだけだ」
「ほんとに?」
「本当だよ」
「ふ〜ん。そっか」
「なんだよ」
「いや、仲良いねって、思って」
私なに嫉妬しちゃってるんだろ。誰を好きになろうが楓雅の自由なのに。
『……』
「奈希」
「……なに」
「俺は別に詩葉のことが異性として好きだとかそんなんじゃねえから安心しろ。ただの友達だ」
やっぱ私が楓雅のこと好きなの、バレてるのかな。
「なんでわざわざ言うの」
「……じゃないと機嫌直してくれねえだろ」
「ごめん二人とも〜!お待たせ」
「あ、大丈夫だよ!」
私は詩葉に悟られないように平生を装った。
「じゃあ、行くか」
私たちはフェリーに乗り込み、島に戻った。
「今日はここで解散だな」
「じゃあ私こっちだから!二人ともまた学校でねー!」
「ばいばーい」
「じゃあな」
詩葉ちゃんが帰って私たちは二人きりになった。
『……』
気まずい。私が拗ねたのが悪いけどさ、でも、でも……
「……私のこと嫌いになった?」
「なんでだよ。そんなわけないだろ」
「だって私、その、嫌な態度とっちゃったし……」
「そんなの気にすんな。らしくないぞ」
ニカっと笑って私を見てくる。
「……そっちこそ、そんなセリフらしくないぞっ」
やっぱり楓雅は優しい。そういうとこなんだから、ほんとに。
「失礼だな。俺にだってたまにはカッコつけさせろ」
それで何回私がやられたと思ってるのかな。わかってないんだろうな、きっと。
「いっつもつけてるじゃん」
「そんなナルシストじゃねえよ」
「あはは、バカだなー。気づいていないなんて」
ほんとに気づいてないなんてバカだよね。
「っな!俺無意識のうちにナルシスト発言してたのか……!」
「さあねー」
「どっちなんだよ!」
「あはは、教えてあげなーい」
「教えろよー!」
冗談を言い合っていたらもう解散する場所まで来ていた。
「あ、もうここまで来ちゃってたか」
「みたいだな」
「じゃあ、今日はありがとうね」
「こっちこそ来てくれてありがとうな」
「じゃ、また学校で」
「うん。またね」
楓雅が帰っていく姿を私は見えなくなるまでじっと見つめていた。
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