第三十三章

 アレンは大学在学中にブルートパーズにギタリストとして正式に加入することになった。

ヴォーカリスト以外は気さくでアレンを歓迎した。

「現役の学生なんざ勉強に忙しいだろうがよぉ~活動できるのかぁ?」

そう毒づき、アレンとも他のメンバーとも打ち解けようとしなかった。 

協調性はないけど、それでも安定感ある歌唱力でバンドを引っ張っていた。

だが、ステージを、すっぽかすことが多くなってきて、大手のレコード会社との契約の日にも現れず話がなくなってしまった。


「よお~久しぶりだな~今日は歌うぜ」

悪びれもせず、ライヴ会場に現れた。

「…サム、あんたのせいでレコード会社の契約がなくなったんだ。みんなに何か言うことあるだろう?」

ロバートが、怒りを抑えながら言った。

「は?俺のせいかよ?」

「他に誰がいるんだよ。あんたが来なかったから、なんだぞ」

ロバートが、かなり怒りを抑えているのが端から見ていても解った。

「面倒くせぇな~。本当に魅力あるバンドなら俺が来なくたって契約成立しただろうがよ」

ドカッと椅子に座りロバートを見上げた。

「そういう問題じゃない。メンバー全員揃っての契約だったんだ。サム、今日のステージが終わったら今後のことを話し合おう」

「はいはいはい。ったく本っ当に面倒くせぇな~」

ロバートが背中を向けて拳で壁をドンッと音を立てて叩いた。

楽屋の雰囲気が険悪になった。

不意にドアが勢いよく開いて、スーツ姿の厳つい男性が三人入ってきた。

「警察の者だが、この中にサム・ヘルナンデスはいるか?」

「俺だけど~」

サムがヒラヒラと手を振った。

「女性を監禁して乱暴しただろう。逃げ出した女性から被害届けが出ている。同行してもらおうか」

「え~?何~?あの女逃げちゃったのか~しばらく性処理で飼っておこうと思ってたのによぉ残念」

ヘラヘラと笑いながらサムは立ち上がった。

「認めるんだな?」

「だって女逃げちゃって俺がやったことアンタ達にチクッてバレたんだろぉ~へへへっ」

サムは、青ざめてドン引きして自分を見つめているメンバー達を見渡した。

「それじゃ、ブルートパーズの皆さん、俺ちょっと警察行ってくるから~今日歌えないけど、あとよろしくな~。おい、刑事さん掴むなよ~おとなしく同行するからよぉ」

サムは手錠をかけられ連れて行かれた。

「いや、サム、お前はクビだ!」

ロバートが怒鳴った。

「ケッ!なんだよ~」


ライヴ出演直前にヴォーカリストが逮捕されブルートパーズは出演辞退せざるを得なかった。

その上、当日のドタキャンで会場側から向こう一年間、出場停止と言い渡された。

プロの人気バンドも利用する大きな会場でのライヴで、他の大手のレコード会社関係者が大勢観にきているから、オファーの可能性だってあった。

それなのにメンバーの逮捕?

アレンは茫然としていたが、

ガターン!

大きな音がした。

テーブルがひっくり返されている。

「アレン、一緒に止めてくれ!」

スティーブが暴れるロバートを抑えているのが目に入った。

「よせ!ロバート、楽屋の物を壊したりしたら俺ら一年間どころか永久出場停止だぞ」

アレンがロバートに声をかけた。

スティーブに抑えられていたロバートがヘナヘナと床に倒れ込んだ。

シン、となった楽屋にロバートの嗚咽が響いた。

全員、泣きたい心境だった。

「とにかく、このまま居ても出演はできない。今日は帰ろう」

スティーブがテーブルを直しながらポツリと言った。

幸い、ライヴが始まっていて、この騒ぎで会場側のスタッフは誰も駆けつけて来なかった。


駐車場に着いたが皆、演奏できずに帰るのが本当に悔しくて誰も一言も発することが出来なかった。


「どうしたの?ブルートパーズが出演辞退したって聞いたから驚いて楽屋に行ったけど誰も居なかったから、急いでここに来たのよ」

ロバートの妻のマリアと、スティーブの彼女のクラウディア、そしてミシェルが心配して駐車場に駆けつけてきた。

「うん…」

アレンは、それ以上何も言えずに無言でミシェルを抱きしめた。 

「アレン、大丈夫?」

ミシェルが、よろめきながらアレンを支えた。

「…大丈夫じゃない」

アレンは呟き答えた。

グッタリだった。

今まで生きてきて、これほど打ちのめされた気持ちになったのは初めてだった。


翌朝、アレンは自分が住んでいるアパートの部屋で目を覚ました。

どうやって家に帰ってきたのか思い出せな…いや、ミシェルが車で送ってくれたんだ。

今日、彼女は授業があるのに夕べ一晩一緒に過ごしてくれた。

ミシェルが作っておいてくれたサンドイッチを頬張った。

昨日、出演できなかったことは悔しいけど、サムの態度には皆が困っていたし、これで良かったのかもしれない。

またヴォーカリストを探そうってロバートは言うだろう。

それにキーボードも入れたいとロバートは言っていた。


シャワーを浴びてサッパリしたところで携帯にロバートからミーティングを知らせるメールが届いた。

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