第13話 相談

 帰宅後 大崎楓雅


「楽しかったなあ……」

 今日は奈希の笑顔が見れて最高だった。

「あの無邪気な笑顔が可愛いんだよ……」

 正直に言って今の俺は奈希にベタ惚れだ。それゆえにさっき好きだと伝えられなかったのが悔しい。

「奈希のやつ、嫉妬してたよな」

 いくら鈍感な俺だとはいえ、あそこまで露骨に嫉妬されたら気づく。

 あいつも俺のこと好きなのかな……

 そうだったら嬉しいな……

「こういう時に友達がいれば……いや、いるじゃないか詩葉が」

 早速俺は詩葉にメールを送った。

「今日はありがとうな。で、急で悪いんだが、明日相談に乗ってくれないか?」

 三十分ほどして詩葉から返事が返ってきた。

「こちらこそありがとう!明日空いてるから大丈夫だよー」

「ありがとう。助かる」

「詳しい内容は明日聞くけど、どうしたの?」

「ちょっと奈希のことでな」

「あーやっぱり?」

「まあ、そうだな。十三時ぐらいから会えるか?」

「うん、大丈夫だよ。どこに行ったらいい?」

「じゃあ、とりあえず港まで来れるか?」

「分かった。詳しいことは明日聞くね」

「急に悪いな」

「いいのいいの。私たちの仲だし」

「ありがとう。じゃあまた明日」

「うん。おやすみ」

「おやすみ」


 翌日 七月九日


 俺と詩葉は港で集合し、島の唯一のファミレスに行った。

「楓雅くん、昨日はお悩みのご様子だったね」

「まあ、色々とな」

「早速だけど、そのお悩みの内容は?」

「……奈希だ」

「やっぱりね。正直に言って、好きでしょ?」

 ちゃんと分かられてました。

「……そうだな」

「なら早めに打ち明けちゃった方がいいよ」

「なんでだ?」

「奈希ちゃん、結構周りの男子から好かれてるみたいだから、時間の問題かも」

 確かに奈希は容姿端麗で、人も良い。笑顔が可愛い。モテないわけがないよな。

 あと……胸がでかい。

「やっぱり早めに打ち明けるべきだよなあ……」

「でも俺そんな経験ないから不安なんだよ」

 そう、ただ単純に不安なんだ。もし奈希の気持ちが俺とは違って、気まずくなって、今まで通りに一緒に会って話せなくなったら……それは嫌だ。

「一年生の時とか、人と話してるとこ見たことなかったし、うーん。そうだよね」

「自分から避けてたからな」

 あの頃の俺は人を避けていた、と言うよりは興味を持たなかった。いや、持てなかった。必要以上に関わる必要はないと思ってたから人と話さなかった。ただそれだけのことだ。

「でも、今は違うでしょ?」

「そうなのかな」

「きっとそうだよ。奈希ちゃんが転校して来てから楓雅くんは変わったよ」

「正直、前の楓雅くんは怖かったけど、今の楓雅くんは真逆だね。クラスの子が困ってたら助けてあげたりとかも今はすごいしてあげてるよね。きっと楓雅くんなら正直に真正面から想いを伝えたら奈希ちゃんも応えてくれると思うよ」

 真正面から想いを伝える……か。

「奈希は俺のことをどう思ってるんだろうか」

「きっと楓雅くんと同じ気持ちだよ。てか、バレバレだし」

「やっぱりそうだよな。明らかにそうだよな」

 距離が近いし、からかってくるし……

「うん、誰が見ても気づくねあれは」

「じゃあやっぱり思い切って想いを伝えるべきだよな、これは」

「そうした方がいいよ」

「また近いうちに伝えることにするよ」

「うん、そのときはまた相談して」

「ああ、助かる」

「あと、ごめんね。私、楓雅くんのことなにも知らずに勝手に怖い人だとか思っちゃってて」

「慣れてるからそんなの大丈夫だ。それに今はそうじゃないんだろ?」

「うん。今はすごい良い人だなって。友達の少ない私に話しかけてくれて、ありがとう」

 良い人……か。

「ああ、こっちこそありがとうな」

「相談っつって来てもらったけど、もう終わっちまったな」

「うーん、勉強する?」

「するか。よく考えたら期末テスト一週間前だったな」

「奈希ちゃんも呼ぶ?」

「そうだな。あいつバカだから教えてやんねえと」

「じゃあ、ちょっと電話してくる」

「頼んだ」

 数分して詩葉が戻ってきた。

「奈希ちゃん来れないってー」

「珍しいな」

「そうなの?」

「呼んだら毎回来るからな」

 まあそう言う日もあるだろう。

「一応、勉強道具は持って来てたから俺はできるけど、詩葉はなんか持って来てるか?」

「うん。私もちょっとだけ」

「じゃあ大丈夫だな」

 その後、俺たちは黙々と勉強をした。



 四時間ほど経っただろうか。そろそろ良い時間にもなってきた。

「ふー、よく勉強したねー」

「久々に真面目に自分の勉強ができた。奈希が一緒だと教えてやらないといけないからな」

 この前勉強した時、距離が近くて集中できなかったのもあるけどな。

「あれ、奈希ちゃんって勉強できなかったっけ?」

「この前教えた時は壊滅的だったぞ?」

「え、そうなの?この前私、逆に教えられた方なんだけど……」

「あいつ、英単語とかも全然だった気がするんだけど」

 壊滅的に勉強ができんかったはずなんだが……あれはわざと勉強できないのを装っていたのか?それとも頑張ってできるようになったとか……?いや、それは流石にない。

 そう思った俺は詩葉にちょっとテストしてみることにした。

「詩葉。この英単語の意味は?」

 そう言って俺は、単語帳の前半にある簡単なものを聞いてみた。

「……わかんない」

「……じゃあ、数学のこの問題は?」

 次は二次関数の基本的な問題を出してみた。

「……平方完成ってどうやってするんだっけ?」

 まじか。奈希よりひどいかもなこれは。

「なあ、詩葉」

「うん?」

「今週は奈希も呼んで特訓するぞ」

「え?勉強の?」

「ああ。俺はお前らが心配だ」

 お礼もしたいしな。そのついでだ。

「じゃあ、明日から一週間、俺の家に来い。夜まで勉強だ」

「え、そ、そんな急に男の子の家だなんて///」

 ……なんかこいつも奈希みたいになってないか?

「なに言ってんだ。勉強するだけだ。なんも気にすんな」

「強引なんだから」

「その言い方は語弊がある。あとお前そんなキャラだったか」

「私、人見知りだから……」

 人見知りだからっつっても、なんか変わりすぎじゃねえか?昨日から思ってたけど。

「まあいい。とりあえず明日の放課後からな」

「わかりました……」

 まさか詩葉も勉強が苦手だったとはな。こりゃ明日から大変だな。


 その日はお互いにファミレスで解散し、帰路についた。

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