こんな理不尽な世界で幸せになれるわけがない。

仁鳳

如月奈希という転校生。

 俺は幼い頃からこの常富島つねとみじまに住んでいる。しかし俺は幼い時に両親を亡くした。幼すぎて両親の顔も声もほとんど覚えていないが。

 その後、同じ島に住む祖父に引き取られたが、その祖父も俺が小二の時に他界した。

 それからというもの、俺の目には幸せになりたいとか言ってる奴がすごく馬鹿馬鹿しく映る。


「どうせ、こんな理不尽な世界で幸せになれるわけねぇよ」


 今日も俺はそんなことを口ずさみながら学校へ行く準備をする。

「もう慣れたもんだな」

 俺は高校生になってからは一人暮らしをしている。もうかれこれ一年ちょっとはこの生活をしている。料理から掃除、洗濯も全て自分で、だ。もちろんバイトもしている。じゃないと生活が持たないからな。

 高校へは国からの補助金でなんとか通えている。

「ま、行っても寝て飯食って帰るだけなんだけどな」

 俺には友達がいない。自分で言うのもあれだが、こんな捻くれた性格のやつに自ら話しかける馬鹿なんていないだろう。

「そいじゃ行きますか」

 今日も俺は退屈な学校へ向かう。


 学校に着いて早々に俺は自分の席へ行き、突っ伏す。これが俺のルーティーンだ。

 そうやって寝ていると朝のホームルームが始まる。

「今日は転校生が来ています」

 教師がそう言うとその転校生とやらが入ってきた。

 ガラガラっとドアが開く。


「初めまして。如月奈希きさらぎなきと言います。よろしくお願いします」


 皆が拍手をする。だが俺は依然と突っ伏したままだ。

「じゃあ如月さんはあそこの席ね」

「はーい」

 どうやら如月というやつの席は俺の前らしい。まあ、どうせ関わることはないだろうけどな。

 そうこうしているうちに1時間目のチャイムが鳴り、皆が席に戻る。

「起立、例」

『よろしくお願いします』

「着席」

 授業前のルーティーンが行われ、いつも通り授業が始まる。

 と思っていたのだが、

「じゃあ今日は前後でペアを作って話し合おうか」

 俺にとっては一番最悪なペア作りのパターンだ。何せ一対一だから何か話さないといけない。

 しかもよりによって今日来たばかりの転校生と、だ。最悪だ。

 色々考えているうちに例の如月というやつが話しかけてきた。

「あの」

 俺は黙って顔を上げる。

「あの、お名前はなんというんですか?」

「俺か」

「はい、そうです」

大崎楓雅おおさきふうが

 俺は素っ気なく言うとまた机に突っ伏す。

「大崎…」

 俺の苗字をポツリと言ったような気がした。

「あの…!大崎くんはずっとこの島に住んでいるんですか?」

 俺は少し驚いた。大抵はさっきの態度を出したら諦めて会話をやめるからだ。

「ああ」

 俺はまた素っ気なく返す。

「そうなん…ですね」

 そう如月は言い、この後は特に会話も無く授業は終わり、二、三、四限が過ぎ、昼休みに入った。


 俺は昼休みになるといつも屋上へ続く階段で飯を食う。

 理由は人通りが少ないからだ。ここなら誰とも関わることもない。

 いつものように俺は昼飯を食い、少し休憩する。

 ぼーっとしていると下の方からこつこつと音が聞こえ、俺は振り返った。

 そうするとそこにいたのは、


 如月...?何しに来たんだ?


 なんでこんなところに来たのかは疑問だが特に害はないだろう。そう思い俺は体の向きを直した。

「あっ…お邪魔でしたか…?」

「別に」

 少しの沈黙が流れる。

「…大崎くんはいつもここで昼休みは過ごしてるの?」

「悪いかよ」

「ううん」

 そう如月が言いしばらく沈黙が続く。

 気まずくなった俺がそこを立ち去ろうと思った瞬間、


「一緒に幸せを探しませんか?」


 ……何を言っているんだこいつは。

 よく意味のわからなかった俺は無視して立ち去ろうとする。

「あ!ちょっと待ってください!お話だけでも…!」

 如月が必死に引き止めてくる。

 鬱陶しくなった俺は少し強めの口調で言った。

「一体幸せを探すってなんなんだよ。ちょっと意味わかんねぇよ」

「だって大崎くん、教室に入った時から思ってたけど、不幸オーラがすごいんだもん!」

 こいつストレートに言ってくるな。失礼なやつだ。

「お前失礼だなとは思わないのか」

「あっ!そんなつもりは…」

 ちょっと部の悪そうに如月は目を逸らす。

「…もう行っていいか?」

「ちょっとだけ話させてくれませんか?私の事」

 そう言うと俺が返事をする間もなく如月は口を開く。

「私、友達できた事ないんです。一回も。実は両親も幼い頃に亡くしてて…」

 如月は少し悲しげな表情を浮かべる。

「……そんなこと、ほぼ初対面の俺に言ってしまっていいのか?」

 俺は少し驚きつつも聞いた。

「あなたからも同じオーラがしますからね!」

 あの悲しい表情とは裏腹に元気そうだ。

「そのオーラが〜って言うのやめろよ。失礼だぞ」

 少し間をあけて俺は言う。

「ま、間違ってはないがな。実は俺も親亡くしてんだ。小さい時に。それも声も顔も覚えてないくらいには小さい頃だ」

 つい口走ってしまった。こいつにこんなこと話すべきではないだろうに。

「やっぱり。この私にかかればそんなのお見通しですよ!」

「だからさっきからお前失礼だな!そんなに俺が不幸そうに見えるかよ!」

 こいつやっぱり失礼だ。それも度がすぎてるレベルで。

「でもその様子だと意外と元気だったりして」

 如月はちょっと笑みを浮かべていた。そんなに俺が面白いかよ。不愉快なやつだ。

「大崎くん。私にこの島を案内してくれない?全然面白いところとか知らないからさ。大崎くんずっとここに住んでるって言ってたし、暇そうだから知ってるよね?」

 こいつ結構グイグイくるな。近い。

「その暇そうだからってのは余計だろ。あと俺は外あんま行かねえから面白い場所も知らんぞ」

「それでもいいの!一つぐらいあるでしょ!」

 期待の目で見てくる。

「本当に知らねえって!そんな期待する目で見てくんな!」

「とりあえず今日放課後は一緒に帰ろ?それぐらいならいいでしょ!」

 なんでそうなるのかはちょっとよくわからない。

「なんで俺がお前と…」

「どうせ一人で帰るんでしょ?」

 まじでムカつく。なんなんだこいつは。

「ああそうだよ。悪いかよ」

「じゃあ決まりだね!帰りのホームルーム終わったらまたここに来るから、逃げないでちゃんと来るように!」

 なんでもう一緒に帰ることになってんだよ。あとなんで命令口調になってんだ。

「そんな言い方されたら俺も黙って帰れねえよ!クソ…」

 あと、期待の目がすごかった。

「じゃ、また後でね〜」

 ルンルンしながら如月は階段を降りていった。

「なんで俺がこんなことに…」

 俺は半ば強制的に約束させられ、一緒に帰ることになってしまった。

「そういえば結局、あいつの『幸せを探しませんか』ってどういう意味だったんだ…?」

 話が少しそれてしまっていたようだが、まあいいか。


 俺はあれこれ思いながらも教室へ戻り、いつものように突っ伏した。


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