第16話 加速する想い

 七月二十二日 金曜日 如月奈希


 私は今、屋上にいる。

 昨日今日と、テストが返された。

 結果は散々だった。

「せっかく楓雅に教えてもらったのになあ……」

 罪悪感でいっぱいだ。

 国語三十二点、数学四十点、英語二十八点……もうあとは思い出したくない。

「ほとんど赤点だよぉ……」

「奈希、一人で何してんだ」

 楓雅が背中にそっと手を当ててきた。

「……なんでいるのさ」

「探したんだぞ」

「ごめん」

「お前、泣いてたろ」

「えっ、いや、泣いてない、よ?」

「ほら、頬についてるじゃねえか」

 そう言って楓雅は私の涙を拭き取ってくれた。

「き、急に顔、触んないで……照れるから」

「あ、ごめん」

 なんでそっちが顔赤くして照れてるんだか。恥ずかしいのはこっちなのに。

「……ごめんね、楓雅。せっかく教えてくれたのにこんな結果で」

「まだ気にしてんのか」

「そりゃあするよ。一生懸命教えてくれたのにこんなんだもん」

「まあ、そんなこともあるだろ」

「俺も結構散々な結果だったぞ。ほら、国語十五点だ」

「え!?私より低いよそれ!だ、大丈夫?調子悪かったの?」

「いや、単純に小説の問題ばっかりで出来なかっただけだ。感情を読み取るのはどうも昔から苦手でな」

「楓雅らしいや。楓雅でも出来なかったんじゃあ仕方ないね」

「この高校のテスト、本当に難しいんだ。一年の時からこんなテストだった」

「やっぱりそうだよね。難しすぎるもん」

 この高校に入って初めてのテストだったけど、前の高校とレベルが違いすぎてびっくりした。同じ高等学校とは思えないぐらいに難易度に差があった。

「そんなテストの話は置いておいて、ついて来て欲しい場所があるんだが、いいか?」

「別にいいけど、何するの?」

「じゃあ、今日は放課後二人で帰ろう。詩葉には言っておく」

「え、二人じゃないとダメなやつなの?」

「いや、そういうわけじゃないんだが」

「……えっち」

「ばっ!そんなことじゃねえって!まだなんも言ってないしな!?」

 照れてる。

「あはは、ごめんってば。それで、どこ行きたいの?」

「月曜日、遊びに行くだろ?だから、また服選んで欲しいんだ」

「なるほどね〜。そういうことなら付き合ってやろう」

「助かる。ありがとう」

「うん。じゃあ、教室戻ろっか」

「だな」

 昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。



 放課後


「じゃあ、奈希ちゃん、楓雅くん、また月曜日ねー!」

「またな」

「ばいばーい!」

「……それじゃあ買いに行こっか」

「おう」

 詩葉ちゃんと正門で別れてから、私たちは服屋さんに向かって歩みを進め始めた。

 楓雅の顔、よく整ってる。綺麗。それにカッコいい。

「ん?俺の顔に、なんかついてるか?」

「……楓雅って結構イケメンだよね」

「き、急になんだよ」

「っあ!いや、なんとなく今、思った…だけ」

 今じゃなくて、本当は最初からずっと思ってます。

「……奈希だって結構可愛いじゃねえか」

「ち、ちょっと、やり返しのつもり?」

 か、可愛いって言われちゃった……これは本心?それともやり返しのためのただの冗談?

「いや、前々から思ってた」

 前から思ってたーーー!?それは反則でしょ!反則!

「ま、前からっていつから……」

「奈希って呼ぶようになってからぐらい」

 そ、それってほぼ出会った時からだよね!?

