第14話 勉強会

 七月十日 月曜日 大崎楓雅


『さようなら』

 今日も一日の学校が終わり皆が帰路につく。

「奈希、詩葉、一緒に帰るぞ」

 昨日詩葉と約束した通り、今日は三人で勉強会を俺の家ですることになっている。しかし奈希にはまだそのことは伝えていない。

「奈希、突然だが今日から俺の家で勉強会だからな」

「え、なんで!」

「なんでってお前、今日から期末テスト一週間前だぞ?」

「あー、そっか。うん。なら仕方ないか……」

「でも、奈希ちゃん。楓雅くんともっと一緒にいられるってことでもあるよ?」

「……楓雅先生!早くお家に行きましょう!一緒に勉強したくてうずうずしてます!」

 詩葉のその一言でそこまでやる気になれるものなのか。言い方が違うだけでよくもまあここまで変わるものだ。

「ああ、そうだな。勉強しないとやばいもんな」

「じゃあ、お二人の邪魔しちゃ悪いから私はこれで。じゃあね楓雅くんと奈希ちゃん」

 俺は帰ろうとする詩葉の方を掴んだ。

「お 前 も 一 緒 に す る ん だ ぞ ?」

「ひいぃぃ!楓雅くん顔怖いよぉ!ちゃんとしますからぁ!」

「分かればよろしい。頑張ろうな?」

「……はい」

 家に着いた俺たちは早速勉強を始める。

「楓雅先生!ここはどうやるんですか?」

「ここはだな……xを移項して…………」

「じゃあ先生!これはどうなんですか?」

「ああ、これもな同じようにxを移項してだな……」

「楓雅くん、この平方完成どうやってやるんだっけ……」

「ここは昨日教えた通りにだな……」

 この日は自分の勉強は全くと言って良いほどできなかった。でも、良い復習にはなった。

 そして何よりも、奈希が一生懸命にやっている姿を見て嬉しかった。

 で、今その本人は座りながら寝ている。あれだけ一気に詰め込んだらそりゃ疲れるだろう。

「……天使だ」

「んえ?どうしたの楓雅……」

 まずい……!聞こえていたか。

「いや、なんでもない。ちょっとは疲れ取れたか?」

「あと五分だけ……」

 再び眠ってしまった。

「楓雅くん。撮るなら今しかないよ」

「そんな盗撮みたいなこと誰がするかよ」

 詩葉は一体俺のことなんだと思っているんだ。そんなことするわけがない……いや本音を言うとめちゃくちゃ撮りたい。だってこの顔は反則だろ。表情ゆるゆるでよだれ垂らして、子供みたいでまじで可愛い。撫でたくなるほどだ。しないけどな?決してしないけどな?

「楓雅くん。目がもう奈希ちゃんしか見てないよ」

「っあ!すまん。勉強わからないとこあったか?」

「ううん、大丈夫。そのまま奈希ちゃんのこと見てていいよ」

「いや、遠慮しとく」

「もったいない」

「俺は紳士だからな」

「それ自分で言う人いないよ」

「別に良いだろ。ほら勉強再開だ」

「あはは、はいはい」

 結局俺は奈希を起こさずに一時間ほど勉強した。

「おい、奈希。今日はもう終わりにしよう」

「……んん。今、何時ー?」

「もう七時半だ」

「え、私一時間半も寝てたの!?起こしてよぉ〜」

「いや、起こすの起こせなかった。な、詩葉」

「そうだね。あれは無理だね」

 あんな気持ちよさそうに寝てたら誰だって起こせないだろ。まだ六日ある。そんな焦るようなこともないし、大丈夫だろ。

「二人してなにさー!私なんか変な寝言言ってたりしたの?」

「いや、そんなんじゃないから安心しろ」

「うん。気にしなくていいよ」

「そう言われたらもっと気になるんですけど?」

「まあまあ。悪いことじゃないから」

「……もう、まあいいけど」

「じゃあ、時間も時間だし今日は解散だな」

「今日はありがとね楓雅くん。また明日」

「お前そんなこと言っといて最初逃げようとしてたからな」

「あ、あれは!ちょっとした出来心で、そんな嫌だとかは全く……」

「はいはい。分かったから明日もちゃんと来いよ」

「はーい。じゃあまたね」

「おう。奈希は……もう少しかかりそうだな」

「どっちみち私違う方向だから先帰ってるね」

「うん!また明日ね詩葉ちゃん!」

 詩葉はそう言うとそそくさと帰っていった。

「楓雅。詩葉ちゃんと仲良くなったよね」

「またそれか」

「いや、そう言うのじゃなくて、友達できてよかったねーと思って」

「まあ、これも奈希のおかげだな」

「そっか。じゃあ私もそろそろ帰るね」

「明日もちゃんと来いよ。あと今日はちゃんと寝るんだぞ」

「今日はほとんど寝ちゃってたしね。明日は寝ないと誓います!」

「おう。その意気で頼む」

「うん!じゃあまた明日!じゃあね楓雅」

「おやすみ」

「うん、おやすみ」

 ゆっくり扉が閉まる。

「いやー疲れた」

 バカ二人を相手にするのは疲れるな。詩葉も最近、奈希みたいになってきちまったしどうしたもんだか……

「でも、奈希の寝顔が見れたから満足だ」

 なんだかんだで詩葉とは話が合うし、一緒にいて楽しいし、奈希は可愛いし、悪いことはない。

 あと、最近気になっていることだが、奈希の嫉妬?みたいなものがすごい。隠す気がまるでない。あいつも俺のことを好きなのか?だとしたら……

「最高すぎる」

 両想い。夢にまで思った言葉だ。

「ま、そんな世の中甘くねえだろ」

 そんなこと考えたってあまり意味はないと俺は思う。世の中甘くないからな。

「俺は結構現実的な男だからな」

 そう自負している。

「さてと、じゃあ飯食って、シャワー浴びて、寝るか」

 俺はいつも通り晩飯を作り、シャワーを浴びて布団に潜った。


 ◇ ◇ ◇


 七月十日 月曜日


久々に日記を書く。感情を吐き出さないといつもの自分じゃいられなくなるから。

やっぱり私ってダメな女だ。楓雅に早く打ち明けないといけないのに、まだ打ち明けていない。


                 理由はなんだ?


楓雅に血のつながった妹だと打ち明けたら、もう今まで通りの関係でいられないから?

はっきりしてよ、私。どうして早く打ち明けないの?

やっぱり好きだから?大好きだから?どうしようもなく好きだから?

本当に私って馬鹿。早くしないと。本当に。

私は楓雅にただ単純に幸せになって欲しいだけ。最初ここにきた時、そう思ってたのに。

私の感情なんて関係ない。血のつながった家族がいるってだけで喜ぶに決まっている。

なのになぜ言えない?

なぜ?なぜ?なぜ?

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