第12-2話 青春
「楓雅は今日、どこに連れて行ってくれるのかな〜?」
「まあ、行けばわかるから」
私たちは島からフェリーに揺られること三十分、本土に到着し本屋に向かう途中だ。
「本屋さんってここからどれくらい歩くの?」
「そうだな……二十分ぐらいか?」
「じゃあ、私と詩葉ちゃんを楽しませてくれるお話、お願いします!」
楓雅ならきっと何か話してくれるよね!
「なんで俺なんだよ。唐突すぎないか」
「あはは、奈希、それはちょっと無茶だよ〜」
「あれ?そうかな」
ちぇー、ケチだな〜。
「ちょっとぐらいあるでしょ〜」
「あると言えばあるぞ」
やっぱりあるんじゃん!
「この前、詩葉が学校で読んでた小説なんだけど」
「あ、これ?」
そう言って詩葉は小説を見せてきた。
「んーと、これはラノベ?」
「そうそう〜。ラノベとかも結構読むんだよー」
結構お堅い感じの小説ばっかり読んでたから、意外。
「で、このラノベこの前アニメ化決定しててな」
「え、本当に!?」
「ああ。結構有名だしな。アニメ化するのもおかしくはないだろ」
「もうそれは観るしかないね」
詩葉ちゃんの目つきがなんか、少し変わった。
「このラノベの良いところはね、まず人物の背景がしっかりしているところだね。最初はお互いにそのことを隠しているんだけど、だんだんそれが明るみになっていって…………」
詩葉ちゃん、スイッチ入っちゃったね完全に。
その後は詩葉による、作品へ対する熱い想いが語られた。
「なるほどな。思いっきりネタバレ喰らった気がするが今度読んでみるわ」
「っあ!私ったらついつい語りすぎちゃった……ごめんね?」
「いや、いいよ。気にすんな」
楓雅、優しい。
「ほら、詩葉のお目当ての本屋が見えてきたぞ」
「わ、めっちゃ大きい!なんでもありそう!」
詩葉ちゃんは大興奮だ。本好きにとってはここは天国だろうな。
「あそこから入れるよ」
「あ、そうだな」
「じゃ、楓雅くんと奈希ちゃん、後で連絡するから!」
「あ、ちょっ」
「え、はや!」
詩葉ちゃんは颯爽と店内に消えて行ってしまった。
「……二人で回るか?」
「だね」
意図せず二人きりになっちゃった……!詩葉ちゃんがいたことで平生が保ててたのに、その詩葉ちゃんがどっか行っちゃったらダメだよ〜!
「ここ四階まであるんだね」
「本だけでここまではすごいな」
蔵書数は約百十万冊らしい。いや、すごすぎるよこれ。
「ここほんとになんでもありそうだね」
「小説コーナーに行く前にちょっと学参のとこ行っていいか?」
「なんか買うの?」
「ああ。塾は行けないから独学で勉強してんだ」
あ……そっか。アルバイトで生計立ててるって言ってたもんね……
「えらいね」
「なんか上から目線なの、やめろ」
「ごめんって」
「じゃあ、行こ」
私は楓雅の手を掴み、引っ張る。
「っちょ、おい。なんで手繋いでんだ」
「掴んでるだけだよ〜」
掴んでるだけだから!決して手を繋いでるわけじゃないから!
「それを世間一般では手を繋ぐ、と言うんだ」
よく見たら楓雅の顔が赤くなってる。もしかしてこういうのに弱かったりするのかな。
「楓雅、顔赤いよ?恥ずかしいのかな?」
「っば……!そんなんじゃねえって」
「にしては目を合わせようとしないねえ。これは怪しい」
「そう言うお前だって、顔赤いじゃねえか。自分から繋いでおいて、顔赤くするなよ」
え、私顔赤くなってるの?
私はそっと掴んでいた手を離した。
「……なんだよ。話すのかよ」
「だって、恥ずかしいし……」
「お前なあ……自分から掴んでいてそれはないだろ。ほら」
楓雅が手を差し伸べてくる。
これって、手を繋げってことだよね……
私はそっと楓雅の手を再び掴む。今度は楓雅の方からも握り返してきた。
『……』
私たちの間に微妙な空気が流れる。
今、私たちは手を繋いでいる。側から見ると、まるで付き合いたてのカップルのようだろうな。お互い顔を真っ赤にしちゃってね。
「……あ、ここじゃない?」
「ここだな」
学参コーナーに着くと、楓雅は英語の参考書をまじまじと見つめ始めた。手を繋いだままで。
「……よし、これでいいな」
楓雅が左手に持っている参考書を見ると、国公立対策の長文の本だった。
「そんな難しいのするの?」
「ああ。受験は英語が命だからな」
「それじゃあ、私どうなっちゃうのさ」
「お前なら大丈夫だろ。普段はアホっぽいがやる時はやるやつだろ」
「アホっぽいってなによ!」
バカだけどさ。うん。もう少しオブラートに包んでよね。
「……お前がよかったらまた勉強教えてやるよ」
「え、いいの?」
「そりゃそうだろう。お前には色々助けてもらった」
今思うと、最初会った時より表情も言動も柔らかくなったよね。それにもっと照れるようになった。楓雅にとったら私って恩人だったりするのかな。
「そっか」
「ああ。感謝してる」
そっか。感謝されてるんだ私。
「……で、そろそろこの手離していいか?」
「あ……うん」
そろそろ私も限界だった。恥ずかしすぎるよ……!
