第18話 板挟みな女
七月二十四日 日曜日 楓詩葉
「朝早くにごめんね。詩葉ちゃん、ちょっと相談があって……」
「朝から急にどうしたの?別に大丈夫だけど」
「詳しいことは会ってから話したいから、時間はいつでもいいんだけど私の家来れたりしない?」
うん。予想はつくよ。楓雅くんのことが好きだけど、想いが伝えられない〜!でしょ。
「今からでも行けるけど、行こうか?」
まあ、行くけどさ。大事な友達だし。
「ほんと?ならお願いしようかな……」
「うん。じゃあ今から行くね。あ、住所だけ教えて欲しいな」
そういえば、奈希ちゃんの家行くの初めてかも。
「あ、そっか詩葉ちゃん私の家来たことなかったもんね。じゃあ送るね」
「……じゃあ今から行くね」
「うん。ありがと」
「電話切るね」
「うん」
よし、早速行こう。
「奈希ちゃーん、来たよー」
インターホンを鳴らす。
「あ、うん!ちょっと待ってー」
「はーい」
「ごめん!お待たせ」
「大丈夫だよ。お邪魔しまーす」
「上がって上がってー」
「奈希ちゃんの家、めっちゃ奈希ちゃんって感じだね」
「そ、そう?てか、私らしい部屋ってなにさ」
「そのまんまの意味だよ。可愛らしい部屋だなって」
「そ、そうかな〜。可愛いか〜〜〜」
同性の人に可愛いって言われても照れちゃうんだ……!可愛すぎる。
「可愛いよ奈希ちゃんは。すっごく」
「ち、ちょっとそんな可愛いって言わないで!照れちゃう……」
何この可愛い生き物。すぐ照れる。
「そ、そんな私が可愛いとかどうでもよくて!相談にのって欲しくて」
「ごめんごめん、言い過ぎた。で、単刀直入に聞くけど、楓雅くんのことでしょ?」
「う、うん……」
「好きなの?」
「あ!いや!そ、そんな好きとかじゃない、とは言えないかもだけど……」
今更誤魔化してきても、奈希ちゃんの今までの行動見てたらもうバレバレなのに。
「はっきりしちゃった方がいいよ」
「う、うん……」
『……』
「奈希ちゃーん?起きてますかー」
「っあ!ご、ごめん。考え事」
「その考え事を解決するために私を呼んだんでしょ?なら早く言っちゃったほうが……」
「それはそうなんだけどね、こんなこと言って惹かれないかなと思ったら、言い出すのが怖くなってきちゃって……私から呼び出しといてなんだよって話だよね、ごめんね……」
「そんな大事な友達相手に引くなんてしないよ、安心して?」
「うん……」
「決心したら言って。私いつまででも待っててあげるから」
そんなに好きな人の話するだけで覚悟っているのかなあ?でもそれは人それぞれだよね。奈希ちゃんにとったらすっごい重要なことなのかもしれないし、何しろ大事な友達だし、話出せるまで待っててあげよう。
『……』
それから三十分。奈希ちゃんはまだ決心がつかないみたい。
「詩葉ちゃん、ほんとごめんね。せっかくきてもらってるのにこんなずっと待たせっぱなしで」
「ううん、大丈夫だよ。大事な友達の話だもん。ずっと待てるよ」
「ありがとう……」
そんな気にしなくてもいいのに。奈希ちゃんって時々自分を責めがちなところがあるから、実はちょっと心配してる。テストの時もすっごい落ち込んでたし。罪悪感が……って何回も一人で言ってた。
「詩葉ちゃん、ほんとのほんとに引かないで聞いてくれる?」
「もちろん。どんとこいだよ」
「ありがとう。じゃあ、話すね……」
「うん。ゆっくりで大丈夫だから」
「楓雅のことは好きなの。抑え切れないくらいに」
「うんうん」
「本当に大好きなの」
「そうだね。いっつもベッタリだもんね」
ハグ要求してるの、私は知ってるんだから。
羨ましい……!
