第23話 機嫌
七月二十八日
今日は奈希と詩葉とファミレスに来ている。
「まあそういうわけだ詩葉」
「つまり君たちは明日、奈希の義両親の家に行って挨拶をしてくると?」
「そういうことだよ~」
「え、二人って一緒に住むの?ていうか結婚するの?」
「け、結婚だなんてそんなたいそうなことはないけど、一緒に住もうかっていう話には昨日なった」
結局、昨日はあの後少しだけ今後のことについて話した。
結果としては、とりあえず高校生の間はお互いに一人暮らしをして、大学生になったら一緒に住むという話になった。
「え、いつから一緒に住むの?」
「大学生なってからだよ」
「あー、ならまだまだ先だね」
「そうでもないぞ。あともう一回夏が来たらもう次の時には大学生だぞ。もちろん大学受験も待っている」
「大学受験だなんて信じられないよ……」
「奈希ちゃんはきっと大丈夫だよ。それより私のほうが本当にやばいから。勉強しても身につかないし、勉強習慣もないんだもん」
「二人とも大丈夫だから安心しろ。勉強はだれでも最初はできるもんじゃないからな。俺も最初は全くできなかったし」
「そうかなぁ……」
「ああ、そうだ。いざとなればまた俺が教えてやるからまかせておけ」
「頼りにしてるよ楓雅くん……」
「楓雅、これから毎日頼んだ☆」
「毎日って……それ、お前が耐えられるのか?」
「当たり前でしょ?私を一体何だと思っているんだか」
毎日勉強を教えるってのは別にいいけど、絶対耐えられなくなって逃げだすと思うんだが。まあ一回試してやるか。どうなるか楽しみだ。
「まあ、別にいいけど」
「詩葉ちゃんももちろん一緒に勉強するよね?」
「奈希ちゃんがそう言うなら……」
「奈希、誘っておいて途中でやっぱり無理とかはなしだからな?」
「わかってるって!」
言ったな?俺はその言葉を一生忘れないぞ。
「言ったからな。また来週ぐらいからやるからな」
「よゆーだよ!まかせておいて!」
「あー…また地獄が始まる……」
詩葉には奈希とともに犠牲になってもらおう。
「まあ、とりあえずこのことは置いておいて、そういうことだから覚えておいてくれ詩葉」
「勉強するのは覚えておきたくないけど、大体分かったよ。でも、よかった。一時はどうなることかと思ったからね。相談されたかと思ったら次はもう片方から相談されるんだもん、完全に板挟み状態だったよ」
「それは……すまん」
それに関しては本当に申し訳ない。でも、他に頼れるやつがいなかったんだ……
「ごめん……詩葉ちゃんが楓雅から相談されてるとは思ってなくて……」
「あはは、いいよいいよ。その代わり、二人が一緒に住み始めたら遊びに行かせてね」
「それはもちろん!何なら来てほしいぐらいだよ」
「そうだな」
「あはは、そういうことなら遠慮なくお邪魔させてもらおうかな。まだ先の話だけど」
「とりあえず受験勉強頑張らないとな、三人とも」
「だね」
「全力は尽くします……多分」
多分か。うん、多分。
「そういえば奈希」
「どしたの?」
「明日って奈希の義両親の家に行くけど、日帰りで行けるのか?」
「え、泊まるけど?」
「え、あ、そうなのか?」
「じゃないと無理だもん」
「それもそうか……」
完全に日帰りだと勘違いしていたな。
「分かった。それなら着替えとかも用意して行く」
「うん、そうして」
「そういえば、奈希の義両親の家ってどこなんだ?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「言ってないな」
「横浜だよ」
「横浜か……フェリー降りて一時間ってところか」
「そのぐらいだね」
「時間あったらどっか遊びにでも行くか」
「二日目ならたぶんめっちゃ時間あるから二日目にする?」
「だな。一日目はいろいろ説明とかしないといけないしな」
「うんうん。じゃあ二日目に遊ぼ」
「詩葉も明後日来るか?」
「え、私?そんな、二人の邪魔しちゃ悪いよ」
