第25話 おもてなし

「えーお二人が奈希の義両親さんということで合っていますかね?」

「そうよ~」

「そうだ。いかにも俺が奈希の義父だ」

「急にごめんね~、奈希ったら急にここに連れて来るとか言い出しちゃって」

「あはは、奈希らしいですね」

「にしても、思っていたよりもしっかりしていて父さん安心したよ」

「そうね~、兄妹とは思えないわね」

「ちょっとそれってどういうこと?私がしっかりしてないって言いたいの?」

「いや、奈希が転校したときにメールで『なんかめっちゃ怖いし、誰とも話してなかったんだけど』とか送ってきてたからそのイメージがね~」

 奈希の俺への最初の印象、やっぱり最悪すぎないか。

「あー…そういえばそんなことも送ったような気がしなくもないような……」

「まあ、実際そうでしたから。奈希が来てくれてからはそんなことはないと思いたいのですが……」

 負のオーラなんてことはもう言われたくない。

「うん、思っていたより全然そんなことはないし、むしろ明るくていい子そうだな」

「手なんてつないじゃって、どこまでいったのかしら?」

「別にどこまでもいってないよ!」

「あらそう?」

「まあ立ち話もなんだ、とりあえず座ってくれ」

「ああ、ありがとうございます」

 とりあえず俺たちはカウンターに座る。

「……じゃあ、はじめようか」

 はじめる……?

「お客さん、何か食べられないネタなどはございますか?」

「え?あ~なんでも食べられます」

「分かりました。では、今回はこちらの奈希さんよりおまかせでお願いしたいとの文言を預かっておりますので、そちらで握らさせていただきます」

 なんか始まったぞ?