「それ、ほぼ最初からだよ」

「お前、モテるだろ」

「い、いや?全然?彼氏とかできたこともないよ?」

 半分嘘です……モテるのは確かにそうだったけど、みんな顔目当てで気持ち悪かった。告白も何回かされたことはあるけど、全員振った。

「嘘ついてる顔だな」

「彼氏はほんとにできたことないから!」

「じゃあ、モテはするんだな?」

「まあ、はい……ってなんでそんな気にするのさ」

 なんかすっごく罠にハマった気分。そんな私のこと気にしてどうするんだろう。

「なんとなくだ」

「?変なの」

「奈希は自分から彼氏作ろうとか思ったことないのか?」

「うーん、無いかな」

「彼氏欲しいとかも思ったことないのか?」

「ち、ちょっと待って。そんな聞いてくるとか、何か企んでる?」

 楓雅ってそんなに私の事情聞いてくるとかしないのに、急にどうしたんだろ。

「あ、いや、別に何も。ちょっと気になっただけだ」

「ふーん?」

 怪しい。

「ほんとは何か隠してるんでしょ。白状しなさい!」

「だ、だからちょっと気になっただけだって!」

 必死に楓雅が訴えてくる。そこまで必死だと逆に嘘っぽく見えちゃうよ。

「そんなに必死に言われたら余計に疑いたくなっちゃうよ」

「じゃあ俺はどうしたら良かったんだよ」

「うーん、嘘だって白状する?」

「だから嘘とかじゃねえって」

「あはは、楓雅らしくなくてなんか面白くなってきた。急に何を聞き出すのかと思ったら彼氏って、私が取られちゃったら悲しいからかな?」

「ま、まあ悲しいかもしれねえけど、別にそんなんで聞いたわけじゃない」

 か、悲しいか〜。私も楓雅が誰かに取られたら悲しいケド。

 ってそんなこと考えちゃダメだ私。

「そ、そっか。ほらもう着くよ」

「あ、ちょ、待てって」

 逃げるかのように私は先に店に入った。

「うーん、やっぱり楓雅は落ち着いた雰囲気のが似合うなあ」

 本当はどれ着ても似合うけどね。ただの私の好みですっ。

「奈希が言うんならそうみたいだな」

「じゃあ、ちょっと待ってて!私選んでくる」

「俺も行くぞ。そんな一人で選ばせるのは流石に申し訳ない」

「そう?私は大丈夫だけど。なんかファッションショーしてる気分で楽しいよ?」

「俺は着せ替え人形か……」

 だってどの服着せても似合うんだよ?そんなの楽しくなるに決まってるじゃん。

「じゃあ、早く選びに行こ?早くしないとお店閉まっちゃうし」

「分かったから引っ張るな」

「早く早く〜!」

「はいはい」

 その後も私は楓雅の服を選び続け、気がつくともう閉店時間が迫っていた。

「おい、奈希。そろそろ会計済ませて帰ろうぜ」

「もう終わりかー。楓雅のファッションショー良かったんだけどなあ」

「別にいつでも来れるだろ。買ってくるから店の前で待っといてくれ」

「はーい」

 そう言われた私は店の前で待つ。

「はぁ……」

 いつ兄妹と打ち明けるべきかまだ悩んでいる。最初に言えば良かった話なのに。

 でも今それを考えても意味がない。過ぎたことだから。

「奈希、お待たせ」

「ん、おかえり」

「……なんだその手は」

「ぎゅーの手」

「抱きしめろと?」

 私は黙って頷く。

「……ちょっとだけだぞ」

 そっと楓雅が抱きしめてくる。

『……』

「……もういいだろ」

「もうちょっと」

『……』

「……満足!」

「も、もういいか?」

「うん、満足!じゃ帰ろ?」

「お、おう」

「なんで、その急に?」

「なんか寂しかったから?」

「そ、そうか」

『……』

「なんか悩みあったら言えよ。じゃあ俺はこっちだから。おやすみ」

 悩みが言えたらいいんだけどね……

「うん、おやすみ」

「……もう一回しとく?」

「いや、死ぬからいい」

「え?どゆこと」

「まあそういうことだ。また月曜日な」

「あ、うん…?じゃあね?」

 死ぬってどういうこと?

 まあいっか、ぎゅーってしてもらえたし♪


 帰宅後


「あー!私何してるんだー!好きになっちゃいけないとか言って自分から好きを加速させちゃってるよぉ〜!」

 バカバカバカ!如月奈希のバカ!

 その場の勢いで?ぎゅーしてって言ったらしてもらえただけだし?決して自分の意思じゃないから、

「って良くないわあ!」

 あれは完全に自分から行ってました。ぎゅーしてくださいって。

「すごく反省」

「うーん、どうしよう。ずっと一人で悩んでても一生解決できない気がする」

 詩葉ちゃん……

「あ、詩葉ちゃんがいるじゃん!」

 温泉旅行の時にちょっと相談してみよう。一人で悩み抱えてたらおかしくなっちゃうし。楓雅は悩みがあったら言えって言ってたけど、流石に楓雅にこの話はできないし……

「今日はとりあえず、寝る!」

 私は布団に飛び込んだ。

「楓雅にぎゅーしてもらっちゃった〜♪えへへ〜♪」


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