第二章

 夏休みが終わる少し前にヴァーノン邸は再建築を終えた。

以前住んでいた家とあまり変わらない設計だった。

アレンは庭に出て何をするでもなくベンチに腰かけて空をぼんやり見ていた。

「アレン、おはよう!」快活に声をかけてきたのは隣家に住んでいるアレンの同級生のミシェル・コナリーだった。

柔らかでまっすぐな茶色い髪を肩で揃えていて髪色と似たような目の色をしている。

「ミシェル、おはよう」

アレンは立ち上がってミシェルの傍に行きながら挨拶を返した。

ミシェルは木製の低い塀に肘を付いた。

「ねぇアレン、お家建て直していたでしょう?その間、何処に行っていたの?」

午前中の柔らかな日差しが木漏れ日となってミシェルに優しく降り注いでいる。

「うん、ほとんどパパの方のおばあちゃんの家に行っていたんだ」

せっかくクラスでも人気者で委員長もしているミシェルが来てくれたのにアレンの気持ちは晴れなかった。

パパは気にしなくていいと言ったけど…ママは僕に音楽の才能の開花を望んでいるし…でも、そんな兆しは一切見えてこない。僕は、何がしたいって思うようになるんだろう…。

そんな思いで、いっぱいだった。

「アレンってば!ねぇ、聞いてる?」

ミシェルがアレンの袖を掴み引っ張った。

「ああ、ごめん、何?」

アレンは我に返った。

「ぜんぜん聞いてなかったのね…今日、用事なかったら、これからパークタウンにキャラメルポップコーンを食べに行かない?って言ったのよ」

ウジウジ悩んでいても開花するワケじゃないし…気にしても仕方ない。キャラメルポップコーンはクラスでも話題になっている。夏休みは残り僅かだ。

「うん、行こう!パパに言ってくるから少し待ってて」アレンは家の中に入っていった。


出来立ての温かいキャラメルポップコーンをミシェルと一緒に食べながらアレンはパークタウンを歩いた。


様々な店が建ち並び、二人はショーウィンドウ越しに店を見ていた。

ミシェルは雑貨屋のショーウィンドウ越しに子供用に作られた赤いプラスチックのハート型の石が付いた指輪を見て、はしゃいでいた。

「可愛い~!」

アレンもショーウィンドウを見た。

女の子って指輪とかアクセサリー、好きだよな…でも、このシンプルな指輪、ミシェルに似合いそうだな。

ボンヤリ考えるアレンの耳に何処かの店でかかる音楽が聞こえてきた。

何処から聞こえてくるんだろう…アレンは音楽の出所を探した。

3件ほど先にある中古レコード店から、その音楽は聞こえてきた。

アレンはフラフラ引き寄せられて店の前にきた。

「待ってよアレン」ミシェルが小走りに追いかけてきた。


中古レコード店の中では、ハードロックバンドのオフィシャルビデオの映像が音楽と共に流れている。

金色の髪を長く伸ばした男性がエレキギターを弾いている。カッコいい!アレンは夢中でビデオの映像を見た。

「ねぇ、アレン…もしかして」アレンの様子を見たミシェルが言いかけるとアレンはミシェルに笑顔を向けた。

「うん、僕ギタリストになりたい!」アレンは力強く言った。

「やったあ!」

アレンが悩んでいたのを知っていたミシェルは笑顔になりアレンとハイタッチを交わした。

アレンとミシェルは乗ってきた自転車に跨がると文字通り飛ぶように家に向かった。

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