「奈希、なんか始まったけど」

「日本人はおもてなしの心があるって言うでしょ?それと一緒だよ」

「あーうん、そうか」

 つまり、これは歓迎会という認識でよいのだろうか。

「ではまずはお吸い物からどうぞ」

「ありがとうございます」

「それじゃあ私もいただこうかしら」

 そう言って奈希の義母さんが隣に座ってきた。

「お母様もこちらのお店で働いていらっしゃるんですか?」

「夫婦になってから二十年、ここ一筋よ」。

「すごいですね」

「でも奈希にはここを継いでもらわずに自分の道を歩んでほしいと思っているわ」

「私は別にどっちでもよかったんだけどね」

「そういえばあなたたち結婚とかするの?」

「け、結婚なんてしないですよ!」

「あらそう?私としては大歓迎だけど」

「そもそも兄弟ですし……あ、でも一緒に住もうかなとは」

「いいじゃない!いつから一緒に住もうと思ってるの?」

「一応大学生になってからとは思ってます」

「そうなのね~……お金に困ったらいつでも頼ってちょうだいね」

「いや、そんな悪いですよ!」

「いいのいいの。一応儲かってますから」

「あ、そういえば楓雅」

「どうした?」

「引っ越し費用とかはお母さんたちが出してくれるらしいから、楓雅は出さなくていいよ」

「いやでも……」

「こういう時は甘えておくものよ」

「そうなんですかね……」

「そうよ。お金のことで今まで苦労したきたでしょう。楓雅くんにして今までしてやれなかった分も兼ねてそれぐらいは出させて」

今日が初対面なのになんて優しいんだ……

「ありがとうございます……なんとお礼を言えばいいのか……」

「では皆様、一旦お話はそこまでにして、まずは大トロからどうぞ!」

 そう言って義父さんが差し出してきたのは、いかにも美味そうな見た目の大トロだ。

「まずは何もなしでどうぞ」

「わかりました」

 そう言われた俺は何もつけずに口に運ぶ。

「……美味い」

「そうだろう。シャリが自慢なんだ。もちろんネタも自慢のものを仕入れている」

 回転寿司しか食べたことはないが、これが段違いに美味いのは分かる。

「こんなの食べたことなかったです」

「言ったらいつでも食べさせてやるぞ」

「いいんですか」

「もちろんだ」

「じゃあ次来た時もお願いします」

「喜んでご用意するよ」

 週一ぐらいで通おうかな。

「じゃあ次もネタもじゃんじゃん行っちゃうよ」

「お願いします」

 そうしてしばらくの間、奈希の義父による握り寿司が次々に出されていった。



「これ、すごい美味かったです。明日にでももう一度食べたいぐらいです」

 マジで美味かった……ここの家の子になりたい。

「はは、そうかそうか。次来たときはまた別の系統のを握ってあげるよ」

「それは楽しみです。多分来週ぐらいに来ます」

「別に明日でもいいんだぞ?」

「いや連日いただくのはさすがに悪いですよ」

「まあ今日は泊まっていくんだろ?明日もとびっきりのを用意しといてやるよ」

「じゃあお言葉に甘えさせていただいて、明日もいただきます」

「おうよ。ここの上がそのまんま部屋になってるから、そこの階段から上がってくれ」

「あ、この上がそのまんま家になってるんですね」

「まあその方が楽だしな。じゃあ奈希、案内してやってくれ」

「はーい。じゃあ楓雅こっちきて」

 俺は奈希に案内されるがままについて行く。

「めっちゃ広いな」

「四階まであるからねー」

「広すぎだろ」

「ちゃんと私たちが寝る部屋も二つあるから安心だね」

「ああ、よかった。地べたで寝ることになるかもと思っていたからな」

「そんな雑な扱いはしないよ!なんならちゃんとベッドもあるよ!」

「なんかごめん」

「あ、着替えとかはちゃんと持ってきてるよね?」

「ああ、泊まるって言われてたから持ってきてるぞ」

「歯ブラシとかは新しいにあるからそれ使っていいよ~ってお母さんが言ってた」

「了解。なんかいろいろしてもらって悪いな」

「そんなの気にしなくていいから!今日はゆっくりしよ?」

「ああ、そうだな。遠出するのも久々だし、疲れた」

「お昼寝する?」

「特にすることもないし、俺は昼寝しようかな」

「じゃあ私も」

「別にどっか遊びに行っててもいいんだぞ」

「楓雅と一緒にいる方がいいもん」

「でも、俺寝てるだけになるぞ」

「いいよ。一緒に寝るもん」

「一緒の布団でってことか?」

「当たり前じゃん」

「……その、まずくないか?それは」

「どうして?」

「いや、なんでもない。奈希がそうしたいならいいけど」

 俺の心が汚れているのだろうかこれは。

 ていうかこれを奈希の義母さんに見られたら絶対何か勘違いされるだろ、これ。

「えへへ、じゃあ一緒に寝よー!」

 そう言うと、奈希は俺の手を引っ張って寝室までつれていく。

「……いや、ベッドでか!」

「ダブルだからね」

「俺の家にあるやつシングルだから、二倍の大きさか……」

「よし、じゃあ早速寝よう!」

 奈希が布団に飛び込む。。

「お、おう」

「ほら、楓雅も!」

 俺は言われるがままに布団にもぐる。

「……」

 どんな状況なんだこれは……!年頃の男女が同じベッドで密着して寝ているってやっぱり相当まずくないか?どれだけ仲が良くても兄妹でもこんなことしないだろ…!

「おやすみ、ふふ」

「ああ」

 微笑んでくるのはズルいだろ……!平然を装っているが、こんなの無理だ。俺には厳しすぎる。

 もう何も考えずに寝よう。そう、無心で寝るだけだ……無心で…………


「……好きだよ」


 あーーー!寝れそうだったのになんなんだよそれは!そんなの言わなくても分かってるっての!ボソッと言ってくるのも相まって余計に攻撃力が高い!

 よし、聞こえてなかったフリをして寝よう。これは反応したらだめだ。俺が持たない。

俺よ、無心だぞ、無心。



何も考えるな……

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