「や、やっぱりくっつきすぎかな?」
「ううん、それでいいと思うよ」
「そ、そっか。じゃあ、続けるね」
「うん、続けて」
「でね、大好きなんだけど、それがダメな理由があるの」
ダメな理由?そんなことあるのかな。
「一体どんな理由……?」
「……言うね」
私と奈希ちゃんを緊張感が包む。
「……実は私、いや私たち、実の兄妹なの」
「え……?」
「……そりゃ驚くよね。急に転校してきた人が、元々ここにいた人と兄妹だなんて普通は信じられないよね」
「か、仮に兄妹だとしてどうして同い年なの?」
「私たち年子だから同じ学年でいられるんだよね」
「あ、そういうことか……」
「やっぱりこんな話友達にするべきじゃなかったよね、ごめん」
「ううん、そんなことないよ。私信じるよ」
「ほ、ほんと?」
「うん。だって大事な友達なんだもん」
「で、でも兄妹って知っていながら楓雅のこと好きになるなんて、私、おかしいのかな……」
「ううん。そんなことない。だって楓雅くんは魅力的な人だもん。気遣いができて、普段はツンとしてる感じだけど、いざという時には本気で心配してくれるような人。もし私が楓雅くんと兄妹だったとしても普通に惚れるよ」
「……そっか、そうだよね。あんなの惚れない方がおかしいよね」
「うん!そうだよ!」
そうだ、惚れない方がおかしい。それぐらいに欠点のない完璧な人だもの。
正直に言うと、私も
好きだった……
でも、私の大事な友達が私の好きな人と縁を結べるならそれで十分、私は幸せだ。
「でも、本人にこれを打ち明けられる自信、ないんだ……」
「それは自分が言える!と思ったタイミングで言っていいと思うよ。きっと楓雅くんも受け入れてくれるよ。その後はどうなるかは私にもわからないけど」
「受け入れてくれるかな。だといいな……」
「大丈夫、いざとなれば私がサポートする」
「詩葉ちゃん、ありがとう……大好き」
奈希ちゃんが私に抱きついてくる。
「あ、ちょっと急に……!」
私もそっと奈希ちゃんを抱きしめ返す。
『……』
「……奈希ちゃんって甘えん坊さんだよね」
「そうなのかな」
「聞いたよ。楓雅くんから」
ちょっと意地悪しちゃお。
「えっ!な、何を!?私、なんもしてないよ?……多分」
奈希ちゃんがパッと抱きしめている手を離した。
「『ぎゅーを要求されて死ぬかと思った』って言ってたよ」
「〜〜〜っ!どうして詩葉ちゃんにそれを言っちゃうかな〜〜〜!恥ずかしすぎて死んじゃいそうだよぉ……」
これを楓雅くんから聞いた時、軽く尊死しちゃったよね。
「それに勝手に手も繋がれたってのも言ってたっけな〜?」
「ち、ちょっとそれもダメー!」
「あ、手繋いだんだ〜。これは楓雅くんから聞いてなかったけど、たまたま当たっちゃったな〜」
「〜〜〜っ!もー!詩葉ちゃんのいじわる!相談に乗ってくれたのはすごく感謝してるけど!けど!それとこれとはまた別だからね!ぷんぷん!」
ぷんぷんって口に出して怒ってる子初めて見た。可愛すぎるでしょ〜〜〜!
「ごめん、調子乗りすぎちゃった」
「もう。ほどほどにしてよね。ぷんぷん」
だからそれ可愛いって。口に出す子いないって。
「それで、奈希ちゃんどうする?その想いは伝える気あるの?」
「兄妹って打ち明けたら、もうこの想いは黙っておこうかなって……」
「そっか。それは奈希ちゃんの自由だから何も言わないけど、後悔のない選択を私はお勧めするよ」
「うん。分かった。ありがとう」
「詩葉ちゃん、今日相談乗ってくれたし、お昼ご飯作るね」
「え、ほんとに?いいの?」
「うん!私にお任せあれ!それじゃ早速、作ってくるね!」
「手伝わなくて大丈夫?」
「お礼だから何もしなくていいよ!」
「分かった。じゃあ待ってるね」
奈希ちゃんの手作り料理かぁ……さぞ美味しいんだろうな。
そうして待つこと二十分。
出てきた料理は
「……何これ」
「回鍋肉です!」
にしては……なんか真っ黒なんだけど?あと、なんか野菜とかの原型が何もない気がするんだけど……?
「えっと、じゃあいただいていい?」
「ぜひぜひ!」
「それじゃあ、いただきます」
意を決して私はその回鍋肉を口に運んだ、が、
!!!?!?!!?!?!!?!???
……な…何これ………食物兵器?
や、やばい……死ぬ、かも
「奈、奈希ちゃん、楓雅くんにも料理作ってあげたこととかあるの?」
「あるよ!美味しいって言って喜んでくれてたからすっごく嬉しかったな〜」
楓雅くん……君、すごすぎる男だ、な…………
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