「次、私の行きたいコーナー行ってもいい?」
「おう」
そうして私が向かうコーナーは恋愛小説コーナー。楓雅、意外とこういうの読むから、読んどかないと話についていけないもん。
「楓雅は今どれ読んでるの?」
「俺は今これを読んでるな」
「じゃあ、それ買う」
「お、おう」
「じゃあ、次に読もうと思ってるやつは?」
「えーと、あ、あそこのやつだな。三段目の右から五番目のやつ」
「じゃあ、それも買っとく。あと詩葉ちゃんが読んでるやつは?」
「ちょっと待て。そんなに俺たちの読んでるやつが気になってるなら貸してやるぞ」
「それじゃ遅いの」
だって二人でさっさと話進めちゃうじゃんか。
「お、おう、そうか。それなら別に何も言わんが……」
私はしばらく楓雅を連れ回して、二人が読みそうな奴は片っ端からカゴに突っ込んだ。
「……奈希、お前ちょっと買いすぎじゃないか?」
「いいの!ほらレジ行くよ!」
話に混ざれないのは嫌だ。私だって話したいし。
「お会計が、一万五千円ですね」
「はい、ちょうど頂戴いたします。ありがとうございました」
ちょっと買いすぎちゃったかもな。てへ。
「ちょっと持とうか?」
「ううん、大丈夫だよ」
「そうか」
「あ、そうだ、詩葉にメール送っとかないとな。店の前で待ってるって送っとくぞ」
「はーい」
しばらくすると詩葉ちゃんが戻って来た。
「あ、詩葉ちゃん。どうだったー?」
「いやーここはすごいね。こんなに買っちゃった」
「お前ら……買いすぎにも程があるだろう」
「たまにしか来れないもんねー」
往復で二千円は学生にとっては結構痛手なんだよね。
「そうだよ楓雅くん。たまにしか来れないんだからここでたくさん買っとかないと」
「お、おう、そうか……」
「で、次はどこに行くの?」
「そろそろお腹すいたねー」
「そう言うと思って、次は炭火焼きのハンバーグの店行くぞ」
「お!それは期待できますな〜」
詩葉が期待の目をしている。これは楓雅、ハードル上がっちゃったぞ〜。
「ここからどれくらいで着きそう?」
「うーん、電車使ったらすぐだけど、ちょっと早すぎるし歩きで行くか」
スマホの時刻を見るとまだ十一時半だった。ちょっとお昼ご飯には早いね。
「そうだね。運動にもなるしそうしよう!」
「普段、私運動しないから、良い運動になるね、今日は」
「そういえば詩葉ちゃんって部活入ってないんだっけ?」
「入ってないよー。高校に文芸部とかもないしね」
「俺も部活はやってないな。バイトはしてるが」
「じゃあさ、私たちで文芸部、作らない?」
無いなら作ってしまえばいいじゃない。
「作るっつっても、人数足りなくないか?」
「うーん、確かに。奈希ちゃんと楓雅くんと私だけだと部結成できないんじゃないかな」
「ご安心ください!なんと私たちの高校は三人から部が作れます!」
「なんと!憧れの文芸部が作れる……!」
「まあ、あんな田舎の高校だったらそうでもしないと部活が作れねえだろうからな」
「じゃあ、月曜日に学校行った時に、先生に聞いてみるね!」
「お願いします!」
「じゃあ、頼んだ」
私たち三人とも部活していないし、いい機会にもなるよね。
「でも、文芸部作って何するんだ」
「楓雅くん、いつも私たち語り合っているじゃないか。それを部の活動としてやるだけだよ」
「なら、わざわざ作らなくてもいいんじゃ……」
「こらこら楓雅くん。部であることに意味があるのだよ、こういうのは」
「な、なるほど」
楓雅は謎に説得されているみたいだけど、実際そんなもんだと思うな。それと、青春ってやつ?
「詩葉ちゃんの言う通り、部の活動としてすることに意味があると思うよ」
「そうなのか」
「うん!ね、詩葉ちゃん」
「そうだよ!」
「まあ、そういうことならバイトしながらちょくちょく行こうかな」
「是非是非!」
こうして私たちは文芸部を結成することになった。
これでもっと楓雅と話せる……!
「もう見えてきたぞ」
「あ、あのお店?」
「そうだ」
「結構こじんまりしてるね」
知る人ぞ知る名店って感じがしてる。
「だろ。雰囲気も結構いいぞ」
「楓雅ってば、雰囲気とか意識しちゃって〜」
「いいだろ別に。な、詩葉」
「雰囲気は大事だよ、奈希ちゃん」
そうだね。雰囲気大事だね。うん。
「じゃあ、入るぞ。予約してるからな」
「予約してるの?」
「ここ人気だから予約しとかないとなかなか入れないんだよ」
しっかりしてるよね、そういうとこ。
「なんか悪いね。楓雅くんに全部任せっきりになっちゃって」
「まあ気にすんなよ」
私たちは楓雅に先導され店に入った。
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