「詩葉ちゃんも来なよ!」
「うーん……たまには二人で遊んできなよ。いっつも私一緒だし」
「そうか?まあ、詩葉がそう言うなら今回は二人で行くよ」
こういうときは大体付いてきてたが、まあたまにはそういうこともあるよな。
「うん。また次遊ぶときに誘ってほしいな」
「詩葉ちゃんがそう言うなら仕方ないかぁ」
「まあまあ、たまにはデートしときなよ」
「そういえばあんまりデートらしいデートはしたことなかったな」
「でしょ。だから楽しんできて」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらってデートしてくるよ」
心なしか詩葉の機嫌がちょっと悪くなって気がするが、気のせいだろうか。
気のせいだよな。
「じゃあ、今日のところはそろそろお暇しようかな」
「もう帰るのか?」
「このあとちょっと用事があるからね」
「そうか。ならまた今度な」
「えー!もう帰っちゃうの?」
「だってこの後しなきゃいけないことがあるんだもん」
「そっか…じゃあ、またね」
「うん、またね」
詩葉は荷物をまとめると自分の会計分のお金だけ置いて、そそくさと帰ってしまった。
「なあ奈希」
「んー?」
「詩葉のやつなんか機嫌悪くなかったか?」
「そうかな?だとしてもたまには機嫌の悪い日だってあるよ」
「それもそうか……気にしすぎだな」
「気にしすぎだよ、多分」
「多分な、多分」
でも、どうも引っかかるところがある。
いや、やっぱり考えすぎか。そういう日もあるよな。
「あ、そうだ。せっかく横浜に行くなら俺会いたいやつがいるんだけど、会いに行ってもいいか?」
「あ、もしかしてちょっと前に言ってた唯一の友達?」
「そうそう。俺の幼馴染だ。あいつとは昔から仲が良くてな。高校に入ってからは時間もお互い無いからあんまり会えてなかったんだ」
本当に久々に会うことになるな。
「楓雅は時間あったでしょ」
「バイトとかいろいろあったんだよ」
「あー、そっか。なんかごめん」
「なんで謝んだよ」
「いや、私だけなんもせずに義両親と生活してたからさ、申し訳ないなって」
「そんなん気にするな。気にしても今更だし、引き取られなかった俺の運が悪かったのが悪い」
「まあ、負のオーラすごかったし運が悪いのは納得だね」
「だからその負のオーラってやつやめてくれ。なんか傷つく」
「今は違うから大丈夫だよ」
「そういう問題じゃないんだよ……」
今までの人生、まるっきり黒歴史だ。それを端的に言い表す言葉なんだよ『負のオーラ』ってのは。
「あ、そうだった。明日会いに行くって言っとかないと」
「え、まだ言ってなかったの」
「お互い会う前日に連絡をとるのは慣れっこだ」
男ってのは適当な生き物なんだ。もちろん旅行に行く時でも一週間ぐらい前からしか準備しない。友達と旅行したことないけど。
「男子って本当、適当だよね」
「そんなもんだぞ」
「なんか見損なった」
「それはひどくないか」
「だっていっつもしっかりしてるイメージだもん」
「それは偏見だ。俺だって適当なところぐらいある」
「まあ、そういうところも含めて好きなんだけどね」
「そんな好き好きばっか言ってたら価値が下がるぞ」
「大丈夫だよ。これは金と一緒でずっと価値があるものなの」
「……その例えはよくわからないけど、お前が俺を好きなのは分かった」
しかも金って価値変動するから、その理論で行くと俺への好きも日々変動することになるじゃないか。価値が上がったときは最高だけどな。
「俺たちもそろそろ帰るか」
「だね。もう外も暗いし明日の準備をしなきゃだしね」
「よし、じゃあ行くか」
「うん!手つないで帰ろ」
「会計すましてからな」
「はーい」
俺たちは支払いを済ませて帰路についた。
終始、奈希がくっついてきて大変だった。
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