第20話 告白

 七月二十七日 水曜日 大崎楓雅


「告白まであと二時間か……」

 今日こそは奈希に自分の想いを伝える。

 温泉の時はひよってしまった。

 だが、今の俺は違う。覚悟を決めている。

「今日は会ってすぐに言おう」

 この前の反省点はすぐに俺が言い出せなかったことだ。結局そのせいで言うタイミングなく、時間だけがすぎてしまった。

 今日はその反省を活かす。

「やっぱり緊張するな……」

 今日はいつにも増して独り言が多い。

 そりゃそうだ。何か口に出していないとおかしくなりそうなぐらいには緊張しているからな。

 そうだ。服装はバッチリ決めておかないと。やっぱり身だしなみは大事だからな。

「服はとりあえずこれで」

 この前、詩葉と一緒に選びに行った服と奈希に選んでもらったズボンとを組み合わせてみることにした。これがまた結構良い。

「髪の毛のセット……」

 実を言うと、人生で髪の毛のセットというものをしたことがない。した方がいいのだろうか。

 いや、下手のことをして失敗した状態で行く方がダメだな。やめておこう。慣れないことはしない方がいい。



 そして、ついに展望台へ向かう時間となった。

「荷物は手ぶらでいいな」

 服装よし。髪の毛よし。問題ないな。

「よし、行こう」

 俺は覚悟を決め、家を飛び出した。

 いつもの展望台への道のりとは違って、今日の展望台への道のりはより一層長く感じる。

 そうして長い長い道のりを歩き続け、ついに奈希の待つ展望台が見えてきた。

「多分、奈希はもう来てるよな」

 着いたらもうそこには告白する相手がいる。

「……行こう」

 俺は勇気を振り絞り、展望台へ直接つながる道を進み始める。

 一歩一歩、ゆっくりと歩みを進める。

「あ、楓雅……」

「お待たせ」

 奈希の元へ、ゆっくりと進む。

「その、伝えたいことって……?」

 そして、目と目を合わせて俺は言う。


「好きだ」


「あっ…………」

「そ、その……私も好き……好きだけど、大好きなんだけど、本当にその気持ちは嬉しいんだけど、本当に、本当にごめん!」

「お、おい……」

 走り去って行く奈希を俺はただ眺める。

「好きだけど、ごめんってなんなんだよ……」

 振られた……のか?

 いや、でも好きって言ってたよな……

「クソ!追いかけろってか」

 そう思った時には、すでに俺は走り出していた。

「はぁ…はぁ…」

 あいつはどこに行ったんだ……!検討のつく場所と言えば……

 やっぱり自宅か。

 そう考えた俺はすぐに方向を変えて走り出す。

 普通ならストーカーだとか言われるかもしれないが、今回は訳が違う。

 あの意味ありげな言い方はなんだったんだ……教えてくれよ、奈希。

 どうして泣きながら振ったんだ?

 やっぱり何か困ることがあるのか……?

 教えてくれ……頼む……

 そうして俺は奈希を探してがむしゃらに走った。

「っ……!引きこもりにはなかなか厳しいな……」

 体力のある限り俺は走る。

 どうしても俺はあの言い方が引っかかる。

『大好きなんだけど、本当に、本当にごめん』

 好きなのに振る理由は俺には思いつかない。もしかしたら俺を傷つけないためなのかもしれないが……

 だけど以前、俺は一人で奈希が泣いているのを見てしまった。

「どこ行きやがったんだ……」

 奈希の家までやって来たが、どうやらいないみたいだ。

「他をあたるしかないな」

 ここは友の力を借りよう。

 俺はスマホを取り出し詩葉に電話をかける。

「ごめん詩葉、今大丈夫だったか?」

「うん、大丈夫だけど、急にどうしたの?告白するのに怖気付いちゃった?」

「いや、そうじゃない。告白はしたんだ」

「もしかして……振られた?」

「そう言いたいところなんだが、どうもそうではないっぽいんだ」

「というと?」

「逃げられた」

「わお」

「あいつ曰く『大好きだけど、本当に、本当にごめん』とのことなんだが、これだけだとただ俺を傷つけないために友達として好きって言ってると解釈できるんだけど」

「うんうん」

「この前、奈希が一人で泣いてるところを見たんだよ。それが何か関係してるのかなと思ってな」

「これ……言っていいのかわからないけど、言うね」

「な、何か知ってるのか?」

「うん、この前奈希ちゃんに相談されたんだ。私はどうしたらいいんだろうって」

「どういうことだ?」


「奈希ちゃん曰く、二人は血の繋がった兄妹らしい……」


 え……?なにを言っているんだ?俺の聞き間違いか?

「ちょっと待て、もう一回言ってくれ」


「楓雅くんと奈希ちゃんは血の繋がった兄妹らしい」


「聞き間違いじゃなかった……」

「私も詳しいことは聞いてないけど、そういうことらしい。黙っててごめん。言って良いのか分からなくて」

「詩葉は悪くない、謝らないでくれ。にしても俺と奈希が兄妹……?だとしたらどうしてあいつはここに引っ越してきたんだ?どうして兄妹なのに俺はあいつのことを知らなかったんだ?」

「ごめん、そこまでは分からない」

「そうだ、あいつの行きそうな場所、分かるか?」

「奈希ちゃんの行きそうな場所を聞いてどうするの?」

「追いかける」

「ダメ」

「どうしてだ」

「多分、気持ちの整理がついていないから」

「けど……」

「大丈夫。きっと向こうから連絡が来るはず。だって奈希ちゃんも楓雅くんのことが好きなんだから」

「そ、そうなのか?」

「うん。だからそっとしておいてあげて。楓雅くんの気持ちもすごく分かるけど、焦っても解決できない話だと思うから」

「そうか……そういうことなら、分かった」

「とりあえず切るね。また何かあったらいつでも連絡して」

「ありがとう。詩葉には助けられてばかりだな」

「いいよ、気にしないで。それじゃあ」

「おう」

 電話の切られる音がする。

「俺と奈希が兄妹…………」

 正直、気持ちの整理がつかない。というよりは本当に訳が分からない。

 確かに、本当に兄妹なんだとしたら告白されたら困る。

 そして今、俺たちはお互いに好きだ、おそらく。

 一度整理してみよう。焦って考えてもダメだ。

 まず俺と奈希は実の兄妹。そして俺たちはお互いに異性として好きだ、おそらく。となると、奈希がこの前一人で泣いていた理由は、実の兄妹を好きになってしまった罪悪感とでも言えるだろうか。そのような感じだろう。

「一旦家に帰ろう……」


 帰宅後


「大変な事実だな……」

 驚きだ。おそらくあの感じだと実の兄妹だというのは本当なんだろう。つまり、俺たちはお互いに実の兄妹を異性として好きになってしまったということ。

「どうしたものか……」

 俺は一体どうすればいいんだ……



 帰ってからも俺はひたすらに奈希との関係について考え続けた。

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