彼の音 ブルートパーズ another story
玉櫛さつき
第一章
二階建ての木造の家は突然ピシピシとプラスチックが割れるような音をたてながら家の外観に皹を走らせ、地震で倒壊するように大きく揺らめいた。
「ソフィア!アレン!」
庭に居てキイチゴの出来を見ていた家の主のジム・ヴァーノンは妻と息子を倒壊寸前の家の中に駆け込むと中から連れ出すことに成功した。
と、殆ど同時に、
ゴゴオ───ンという轟音と共に地響きと砂埃をたてて家は倒壊した。
砂埃が舞い上がり、一家全員、しばらくは咳き込み、埃だらけになった。
「二人とも怪我はないか?間一髪、だったな…それにしても地震…か?」ジムは周りを見渡した。
100メートルほど先にある隣家には何も起きていないようだ。
うちだけなんだろうか?ジムは遠くに見える隣家を見渡した。
「…ごめんなさい…あなた」
妻のソフィアが息子の肩に手を置き俯いたままボソッと呟いた。
ジムは泣き出した妻に顔を向けた。
「ソフィア、まさか…?」
「そうよ、ごめんなさい…私、アレンに何か音楽の才能があったらって望むあまりに…ううっ」
「何をさせたんだい?」
ジムは泣きじゃくる妻の肩に手を置いて抱き寄せ聞いた。
この国で生まれた子供は何かしらの音楽の才能を持って生まれてきて、それは早くて三歳、遅くとも十二歳くらいまでには開花する。
子供自身が何をしたいのか目覚め本人が望んだら親は全力でサポートをする。もし目覚めた本人の才能が親譲りじゃなかったり気に入らなかったとしても、それを歪めて強制的に他を目指させたりすれば厳罰に処されるのだった。
もちろん音楽の才能が無いとしても各分野で子供達は、それぞれの才能を開花させて飛び立っていく。
アレンは十一歳になったばかりだった。
クルクルした濃いベージュ色の巻き毛に綺麗な茶色い目をしている。
ジムは倒壊した家を呆然と眺める息子の頭に、そっと手を置いた。
「ソフィア、アレンに何をさせたんだい?」
「わ、私…オルガンで演奏してアレンに歌ってみてもらったの…そしたら…ううっ」
ソフィアは再び激しく泣き出した。
つまり、アレンの歌声が家を倒壊させたのか…この子は歌以外の分野だろうな。
それとも音楽の才能は持っていないのかもしれない。
ジムは倒壊した家を眺めながら考えた。
「パパ…」
アレンが父親を見上げた。目には涙が浮かんでいる。
「うん?」
ジムは微笑み息子に顔を向けた。
「僕が歌ったから家が壊れちゃったの?ごめんなさい…」
涙を流す息子の髪をジムは優しく撫でた。
「ママが試しに歌わせたからよ。アレンは何も悪くないのよ」
ソフィアが口を挟んだ。
ジムはため息をついて空を見上げてから倒壊した我が家を見た。
十一歳になっても音楽の才能の開花の兆しが見えない息子に焦るソフィアの気持ちも解らなくはない。
だが、それは授かり物だから親サイドが焦ったところで、どうしようもないことだった。
アレンに音楽の才能が無くても別の分野で活躍するだろうし。
ただ、妻のソフィアとしてはアレンに音楽の才能を持っていて欲しいようだ。
このことは何回も話し合ったけどソフィアはアレンに音楽の才能の開花を望み続けていた。
「ソフィア、何度も言うけど…私たち親が焦ったところで何も出来ないんだよ。辛抱強く待つしかないんだよ」
ジムは妻の肩を、もう一度優しく抱き寄せた。
ソフィアは頷いた。
家が倒壊したのには、さすがに堪えたたようだった。
まぁ倒壊した家は保険で何とかなる。
幸い、アレンの学校は夏休みの最中だし家を建て直している間に実家に行ったり家族で旅行にでも行こう。
とりあえず、今夜は地元のホテルにでも移動して宿泊しよう。
その前に全員、埃だらけなのを、なんとかしなくては。
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